※打切※ 機甲遊戯アーカディアン

Mech Game Arkadian
天城リョウ
天城リョウ

未来はまだ決まっていない

公開日時: 2021年3月11日(木) 06:56
更新日時: 2021年3月23日(火) 13:01
文字数:2,500

「えっと……」


たちばなくん?」



 さくが口ごもっていると、輝いていたりっの顔が陰りだした。それが、つらくて。でもどうしたらいいかさくは分からなった。



「わたし、また間違えた……?」


「ううん、そんなことは!」


「わたしが同じ職場にいちゃ、迷惑?」


「そこじゃないんだ! 僕もゆきさんと同じ仕事に就いて、職場でもずっと一緒にいられたらいいなって思うよ。でも、こうどうの選手になるかは、まだ決められなくて」



(これ、もう告白も同然じゃ)



 言いながらさくはそう思ったが、そこを誤魔化すために言葉を選ぶ余裕はなかった。りっは『ずっと一緒に~』の辺りで口許を緩ませつつ、怪訝そうに首を傾げた。



「まだ?」


「現状、分かってる範囲では、機甲道の選手に一番なりたいよ。でも、それよりなりたい職業ができたら、そっちを目指したい。それができるか総帥に訊きたいんだ。それまで待ってくれる?」


「うん、待ってる」



 りっはニコッと笑ってくれた。さくは胸を撫でおろし、総帥のほうへ向きなおった。視線が合うと、総帥は鷹揚に頷いた。



「なんでも訊いとくれい」


「ありがとうございます」



 総帥に開園前のこのロボット島園に招待されて【ロボット・カート】【こうどう】【こうゆうアーカディアン】と未公開の次世代ロボットコンテンツにふれさせてもらって。


 今日は間違いなく、これまでの人生で一番 楽しい日だった。ただ……そこに水を差してしまうのが怖くて考えないようにしていたが、本当はずっと気になっていた。



「アークは、兵器ではないんですか?」


「!」


「総帥は僕たちにアークのことを〔搭乗式人型ロボット〕だとは言っても、その最後に〔兵器〕とつけたことはないですよね」


「気づいておったか……」


「やっぱり……なぜです? 機甲道では安全なビームライフルやライトセーバーでをしてましたが、アーカディアンで装備してた銃とかの本物を持たせればが可能なんじゃ」


「可能じゃよ」



 総帥は軽い口調で認めた。


 だがその表情は、重たい。



「そして『なぜ』への答えじゃが……兵器として普及する目途が立っておらんからじゃ。兵器とは〔軍用の武器〕、その軍隊──この国では自衛隊じゃが──に使われる予定がないんじゃ」


「‼」



 嫌な予感が当たってしまった。


 さくはワナワナと震えてきた。



「どうして……さっき『法整備を調整中』って、日本政府はもうアークのことを知ってるんですよね?」


「ああ、知っておるよ。その政府とのやり取りの中で我が社は、自衛隊と警察にアークを導入してくれるよう売りこんだ……が、取りあってもらえんかった」


「そんな!」


「『ロボットアニメの見過ぎだ。現実と虚構を混同するな。人型ロボットなんて不合理な代物が実戦で役に立つはずないだろう』と言われたよ。前面投影面積がどうのこうのとゴチャゴチャと」


「ッ‼」



 人型兵器の有用性が多くの人間から疑問視されていることを、もちろんさくも忘れていたわけではない。


 有用と主張する者もいるが、ロボット作品の愛好者であっても『現実的には不合理だ』と考える者のほうが多い印象だ。


 ただ、これまでその議論は益体もない思考実験だった。戦える搭乗式人型ロボットが実在しなかったのだから。しかしアークができた今、現実問題として立ちはだかった。


 高い、壁。



「本当に、実戦では役に立たないんですか?」


「そんなことはない、と儂らは信じておるよ。じゃが先方には、機甲道を見せても納得してもらえんかった」


「そう、ですか……ありがとうございました」


「なぁに」



 さくりっのほうへ向きなおって、苦笑した。



「お待たせ、ゆきさん。もっとなりたいもの、できないっぽい。やっぱり機甲道の選手を目指すよ。一緒にがんばろう?」


たちばなくん……」



 りっの顔は晴れなかった。こちらを心配してくれているのだと分かる。見えないが、自分は今ひどい顔をしているのだろう。



「……」


「……」



 常磐ときわも沈痛な顔をしていた。


 りっが、ためらいがちに口を開いた。



たちばなくん、自衛隊のアーク操縦士になりたかったんだよね? もし自衛隊が、アークを導入してたら」


「うん。そういうこと」



 そして、リアル系ロボットアニメの主人公のように戦いたい。異世界ファンタジー系ロボットアニメの主人公のようになる夢はあきらめたが、そちらも昔から同じくらい強く願っていた。


 アークの登場で、叶うと思った。



たちばなくん──いわながくんも、『人がロボットに乗って戦う時代が訪れますように』って願ってたもんね。わたし、アークを見て、それが来たんじゃって思ってた」


「僕も。でも、来てなかった。仕方ないよ。それは残念だけど、これでゆきさんと進路、別々にならずに済んだし」


「んーん。それは違うよ」


「えっ?」



 ゆっくり首を振って、りっは微笑んだ。



「自衛隊がアークを導入して、たちばなくんが自衛官のパイロットになるとしたら、わたしもそうするよ」


「き、機甲道はいいの⁉」


「実機の魔法少女型アークに乗れるなら立場はなんでもいいの。それが複数あって、その中にたちばなくんと一緒にいられる選択肢があるなら、迷わずそこを選ぶだけ♪」



(これ、告白されてるも同然なんじゃ)



 さくは感激しつつそう思ったが、直接そういう話をされたわけではないので、そういう反応もできない。今、言えることは──



「あ、ありがとう!」


「うん! じゃあ取りあえず、これからは一緒にアーカディアンやろう? そして機甲道を目指して、選手になる前でも、なったあとでも、もし自衛隊の方針が変わってアークが導入されたら、そっちに転向しようよ」


「あ──」



 さくは霧が晴れた想いだった。


 もし自分が自衛官を目指すならりっとは進路が別れてしまう、自衛隊がアークを導入しないならそっちに進むことはない──と決めつけた自分と違って、りっの思考はなんて柔軟なんだろう。



「うん‼」


「あっぱれじゃ‼」


「「「「!」」」」



 総帥が急に大声を出した。



「儂らじょうりくグループも、アークの兵器化をあきらめてはおらん。絶対とは言えんが、そういう未来になる可能性はある。じゃから君たちは道を狭めず、その時々になりたいものになればよい‼」


「「「「はいっ!」」」」



 最後は無事に、明るい空気で。その日は解散となった。

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