「うわ、血でベトベト。なんか鉄臭いし」
脱ぎにくく、もう服の様相を成していないので、思いきって破ってみた。バリバリと音をたてて、肌にくっついていた服が剥がれる。痛みが稲妻となって激しく全身を駆けめぐった。
「……!」
悲鳴こそあげなかったが、これは痛い。湯船に入るのが少々怖くなったユウ。
浴室に入ると、木製の手桶と風呂椅子が一つずつ。
そして、ユウから見ても決して大きくない浴槽。
その中に板が浮いていた。
「え、板? これ、どーすれば……とっちゃっていいのかな?」
「あー、蒼童。それは風呂の底床じゃから、その上に乗りんさい。でないと、釜底で火傷するぞーい」
湯船のそばにある格子窓から、言の葉屋の声がする。
彼女がいうには、この長州風呂は外から火を焚いて湯を沸かしているので、湯船の底が熱くなるらしい。火傷をしないため、床板を敷くのだが、ユウは、鍋の中で釜茹でになる自分を想像し、「まさにその通りじゃな」と言の葉屋に笑われた。
薬湯だと言われた乳白色の湯は、浸かってみると、思ったほど皮膚に刺激がなく、痛みはなかった。
「蒼童よ、湯加減はどうじゃ~?」
お湯は熱いが、木の格子窓から入ってくる風がひんやりと気持ちよく、
「ちょうどいいです~」
ほわほわと心地よい気分で返事をする。
「……そういやお前さん、朱綴りの門の試練をやったそうじゃな」
唐突に訊ねられ、ユウはオウム返しに言う。
「しゅつづり?」
「そう。鳥居の門をくぐったろ」
言われて、あの連なって現れた鳥居を思い出す。
「はい、井上坂さんに追いつこうとしたんですが間に合わなくて……」
言の葉屋が、申し訳なさそうに声を漏らす。
「……すまんな。朱綴りの門は、いつもならわしが朱で言葉を織り込むと出るんじゃ。もともとお前さんには、朱綴りはせなんだが。
……後で井上坂に聞いたが、言織に血がついておったそうじゃな」
「あ……はい。ちょっと、転んで怪我しちゃって。たぶんその時の血がついたんだと思います」
「その血に反応しちまったんだな。しかし、転んで言織に血がつくなんざ、初めて聞いたわい。ま、お前さんは童じゃからのう」
ユウはなにも言えず、湯船に身を沈めた。
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