「いややわぁ~、そげん見つめんといて~。みっちゃん、恥っずかすぃ~」
「……みっちゃんさんのサングラス、この落下でもずれないって、すごいですね」
わざと、『ボケ』でやってるであろう仕草に真面目な反応をされて、一瞬だが寂しそうに眉が下がるみっちゃん。
「これは『そーゆー仕様』やねん♪ それに、みっちゃん『さん』やなんて他人行儀いらんわな~。敬語も使わんでえーよー」
「納得しました! あと呼び方言いにくかったんでたすかりますっ!」
その間にもどんどん下へ落ちていく。
暗闇とは不思議なもので、真っ黒というわけでなく、黒い中にも、何かが蠢いて絶えず形を変えている。
それは、鼓動のように見え、水の流れのように見え、生きているもののように見えた。
そして、もっと不思議なのが、そんな闇の中だというのに、自分の四肢がはっきり見えるということ。まるで、上から明かりでも照らされているように、手に手を翳すと影ができた。
もちろん、上を見上げてもそんなものはない。それは彼――みっちゃんも同様だった。
そういえば、彼はさっきから余裕でもあるのか妙な動きばかりしている。そのどれもがユウに向けられていて、笑わかそうとしているのがかろうじてわかる。
もしかしたら、この余裕は彼が行き着く先を知っているからなのかもしれない。
「あのー!」
「……なんじゃーい?」
返事が聞こえるのに多少の時間がかかっている。
距離では、両手を伸ばしたほどにしか離れていないのだが、落下の影響から起こる風で会話に支障を来しているのだ。
それでも、叫べば声は届くようで、返事はちゃんと返ってきた。
「……とても不思議な穴をひたすら落ちてますが、これはどこに続いているかみっちゃんは知ってますかー?」
「それはな、おヌシの心次第やで」
ビシッとポーズを決めるみっちゃん。
しばらく沈黙が空間を支配し、微妙な表情のユウと共に落下していく。
「その表情やめてっ!? スベらせたの謝るからやめて!?」
「みっちゃんには、『真面目』って言葉がもう少し似合う大人になってほしいです」
「冷たい言葉が突き刺さるっ!」
「なんでそんなふざけた言い方ばっかしてるんですか?」
「あー……そりゃなんつーか、癖になってしもてのう……ちょこちょこ直そうとは思っちょるんやけどな」
「ファイトです」
「応援された! おっしゃ頑張るで!」
何を頑張るのだろう、と思うと同時に、新たな不安が沸き上がる。
このまま落ちていったらどうなってしまうのだろう。
通常なら、着地すべき地面があるが、仮にあったとしても、この高さ、速さで落下すれば即死だ。
では、地面がなかったら。
延々と落ち続けるだけで終わりがない。身動きが取れないうえに何かと厄介な状況に陥ることは必至だ。
どちらにしても解決しないことは同じだった。
ユウがあれこれ考え込んでいると、今度は、みっちゃんの方から質問が飛んできた。
「なぁ、ユウどんはどうしてミサギ殿のとこへ来たんじゃあ?」
「え?」
聞こえなかったのではない。確認の意味で、だ。
「ミサギ殿のとこへ来たのはなんでじゃあ?」
「なんでって……」
答えようとして、少し考えた。アヤカシを呼び寄せる体質のことを話したところで、恐らく理解されないだろう。
アヤカシが他の人には見えないのだから当然だろう。
ユウは少し考えてから答えた。
「勉強です。ボクの兄ちゃんがミサギさんと友人で、紹介されてきたんだ」
ありきたりな理由を装う。
だが、みっちゃんを驚きの表情にするのには十分すぎたようだ。
――何かまずったかな
ユウは緊張した。
「ゆ、ゆゆ……友人やと……!?」
「……?」
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