◆ ◆ ◆
その日の夜。
ユウはいつもと違う寝心地に違和感を感じ、しかし心地よい感触にウトウトとしていた。
が、突然バネのように飛び起きる。
勢いよく右を見る。
そして。同じように左も見る。
何もいないことを確認すると、ヒュッと喉を鳴らして息を吸い込む。無意識に止めていた呼吸が限界に達したのだ。
何度も大きく呼吸をして整えようとするが動悸は治まる気配がない。いつもなら、兄がそばにいて、震えの止まらないユウの頭を優しく撫でてくれていたが、その兄もいない。
なんだこれは。この感覚は。
恐怖。
そう思った途端、一気に汗が身体中から吹き出した。
ベッド脇にある窓の外を見ると、まだ夜が明けていない。
瞬間、バサバサと音をたてて黒い影が空を横切った。
ユウは反射的にベッドの影に隠れる。
アヤカシがこちらを見ていないか、いつ襲ってくるのかわからない緊張で息が切れ呼吸が乱れる。
「ア……ヤカシ、は?」
目の前がぐるぐるした感覚に陥り、焦点が合わない。それでも何度も視線を左右に配ってあたりを見る。
頭の中は、とにかく自分の周りにアヤカシがいないかだけ考えた。
どのくらい時間が経ったかわからない。自分の中では何十分も過ぎている。
何度も見回した部屋には、ベッドと勉強机の他は華美な調度品は何一つない。
誰も、いない。
「……そっか。昨日からミサギさんの家に……」
改めて自分のいる場所を確認する。
兄と一緒にいた頃と比べれば、慣れないのも無理はない。
今まで寝泊まりした場所ではダントツの広さだ。
兄と一緒の頃は、ずっと旅をしていたので、一つところに長くとどまったことはなかった。
夜は、野宿が常であった。
休むところは兄が決めていた。アヤカシに見つかりにくい場所があるらしく、そこでは比較的ゆっくりできた。
たまに宿をとることもあったが、その場合は兄が幾重にも結界を施してようやく眠れる。しかし、結界をはる兄は寝るわけにいかず、結局、二人揃って休めたためしがない。
いつアヤカシに襲われるか、気を抜けばたちまち周囲にも被害を及ぼす。
そういえば、アヤカシが襲いに来ない。
どうなっているのだろう。
ユウは、そーっと窓から外の光景を覗き見た。
地平線が延々と続くだだっ広い草原。それ以外は、文字通り何もない。
この国のどこに、こんな広大な土地があったのだろう。
「ここ、本当にニッポンなのか……?」
考える間に空が白んできて、日の出が近いことを知らせた。
「……朝だ……着替えよ」
長い時間、薄着でいたせいか、くしゃみが出てしまった。
ベッド脇にある服を手繰り寄せる。
パジャマから早々に着替えていると、小さな音がした。
ミシリ、という何かが軋んだ音。
「?」
ズボンに足を通したとき、床が不自然に盛り上がっている事に気付いた。
「なんだ……これ?」
近付き、覗き込んでみる。
めりっみしぃ……ずっ……どおぉおぉぉおおぉぉん
奇妙な床の盛り上がりは、巨大な爆発音をたてて吹っ飛んだ。
「ぬぁあ!?」
ユウは爆風で転げ飛ぶ。
そして、煙立ち上る中からは、黒い影が姿を見せた。
「みっちゃん参上ナリよぉ~う!」
「!?」
噴煙止まぬ中から現れたのは、金髪をポニーテールにしたサングラス男だった。
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