なぁ……
昨日まで、夜ってちょっと肌寒かったんだぜ? 信じられないだろ?
汗だくだっ!
ものすっごく不快!
だくだくと流れる汗で、ベッドに敷き詰められたワラが首に張りつく。
さすがに気持ち悪くて、まだ眠いにもかかわらず起きてしまった。あぁ、朝シャンしたい。
窓に嵌め込まれた木の窓を開放するも、風は吹いておらず、むわっとした熱気が舞い込んでくる始末だ。……湿気が多いせいだな。日差しがないのに暑過ぎる。
砂時計を見ていないので正確には分からんが、おそらく四時前だろう。階下から美味そうな匂いが漂ってきていない。
……と、耳を澄ますとじゃぶじゃぶという水音が聞こえてきた。……一体なんだ? なんて、もったいぶる必要もない。
ジネットが中庭で何かをしているのだろう。
まだ頭はボーっとしているが、二度寝も出来そうにない。
俺は諦めて起床することに決め、ジネットのもとへ向かうことにした。
「ふぉっう!?」
ドアを開けると、廊下にマグダが転がっていた。
ピシッとした気を付けをして、ボーリングのピンみたいに転がっている。
ドアを開けていきなりこれを目撃したら、誰だって驚くわ。すっげぇ低い声出ちゃったし。
「おい。寝るなら部屋で寝ろ」
「…………無理」
まぁ、廊下の方が幾分か涼しいと言えば涼しいが……誤差程度だが。
だからといってこんなところに転がっていては風邪を引きかねない。
「寝れないなら起きろ。ダラダラすると逆にしんどくなるぞ」
「……おんぶ」
「暑いから却下」
「………………お姫様抱っこ」
「俺も寝起きでダルいんだよ……勘弁してくれよ」
「…………仕方ない。起きる」
墓場から出てくるゾンビのように、もっそぉ~っとした緩慢な動きでマグダが起き上がる。
髪の毛がぼさぼさだ。そろそろ切ってやらなきゃな。
「あとでブラシやってやるな」
「……むふー」
「いや、まだやってねぇし」
「……思い出しむふー」
え、そんなんあるの?
まだまぶたが開かないのか、マグダは俺のズボンを掴んでフラフラと歩く。
……ジネットの前で躓いて、俺の下半身「ぷる~ん!」とか、マジで勘弁してくれよ。
「おい、マグダ。階段だぞ。ちゃんと目ぇ開けとけ」
「……む~」
まぶたをこすり、マグダは中庭へと続く階段の踊り場へと出る。簡単な手すりが設けてあるだけの、割と危険な階段だ。寝ぼけていると落っこちてしまいかねない。
しっかりとマグダを見ててやらないとな。
と、マグダをしっかりと見ている俺の前で――
「……とぉー!」
「「えぇぇぇぇえええっ!?」」
――マグダは特撮ヒーローばりの綺麗なフォームで踊り場から庭へとジャンプした。
下にいたジネットもそれに気付き悲鳴を上げる。
わたわたとするジネットの影。
どうやら、うまくキャッチしたようだ。
…………何やってんだよ、マグダ。
「おい! 二人とも大丈夫か?」
「は、はい。わたしは、なんとも。マグダさんは?」
「……頭から落ちても、この高さなら平気」
「こっちの心臓が平気じゃねぇっての」
少々乱暴に頭を掴みグリグリと撫で回す。ちょっとは反省しろ。
「………………むふん」
小さな「むふー」を漏らすマグダ。……褒めてんじゃねぇっての。反省しろよ。
「それにしても、お二人とも今日は早いんですね」
「あまりに暑くてな。寝ていられなかった」
「そうですね。今日は特に暑かったですね」
この暑さには、いつも平然とした顔をしているジネットも参っているようだ。
「今日は水着で営業したらどうだ?」
「無理ですよ」
にこやかに却下された。……ちっ。
「それじゃあ、普段のメイド服を着て、上から大量の水を……」
「ダメです」
またしてもにこやかに。
「でも暑いだろ?」
「猛暑期は暑いものです」
「だから、お客様のために、見た目から涼しさをアピールしてだな……!」
「諦めてください」
くっ……今日のジネットは一味違うようだ。押しても引いてもビクともしない。
「しょうがない。じゃあ、今日は特別に、普段通りの服装で営業をしよう」
「どのあたりが特別なんですか!?」
なんとも残念だ。
夏なら夏の装いというものがありそうなものだがな。
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