蒼の魔法士

アヤカシ・魔法・機械が織りなす現代ファンタジー
仕神けいた
仕神けいた

Seg 05 魔の途を知る者 -04-

公開日時: 2021年4月9日(金) 19:00
更新日時: 2023年6月6日(火) 13:44
文字数:1,288

 ◆ ◆ ◆


 その日の夜。


 ユウはいつもとちが寝心地ねごこち違和感いわかんを感じ、しかし心地ここちよい感触かんしょくにウトウトとしていた。

 が、突然とつぜんバネのように飛び起きる。


 勢いよく右を見る。

 そして。同じように左も見る。


 何もいないことを確認かくにんすると、ヒュッとのどを鳴らして息をむ。無意識に止めていた呼吸が限界に達したのだ。


 何度も大きく呼吸をして整えようとするが動悸どうきは治まる気配がない。いつもなら、兄がそばにいて、ふるえの止まらないユウの頭をやさしくでてくれていたが、その兄もいない。


 なんだこれは。この感覚は。


 恐怖きょうふ

 そう思った途端とたん、一気にあせ身体中からだじゅうからした。


 ベッドわきにある窓の外を見ると、まだ夜が明けていない。

 瞬間しゅんかん、バサバサと音をたてて黒いかげが空を横切った。

 ユウは反射的にベッドのかげかくれる。


 アヤカシがこちらを見ていないか、いつおそってくるのかわからない緊張きんちょうで息が切れ呼吸が乱れる。


「ア……ヤカシ、は?」


 目の前がぐるぐるした感覚におちいり、焦点しょうてんが合わない。それでも何度も視線を左右に配ってあたりを見る。

 頭の中は、とにかく自分の周りにアヤカシがいないかだけ考えた。


 どのくらい時間がったかわからない。自分の中では何十分も過ぎている。


 何度も見回した部屋へやには、ベッドと勉強机の他は華美かびな調度品は何一つない。


 だれも、いない。


「……そっか。昨日きのうからミサギさんの家に……」


 改めて自分のいる場所を確認かくにんする。

 兄と一緒いっしょにいたころと比べれば、慣れないのも無理はない。

 今まで寝泊ねとまりした場所ではダントツの広さだ。


 兄と一緒いっしょころは、ずっと旅をしていたので、一つところに長くとどまったことはなかった。


 夜は、野宿がつねであった。


 休むところは兄が決めていた。アヤカシに見つかりにくい場所があるらしく、そこでは比較的ひかくてきゆっくりできた。


 たまに宿をとることもあったが、その場合は兄が幾重いくえにも結界をほどこしてようやくねむれる。しかし、結界をはる兄はるわけにいかず、結局、二人ふたりそろって休めたためしがない。


 いつアヤカシにおそわれるか、気をけばたちまち周囲にも被害ひがいおよぼす。


 そういえば、アヤカシがおそいに来ない。

 どうなっているのだろう。

 ユウは、そーっと窓から外の光景をのぞた。


 地平線が延々と続くだだっ広い草原。それ以外は、文字通り何もない。

 この国のどこに、こんな広大な土地があったのだろう。


「ここ、本当にニッポンなのか……?」

 考える間に空が白んできて、日の出が近いことを知らせた。


「……朝だ……着替きがえよ」

 長い時間、薄着うすぎでいたせいか、くしゃみが出てしまった。

 ベッドわきにある服を手繰たぐせる。

 パジャマから早々に着替きがえていると、小さな音がした。


 ミシリ、という何かがきしんだ音。


「?」


 ズボンに足を通したとき、ゆかが不自然に盛り上がっている事に気付いた。


「なんだ……これ?」

 近付き、のぞんでみる。


 めりっみしぃ……ずっ……どおぉおぉぉおおぉぉん



 奇妙きみょうゆかの盛り上がりは、巨大きょだい爆発音ばくはつおんをたててんだ。


「ぬぁあ!?」


 ユウは爆風ばくふうで転げ飛ぶ。

 そして、けむりあがる中からは、黒いかげが姿を見せた。


「みっちゃん参上さんじょうナリよぉ~う!」

「!?」


 噴煙ふんえんまぬ中から現れたのは、金髪きんぱつをポニーテールにしたサングラス男だった。

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