「あ、あああのミサギ殿に友人がおるやって!?」
「? 普通? じゃないかな、友達なんて……?」
今度はユウの方が驚く。
「ふ、ふっつーに友人なんて! 天変地異もええとこやわ! あの……あのミサギ殿にとっととともともと……」
「『友達』?」
「ありえへ~ん!!」
頭を抱えて叫ぶ。
「なんで!? ユウどんの兄ちゃんってどんな大物やねん! あの唯我独尊、傍若無人、恐怖の大王すら平伏すといわれる……食物連鎖ならぬ人類のピラミッドの頂点におるようなミサギ殿と対等地位かいなー!!」
ものすごい言われようである。
「ミサギさんと友達だっていうのは、そんなすごいことなの?」
「すごいどころか未知の世界やで! ヌシ、大丈夫か……!?」
「……何が?」
「いくら紹介とはいえ、あのミサギ殿の下で魔法士の修業なんぞ? 死ぬより辛いで絶対」
「マホウシ?」
ユウの頭上に疑問譜が浮かぶ。
いつの間にか、落下速度は緩やかになり、辺りもずいぶんと明るくなっていた。
「何じゃ、おヌシ魔法士を知らんかったんか?」
「だ、だから勉強しにきたんじゃないかっ」
「あー、そうじゃったな」
みっちゃんは自分の額を軽く打ち、
「ならば! 魔法士に関しちゃペカイチの拙者がお教えしんぜよう!」
ふんぞり返って大見得を切った。
「で……魔法士って何?」
「うぬ! それはな――」
――きたよ
ユウの頭の中で、そんな言葉がふとよぎる。
「え?」
気付くとそこは、ユウが寝ていた部屋の、ユウが眠っていたベッドの上だった。
「何やってんの、ユウ君?」
ユウが目の前の光景にキョロキョロとしていると、ミサギが、ドアを開けて軽くノックしていた。
みっちゃんがいない。
みっちゃんが飛び出してきた床の割れ目を探すが、フローリングはきれいな木目を見せているだけで、割れ目など微塵もない。
「早く着替えておいで。一緒に食堂まで行くよ」
ミサギに言われて、着替えたはずの自分の格好を見る。
パジャマのままだ。
「あれっ? 確かに着替えたはずなのに?」
「なにしてるの? あまりに遅いなら案内しないよ?」
急かされて、ユウは慌てて本日二度目の着替えをした。
ミサギは木戸を連れて歩き、ユウはその後ろをついていった。
食堂へは、階段を降り左に曲がって突き当たりまで歩くの道のりで、ユウもすぐ覚えた。
その中は全面カーペット張り、豪奢なシャンデリアとまではいかないものの、間違いなくオーダーメイドのおしゃれな灯りに、繊細な彫刻が施された椅子とテーブルのセットがしつらえてあった。
「うわ……すごい……!」
ユウが驚いたのは、部屋の広さと豪華さはもちろんだが、テーブルに並んだ朝食だった。
ふわっふわの白パンにデニッシュ、サクサクのクロワッサン、パンだけでも数種類あった。
飲み物は牛乳、オレンジジュースといった、ユウが飲みそうなものからコーヒーといったミサギが飲むものまで用意されており、その横にはミニコンロとフライパンがーー。
「!?」
ユウが見たのは、いつの間にかコックの姿をした木戸であった。
卵を片手で三つ持ち、ボウルへ器用に割り入れる。
大柄な体格とは裏腹に小さく細かい手つきで卵をほぐし、熱々のフライパンに流し入れる。バターがほどよく溶け込み、食欲をそそる香りが辺りに満ちてくる。
そっとお皿に移された卵は、フワッと柔らかなオムレツへと変身した。
「ありがとう」
当たり前のようにミサギが受け取り、食事の席につく。
呆然としたユウに、
「何しているんだい? 君も好きなものを食べていいんだよ」
「え?」
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