全てのレビュー

第一部読了時点でのレビューです。
本作は第一話から独特の世界観が展開され、その中でも主人公である柏さんの狂気的な言動が目を引くかと思います。
しかしながら、それは本作の世界に踏み込むための一つ目のフックに過ぎません。
読み進めていくうち、柏さんを初めとした狂気的な言動、思想を持つ人物達の輪郭が明確になっていきます。
あるときは常識的な思考と行動を持つ人物との関わりによって、またあるときはやはり同じような狂気を抱える人物との邂逅によって。柏さんが持つ狂気の輪郭がより色濃く浮かび上がっていくのです。
そしてなにより、その狂気の輪郭が明確になるにつれて読者が把握できる「正気と狂気の境界線」の描き方が非常に秀逸です。
たとえどんなに狂気的な言動や行動を繰り返そうと、ただそれだけが連続すればやがて慣れ、狂気も平凡な思考に堕してしまいます。
しかし本作では、狂気と対になるように正気的な世界観、思考、行動も丁寧に描くことで、正気と狂気、その双方を際立たせることに成功しています。
私はその点こそが本作の最大の魅力なのではないかと感じました。
ぜひ皆さんも、まるで細い一本の綱の上を渡るような狂気と正気の狭間の世界を体験してみてはいかがでしょうか。
お勧めです。
このレビューにはネタバレがあります。

伏線らしきものが匂わされるのだが、本質はもっと深く『やばい』ものが横たわっていると気付かされる。
最初は主人公と思しき少年の名前がタイトルに含まれない意味も、ある程度読むと判明していくが、美しい少女の狂気としか見えない願望と言動には、読み進むと納得しかない動機がしっかりと存在している。
そして、「つまりどういう事なのだ?」と思い出したら最後、最新話迄ページを進めさせてしまう筆力もお見事。サスペンスであり、ヒューマンドラマだが、心理描写は群像劇と言ってよいほどに書き分けもされている。
読んで損はない、むしろ読まないと損する気鋭のサスペンスである。ぜひおすすめ!
このレビューにはネタバレがあります。

たった1人の女の子が持つ、狂気的な願望が周囲の人間を狂わせていくサイコ・サスペンス。
『狩られたがっている女の子』柏恵美がその願望の思うがままに、『彼』に殺されるため行動する度に、どこにでもいるような普通の人間ですら狂っていく様は恐ろしい。
例えるのなら、凶悪な感染症ウィルスのようなヒロインだ。
その狂気にスポットライトを当て続けるこの作品は、ある程度読み進めるまで『普通の思考』では理解し難いかもしれない。
だが、彼女の狂気を理解してしまった時、その指は次の話を読むのを止めることが出来なくなるだろう。
万人にオススメ出来るとは言えない作品だが、我こそが『狂っている』――或いは、『間違いなく健常だ』と自負する者が居るのなら、是非とも読んでもらいたい。
――もっとも、読み終えた後もその思考を保っていられるかは保証しかねるが。
続きが非常に楽しみであり、同時にこのまま狂気を加速させていくことが出来るのか想像もつかない作品である。
このレビューにはネタバレがあります。