「……」
どうして自分はアヤカシを呼んでしまうのか。
そして、狙われてしまうのか。
兄は何も言わなかった。
いや、ユウが教えてほしいと聞かなかったのだ。
その考えにまでは至らなかったユウだが、自分に何かしら原因があったのだとはわかっていた。
ユウはゆっくり視線を落とす。そして、すがるように東条を見上げる。
「あの!」
「ん? 何だい?」
「ボクは、この体質を治したいんです。あなたに会えばなんとかなるって兄ちゃんが言ってました。もう、兄ちゃんにも周りにも迷惑をかけたくないんです。ケガをしてほしくないです……!」
ユウはベッド上で居住まいを正し頭を下げた。
「お願いします、助けてください」
「……僕に君の体質を治せと?」
東条はキョトンとする。
「はい。東条さんは――」
「ミサギでいいよ」
「え、えと……ミサギさん……は、ボクと同じ体質だって聞きました。兄ちゃんも、このことはミサギさんに頼めって。手紙、預かってます」
そう言って、懐からヨレヨレの手紙を差し出した。
アヤカシとの戦いで、激しく動き回ったせいだろう。
今や希少な紙で作られた、しわだらけの手紙を、木戸がかわりに受け取り、開封してミサギに手渡す。
ミサギの視線は文面をなぞるでもなく、一点を凝視していた。
「……ふぅん、ヒスイは相変わらずみたいだね」
しばらく手紙を見つめた後、彼はそう言った。
「?」
「君も見る?」
手紙の内容はいたってシンプルだった。と、いうより、一言だけだった。
『お好み焼きは全混ぜがいい』
「に、兄ちゃん……?」
意味不明かつ兄らしい内容に、ユウの手紙を持つ手はなんともいえない震え方をする。
「ものの例えを食べ物でするクセは相変わらずだ」
ミサギには兄の言わんとしたことがわかったのか、納得するように手紙を懐へしまう。
「なるほどわかった。ヒスイもこう言っていることだし、君をしばらく僕のところで預かることにするよ」
「えっ!? その手紙の意味わかるんですか!?」
「君はわからないのかい? ほかにどう読めと?」
「いや、どうってか……」
さすがは兄の友人というか、類は友を呼ぶというか。ミサギが不思議そうな顔をしているのを見て、ユウは思わずため息をついた。
「さて」
ミサギは手のひらを打つ。
「君を預かるからには、部屋を用意しないといけないね。木戸、準備は頼むよ。ユウ君はしばらくここで待っていて」
矢継ぎ早に言い残して、ミサギは出て行った。
「……ぷはぁ」
ユウは、喉の奥にとどまっていた空気を一気に吐き出した。
自分が話していたわけではないのに、なぜか息を止めていたようだ。
そして、ふと背負っていた彼女のことを思い出した。
「なんでどっかにいっちゃったんだろ?」
巻き込んでしまったことを謝りたかった。しかし、どこかへ行ってしまった理由はそこにあるのかもしれない。
アヤカシなんて見たら、皆恐怖し、成す術もないのだから逃げるしかないのだろう。
「ご心配でしょうが、きっと無事でいらっしゃいます」
「うわびっくりした!」
文字通り跳び上がって驚いてしまったユウ。
壁際に、木戸が立っていたのだ。てっきりミサギについていったのかと思われた彼は、それだけ言うと、深く頭を下げて部屋から出て行った。
「い……いたんだ……」
「あ、そうそうそれとね」
扉からひょっこりとミサギが顔を見せた。
「わあっ!」
「なにその反応」
ミサギは少しムッとする。
ユウは、止まらない心臓のどきどきを必死に抑えつつ「すいません」と謝った。
この屋敷の住人は人を驚かせるのが好きなのだろうか。そんな思いをよそに、ミサギは単なる連絡事項を言って部屋を離れた。
「夕飯は七時からだから」
廊下では、ミサギの鼻唄が響いていた。
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