先ほどまで、ビクともしなかった重厚な門はその力を失い、ユウと井上坂に開けられていった。
重たそうに押し開けていくユウに対し、井上坂は外から引いて手伝う。
普段、力仕事など全くしない細身の彼だが、そこは体格の差だろう。苦もなく引き開ける。
「大丈夫か――!?」
「あ、井上坂さん……」
ようやく現れた小さな子供の姿に、彼は息をのむ。
自身の姿に気付いていないのか、申し訳なさそうに頭を下げるユウは、凄惨そのものだった。
頬を伝い滴る赤い雫。
激しい戦いでもあったのか、どこもかしこもボロボロになった服。そこから覗く手足は切り裂かれたのか、赤黒い筋が幾重も走り赤い液がとめどなく溢れ出ている。
夏の空を映し出す澄んだ海のようなきれいな青い髪は、無残に赤黒く染まっていた。
文字通り、見た通り、全身真っ赤である。
「ケガ……ってか……だ、大丈夫、か?」
心配をするが、どうかしたらこちらの方が気を失ってしまいそうだ。
労わる言葉も、目眩に襲われてうまく声にならない。
「すみません、ついていくのが遅く、ふぇ……!?」
急に襲う浮遊感。ユウは、何が起こったのか一瞬わからなかった。
「ケガが痛むだろうが、少し我慢しろ」
井上坂の顔がすぐ近くにあった。
「はっ……? え……!?」
まだ状況が把握できずにいるユウを、井上坂は『お姫様抱っこ』していた。
「すまない、急いで離れるぞ」
言うや石畳を一蹴り。
「うわっ!」
走るというには、一歩分の推進力があまりに強く、スピードが速い。ジャンプというには、高さがなく前方への距離が長かった。
井上坂は、とにかく急いでいる様子で、鳥居から離れていった。
急な加速で、耳に風の音がビュウビュウなだれ込んでくる。ユウは彼の首元にしがみつかなければ吹き飛ばされてしまいそうだった。
彼の肩越しに向こうを見やれば、ぐんぐん遠くなっていく鳥居は、淡い光を放ち始め、その形を崩していく。
「巻き込まれたら、一緒に消滅してしまうからな」
ユウは、風の切れ間から聞こえる彼の言葉にゾッとして、しがみつく手に力を込める。
その一方で、彼はユウが落ちてしまわないように、ギュッと自身へ抱き寄せた。
井上坂の言葉を証明するかのように、鳥居は蛍が舞うように小さな光になってゆっくりと消えていった。
完全に消滅したのを目で確認し、井上坂はようやくスピードを落とす。参道脇で灯籠を背もたれにユウを座らせた。
どこから処置すればいいやら、そも、触れていいのか、見れば見るほど赤黒いユウの頬を服の袖でそっと拭う井上坂。
「何をどうしたらこんな血まみれになるんだ……!」
「あの……ボクは大丈ぶっ……」
「どこがだっ! 大人が見てもビビるぞ!」
「ぽにょぷらい、ぺあのぷににぱにゃりまぷぇっ」
子供特有のやわらかいほっぺをぷにんぷにんと拭われ、うまくしゃべれないユウ。
拭う側は、まだ乾ききらず髪から服から滴る赤い液の量に青ざめている。
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