「えっと……」
「立花くん?」
咲也が口ごもっていると、輝いていた六花の顔が陰りだした。それが、つらくて。でもどうしたらいいか咲也は分からなった。
「わたし、また間違えた……?」
「ううん、そんなことは!」
「わたしが同じ職場にいちゃ、迷惑?」
「そこじゃないんだ! 僕も名雪さんと同じ仕事に就いて、職場でもずっと一緒にいられたらいいなって思うよ。でも、機甲道の選手になるかは、まだ決められなくて」
(これ、もう告白も同然じゃ)
言いながら咲也はそう思ったが、そこを誤魔化すために言葉を選ぶ余裕はなかった。六花は『ずっと一緒に~』の辺りで口許を緩ませつつ、怪訝そうに首を傾げた。
「まだ?」
「現状、分かってる範囲では、機甲道の選手に一番なりたいよ。でも、それよりなりたい職業ができたら、そっちを目指したい。それができるか総帥に訊きたいんだ。それまで待ってくれる?」
「うん、待ってる」
六花はニコッと笑ってくれた。咲也は胸を撫でおろし、総帥のほうへ向きなおった。視線が合うと、総帥は鷹揚に頷いた。
「なんでも訊いとくれい」
「ありがとうございます」
総帥に開園前のこのロボット島園に招待されて【ロボット・カート】【機甲道】【機甲遊戯アーカディアン】と未公開の次世代ロボットコンテンツにふれさせてもらって。
今日は間違いなく、これまでの人生で一番 楽しい日だった。ただ……そこに水を差してしまうのが怖くて考えないようにしていたが、本当はずっと気になっていた。
「アークは、兵器ではないんですか?」
「!」
「総帥は僕たちにアークのことを〔搭乗式人型ロボット〕だとは言っても、その最後に〔兵器〕とつけたことはないですよね」
「気づいておったか……」
「やっぱり……なぜです? 機甲道では安全なビームライフルやライトセーバーで模擬戦をしてましたが、アーカディアンで装備してた銃とかの本物を持たせれば実戦が可能なんじゃ」
「可能じゃよ」
総帥は軽い口調で認めた。
だがその表情は、重たい。
「そして『なぜ』への答えじゃが……兵器として普及する目途が立っておらんからじゃ。兵器とは〔軍用の武器〕、その軍隊──この国では自衛隊じゃが──に使われる予定がないんじゃ」
「‼」
嫌な予感が当たってしまった。
咲也はワナワナと震えてきた。
「どうして……さっき『法整備を調整中』って、日本政府はもうアークのことを知ってるんですよね?」
「ああ、知っておるよ。その政府とのやり取りの中で我が社は、自衛隊と警察にアークを導入してくれるよう売りこんだ……が、取りあってもらえんかった」
「そんな!」
「『ロボットアニメの見過ぎだ。現実と虚構を混同するな。人型ロボットなんて不合理な代物が実戦で役に立つはずないだろう』と言われたよ。前面投影面積がどうのこうのとゴチャゴチャと」
「ッ‼」
人型兵器の有用性が多くの人間から疑問視されていることを、もちろん咲也も忘れていたわけではない。
有用と主張する者もいるが、ロボット作品の愛好者であっても『現実的には不合理だ』と考える者のほうが多い印象だ。
ただ、これまでその議論は益体もない思考実験だった。戦える搭乗式人型ロボットが実在しなかったのだから。しかしアークができた今、現実問題として立ちはだかった。
高い、壁。
「本当に、実戦では役に立たないんですか?」
「そんなことはない、と儂らは信じておるよ。じゃが先方には、機甲道を見せても納得してもらえんかった」
「そう、ですか……ありがとうございました」
「なぁに」
咲也は六花のほうへ向きなおって、苦笑した。
「お待たせ、名雪さん。もっとなりたいもの、できないっぽい。やっぱり機甲道の選手を目指すよ。一緒にがんばろう?」
「立花くん……」
六花の顔は晴れなかった。こちらを心配してくれているのだと分かる。見えないが、自分は今ひどい顔をしているのだろう。
「……」
「……」
常磐と小兎子も沈痛な顔をしていた。
六花が、ためらいがちに口を開いた。
「立花くん、自衛隊のアーク操縦士になりたかったんだよね? もし自衛隊が、アークを導入してたら」
「うん。そういうこと」
そして、リアル系ロボットアニメの主人公のように戦いたい。異世界ファンタジー系ロボットアニメの主人公のようになる夢はあきらめたが、そちらも昔から同じくらい強く願っていた。
アークの登場で、叶うと思った。
「立花くん──岩永くんも、『人がロボットに乗って戦う時代が訪れますように』って願ってたもんね。わたし、アークを見て、それが来たんじゃって思ってた」
「僕も。でも、来てなかった。仕方ないよ。それは残念だけど、これで名雪さんと進路、別々にならずに済んだし」
「んーん。それは違うよ」
「えっ?」
ゆっくり首を振って、六花は微笑んだ。
「自衛隊がアークを導入して、立花くんが自衛官のパイロットになるとしたら、わたしもそうするよ」
「き、機甲道はいいの⁉」
「実機の魔法少女型アークに乗れるなら立場はなんでもいいの。それが複数あって、その中に立花くんと一緒にいられる選択肢があるなら、迷わずそこを選ぶだけ♪」
(これ、告白されてるも同然なんじゃ)
咲也は感激しつつそう思ったが、直接そういう話をされたわけではないので、そういう反応もできない。今、言えることは──
「あ、ありがとう!」
「うん! じゃあ取りあえず、これからは一緒にアーカディアンやろう? そして機甲道を目指して、選手になる前でも、なったあとでも、もし自衛隊の方針が変わってアークが導入されたら、そっちに転向しようよ」
「あ──」
咲也は霧が晴れた想いだった。
もし自分が自衛官を目指すなら六花とは進路が別れてしまう、自衛隊がアークを導入しないならそっちに進むことはない──と決めつけた自分と違って、六花の思考はなんて柔軟なんだろう。
「うん‼」
「あっぱれじゃ‼」
「「「「!」」」」
総帥が急に大声を出した。
「儂ら常陸グループも、アークの兵器化をあきらめてはおらん。絶対とは言えんが、そういう未来になる可能性はある。じゃから君たちは道を狭めず、その時々になりたいものになればよい‼」
「「「「はいっ!」」」」
最後は無事に、明るい空気で。その日は解散となった。
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