「え〜、被告人は漫画家を自称していますが、この通り漫画家として極めて技量が低く……」
「異議あり、裁判長‼ これは、わざとデフォルメで描いて……」
「被告人、許可なき発言は慎んで下さい」
「よく御覧下さい。私が、被告人は漫画家として技量が低いと指摘したのは、絵の上手い下手ではなく、事情を良く知らない人が客観的に見て、どちらを悪として描いているかが極めて判りにくいと云う点に有ります」
「異議あり、裁判長‼ 私への不当な誹謗中傷です‼」
「被告人、言いたい事が有れば後で時間を与えます。それまで待ちなさい」
「え〜、被告人は自分達の側が冷静で理性的で合理的だと考えていたようですが、被告人がＳＮＳに投稿した漫画……いえ、これを漫画と呼ぶのは、被告人を除く全ての漫画家への侮辱となりかねませんので、ポンチ絵と呼ぶべきでしょうが……を見れば明らかな通り、被告人が悪だと考えていた主張をしている登場人物も、被告人が悪だと考えていた主張を論破しようとしている登場人物も、共に感情的になっているようにしか見えません」
「異議あり、裁判長‼」
「被告人、いい加減にしなさい」
「しかも、被告人は『登場人物が感情的になっている』場合の描き分けの引き出しが極めて少なく、被告人が悪として描いているつもり登場人物も、被告人が正義として描いてるつもりの登場人物も、単に両方とも感情的になっているように見えるのみならず、両方とも『感情的』の方向性や程度がほぼ同じであるようにしか見えません」
「異議あり、裁判長‼」
「被告人、黙りなさい」
「もし、これが、被告人とは違う意見の人や、被告人が関心を抱いてる問題をどうでも良いと思っている人が投稿したモノであれば、被告人と同じ主張をしている人達が自分は理性的なつもりなのに傍から見ると感情的になっているようにしか思えない行動を取っている事を揶揄しているものか……せいぜい、このポンチ絵を投稿した者は『どっちもどっち』だと言いたいのであろう、と解釈されるでしょう」
「異議あり、裁判長‼」
「被告人、あなたは馬鹿ですか？」
「もちろん、絵の描き分けが出来ない以上、本人は漫画を描いてるつもりなのに、主張の大半を文章で伝えています。漫画家を名乗っているのに絵の力を信じていないとは、どうなんだ？ と言うしか有りませんが、それは置いといて、この文章も、また酷い。被告人が正義だと思ってる方の主張こそ非論理的で破綻しているのは明らかです」
「異議あり、裁判長‼」
「被告人、何度言われれば判るんですか？」
「つまり、被告人は、自称・漫画家のポンチ絵描きとしては、絵による表現のバリエーションが極めて少なく、文章で自分の考えを表現する才能にも乏しく、作者である被告人が、正義として描こうとしている登場人物と悪として描こうとしている登場人物を、ちゃんと描き分る事が出来ていないのです」
「異議あり、裁判長‼」
「被告人、これ以上、し、裁判の進行を妨げると法廷侮辱罪に問われますよ」
「と言う訳で、被告人には原告の名誉を毀損する意図が有った以上、敗訴は仕方ありませんが、表現者としての技量がその意図を果たすには不十分であったと云う観点から賠償金はまけていただけませんでしょうか？」

異議あり、裁判長(泣)