そう、流石のこのエリート天才美少女でもその選定試験とかいうのに何の準備もせずに、向かうほどバカじゃあないわ。というわけで軍階層のカリーナに会いにやってきました。任務とかで忙しいのに、私のためにほんとーに少しだけ、時間を作ってくれた!
何という、ああ何てお優しいこと。
「やあ、お待たせ。ナギ、じゃあ行こうか」
「はーい! よろしくお願いします!」
私はカリーナに連れられて、軍の中でも特別な人しか入れない、第一小隊が管轄しているとかいう、小さい円状のアリーナ?への通行許可をもらいました。
軍階層は何回か訪問してるけど、やっぱ迷うなあ。一人だと永遠とこの石のタイル道を繰り返す気がする、カリーナが隣に居てくれて心強し。
中央のエレベーターを中心に北側には工房に通じる通路と、大食堂。東側、てかエレベーターから近いところには柵で囲まれてる、主に候補生地区っていうのがある。私が本試験に受かったらこれる場所。その奥には軍の人達の寮とかがある。南側はまだ行ってない。そしてこの西側一帯は第一小隊とかお偉い士官殿が主に管理してる作戦司令室ってのがある。
石タイルロードを歩いていく。道の途中で所々に大きいテントが幾つかあるのが視界に入った。キャンプでもやってんのかね?歩きに歩いてようやく、その場所に辿り着く。
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重そうなゲートを開けると、なんていう神聖な場所なことだろうか。ここは、草木がほんの少しだけ地面のコンクリから生えていて、この階層の電球の光を取り込めるような突き抜けの天井。光が、まっ、眩しい。
「じゃあ、やろうか。フフフッ。私はそんなに甘くないぞ」
カリーナはそう言いつつ、首を左右に振りながらポキッ、ポキッという豪快な音を鳴らせる。
こっちも、それに合わせて、指をポキッ、ポキッと音を鳴らせる。
カリーナと私はお互いが距離を取って、円状の体格線上、つまりは端と端に並んだ。
「はい! よろしくお願いしますっ!」
「セット、相互リンク接続、出力安定!」
そうだ、この感じ。私のなかに感じる!鉄柱を!まずは、出力を安定させて、
「——えっ?」
カリーナが、既に私の目の前に、速すぎる!——全然見えなかった。
「どうした。戦場では、そんな考えている時間はないぞ」
「うぐっ!」
私はカリーナが持っていた長い槍型フレームの柄でお腹を押された。少ししか押されてないはずなのに。なにこれ、痛い!
「少々やりすぎたか? 私はそんなに手加減が得意じゃないからな」
あっさりと1本取られてしまった。強すぎ!勝てる明確なビジョンが見えないっす。カリーナお姉様!
「うん。まだ、全然平気だから、お願いします!」
気を取り直して、2本目。ちゃんと、もっとよく相手の事を観察して、カリーナの動きを見切る!来た。まっすぐ向かってくる、高速の正面からの突き!
「後ろだよ」
「ほえっ?」
どういうこと?そんな、跳んだの?いや、違う。今のは、私はカリーナの気力に、彼女の凄まじいまでの気にやられた!
何これ、これじゃあ全然、戦いにならない!
「あっ、ちょっお」
軽く足払いをされて、私は転倒した。
「アハハっ。もう今ので2回は死んでるぞ。そして、私のこの槍で3度目だ」
カリーナの槍が私の頭上にある。尖ったその先端が私の頭を狙っている。
この人、強すぎいい!こんな強くて綺麗な女性!私もなりたい、あなたのように!
「フウ。ここまでにしとくか?疲れただろ」
カリーナが肩を鳴らしながら、私に問いかけて来た。
「ううん。もう、一本だけでもいいからお願いします!」
カリーナが私の目を見て少しにやけた気がする。その表情もなんと、麗しいことなの!
「わかった。じゃあ、次で最後だぞ。私も少し、力を入れる」
彼女は仁王立ちのようなスタンディングポジションをとって、急にオーラのような、私には分からない、何かを纏った気がする。地面に風が!起きてはないけど。
でも、感じる。この痺れる感じ。私の緊張と高揚感で、頬から首筋まで汗が。
「お願いします!」
私とカリーナとの最後のマッチが始まった。視線を合わせる、それが戦闘開始の合図!彼女が一瞬で間合いに入ってくる。
高速の野球のボールが正面から人間の大きさで突っ込んでくるみたいな、そんな一瞬の速さ。でも、今!飛べ!
「ほう。空中に滞空できるんだな。驚いた。でも、私も一緒だよ」
カリーナの槍が私を追って、飛んでくる。ここ!
「なっ、リンクを全部解いたのか? くっ、槍の威力を調整できない!」
「おりゃあああああ!」
全力で掴む!私もいくつか死戦は潜ってきてる!田舎で!私はカリーナの槍を両手で本気の寸止めで、挟み込むようにキャッチした。
「なっ! 私の槍を寸止めで受け止めただと!?」
「今、フェンリルッ! 射抜いて!」
私はカリーナにありったけを打ち込むように、空中に散らばった8本全部を使って、光の矢で的を射抜くイメージをする。
全力でやらないと、勝てない!
「私の間合いに、この鉄柱を遠隔で! なんていう成長スピード。だが、甘い」
カリーナは背にしていたもう1本の槍型で鉄柱の先端から放たれたビームをそれこそ円舞のように、全部打ち落とした!その槍捌き、恐るべし。
「そんなあ!」
「ハハハッ、すごいなナギは。うん。私に2本目を使わせるなんて、充分だよ」
私はそのまま彼女から1本も取れずに負けてしまった。
「ううう。強すぎるぅ」
「まあ、私だからな。それにナギはまだ、フレームの本当の使い方を知らないんだろう」
「本当の使い方?」
「ああ、ナギが、何のために、誰のために、その力を使うのか。その意志の力が、お前をさらに強くしてくれる」
「何のために、誰のために」
「でもな、選択をしなきゃならない」
「えっ?」
カリーナが少し真剣な表情になった。
「全部は守らなくていいんだ。嫌なら、その先の未来の事とかは考えなくていい、ただ、目の前の大切なモノを、それだけ守ることを考えればいいのさ。そう考えればシンプルだろ?」
「私の大切なもの」
「ああ、生きるということは難しい。その大切なモノも距離が近すぎると、失った時に心が痛くなる。だから、全部は救わなくていい。そういうことだ」
「うーーーん。何だか今の私には難しいかも……。しれないなぁ?」
「ハハハっ。ゆっくり考えて、お前なりに答えを出せばいいんだ。お前は強い子だよ」
私とカリーナはその場所を後にした。なんていうかカリーナの言葉が私の胸の奥深くに槍のように、突き刺さった気がする。彼女の言葉は私を変えてくれる、そんな気がした。
〜〜内部報告書〜〜
”ここに以下を報告書として纏める”
カラム学院第124期編入生、ナギのフレームについて、彼女のもつフレームをアーティファクトフレームと断定。識別コードはフェンリル。
かつての大厄災プロメテウスの聖戦において、自由の二つ名で光の粒子を纏い、凄まじいまでの功績をあげたフレームの一種と思われる。その性能は凄まじく、単機で近接、遠隔、及びフレームから放出される特殊な光で短時間の飛行が可能とされている。
だが、”呪い”にかけられる。
また、擬似植物兵器。通称、”ダミーフレーム”の実戦データにおいて必要なデータが取れた。未だにその危険性、凶暴性が残りAIによる擬似相互リンクも破損。以降も研究を進める必要がある。
そして被検体コード012 ***。
女王へと至る日は遠くはない。セントラルツリーへの道は星と共にあり。
”ライン アルムハート星医療教会第3席 灰の王”
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