デジャヴ・ドリーム【私、最近同じ夢ばっかり見るんですけど!?】

いもねこ
いもねこ

第2章 七夕祭り

公開日時: 2020年9月3日(木) 06:00
文字数:2,560

 夜は更けて、心琴は就寝したはずだった。

「あ・・・れ?」

 さっきまで部屋にいたはずなのに、気がついたら駅前の広場に立っていた。

 パジャマは着てない。髪も結ってる。

 お気に入りのオレンジのノースリーブ。

 短いジーンズの下からはリボンが付いたレギンスが見える。

(お気に入りの私服だ。私、いつ着替えたっけ?)

 おかしいと思いながらも、自分がここにいるのは当然とも思えるようにもなる。

「そっか、・・・夢かな?」

 眠りが浅いと夢の中で自分が夢を見ていることを自覚する。

 そんな不思議な感覚だった。


 周りを見渡してみると、あたりはとても賑やかで人通りも多い。

 どうやら駅前で毎年行われている七夕祭りのようだった。

 いつもはだだっ広いだけの広場なのに、この時ばかりは所狭しと屋台が並ぶ。

 浴衣を着ているお姉さん。

 りんご飴を片手にはしゃぐ子供達。

 大人たちもお酒を片手にワイワイ盛り上がっている。


「リアルな・・・夢だな。そう言えば・・・なんか、おんなじ夢を見たことがある気がする。」


 夢の中なのに、既視感を覚える。

「これってなんて言うんだっけ。あ、そうだ。デジャヴだ。」

 一人でブツブツいってると、後ろの方がなにやら騒がしくなっていた。

「・・・なんだろう?」


 駅を正面から見て右の方へ行くと、そこには特設ステージが建てられていた。ステージの上には堂々と「五芒星レンジャー」と書かれていた。子供たちとその親達が一斉にステージの方へ向かっている。どうやら、今流行っている子供向けレンジャーのショーが始まるらしい。


「現実には、うちの街に来るわけないよね五芒星レンジャーなんて。やっぱり夢なんだ。」

 心琴の住む街「田舎町」は名前通りの田舎だ。お祭りといえどそんなに大規模な場所ではない。子供が喜ぶレンジャー者のショーなんてやっているのを聞いたことがない。

「でも・・・ほんとに、リアルだわ。」

 人の流れを観察していると、どこもかしこも本物の駅と遜色ない。我ながらの再現度に感心していると、今度は反対方向から大きな声がしていることに気がつく。

「あれは、確かこの街の町長さんだ」

 右方向の人気とは裏腹に、祭りを進行するはずのの本ステージには、町長が一人で演説をしている。さしずめ、祭りの開会の挨拶といったところだろう。たくさん並ぶパイプ椅子に人はまばらにいるだけだった。


 そのまましばらく見わたしていると、人混みの中に一人だけ浮いている人がいた。

 誰もが楽しそうにお祭りを歩く中、路肩に座り頭を抱えてうずくまっている。

(もしかして体調悪いのかな?)

 そっと近づいてみる。

 気配に気がついたのかその人が顔をあげた。


「あ。」

 思わず声をあげた。

「あ。」

 その人も声をあげた。

(この人は・・・?)

「あれ? あの、私・・・あなたをどこかで知ってる気が・・・」

「!?!?」

(驚いた表情、そう、この表情!!)


「ああああああああぁぁぁぁ!!思い出した!!!!」

「なっ? 俺の事、覚えてるのか?」

「あなた、今朝駅前で声をかけてきた変な高校生!」


 変なと言われて傷ついたのか、男子は顔をひしゃげた。

「あんた、初対面でよく人のこと「変な」とか言えるな?」

「だって! 自分でも「こんな事初対面の人に聞くのは変だ」って、言ってたじゃない?」

「いや、まぁ。確かに・・・いや、確かにじゃねぇよ。」

「あはは!」

 私が笑うと男子の表情も少しだけ笑ってくれたようだった。

「ねぇ、あなた名前は?」

「向井鷲一(むかいしゅういち)だ。」

「私ね、心琴!松木心琴(まつきここと)だよ!よろしくね」

「ん、あぁ。」

 とりあえず、体調不良ではなさそうだと確認ができて安心した。

「でも、本当に我ながらよくできた夢だね! 今日会った人がそのまま出てくるなんて。」

「・・・。」

 男の子の顔が険しくなったのを感じる。

「どうしたの?」

「その様子、思い出したのは、今朝のことだけだな?」

 急に変わる声色にすこし恐怖を覚えた。

 食い入るように心琴を見つめる目は真剣そのものだった。

「え? 今朝以外であなたに会ったことあった?」

 その言葉に鷲一は一瞬間を置いてこう言った。

「・・・。昨日の夜。・・・ここでな。」

「昨日・・・? ここ? ここってどこ? 私、夜なんて外出してないよ?」

「だから、ここだって。夢の中で会ってんだよ。」

「はぁ?」

「ってことは俺のやってることはやっぱり無意味なのか?」

 言葉の意味を理解できないまま心琴は怪訝な顔をするが、鷲一はブツブツ独り言を言うだけだった。

「あの?? どう言うことか説明してくれる? ねぇ!」

「くそ・・・。どうやったら・・・。」

「ねぇってば!」

「なんで俺なんだよ・・・。」

「おーーーい!!!!

 心琴は顔の目の前で手のひらをひらひらさせた。

 流石に邪魔だったのか鷲一は上を見上げる。

「・・・。なんだよ。」

「せ・つ・め・い!」

 心琴のことなんて心底どうでも良さそうだったが、あまりのうるささに耐えきれずぶっきらぼうに説明する。

「お前、昨日。ここで死んだんだよ。」

「は?」

「お前は夢で、電車に轢かれて死んだんだって。」

 あまりに唐突かつ衝撃的な一言だった。

「電車?」

「ああ。お前だけじゃねぇけどな。ここにいる人は全員死ぬ。」

「そんな・・・。」

 真っ赤な。

「まぁ、現実のお前はピンピンしてたし。夢の記憶もなさそうだし大丈夫だろ。」

 真っ赤な街。

「・・・待って。」

 みんなが叫ぶ。

「なんだよ・・・。」

「私・・・知ってる・・・・・。」

 そして・・・みんなが叫ばなくなる。

「どうした??」

「・・・あああ・・・あ・・あ・・・」

 途端に景色が歪んで見える。

 朝に経験したようなノイズが頭に走る。

 どんどん情報が流れ込むように、昨日見た景色が脳内で再生されていく。

「なんだよ? どうしたんだよ!?」

 鷲一の心配する声も虚しく、心琴は頭を抱えてしゃがみこむ。

 異常な状態に、鷲一は立ち尽くすしかなかった。

「あああああああ・・・ぁあぁああぁああ・・・・!!」

「ちょっと、おい!? どうしたんだ!?」

「頭が、頭が痛い!!!」

「・・・!?」

 突然、心琴は動かなくなった。

「おい!!ぉぃ!!・・・ぃ!!」

 鷲一の声がどんどん遠ざかっていく。

 それとは裏腹に昨日の夢で起こった出来事が鮮明になってくる。



 そして、全てを思い出した。

 これから起こる悲惨な光景。

 お祭り会場が真っ赤に染まる恐ろしい夢。


 そう、ここは私が昨日見たひどい悪夢。

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