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担当の女性は、ユウを連れてエレベーターに乗ると、職員カードをかざした。
すると、階下へと動き始めたが、最下階である地下二階を通過し、地下五階へとたどり着いた。
その先を案内したのは、頭にVRゴーグルをつけた青年だった。白い壁、床、天井に囲まれながら進むと、ガラスでできた大きな部屋へ案内された。
「では、今からアヤカシの存在証明のテストを受けていただきます。手順としては、この大きな部屋に入っていただき、出現したアヤカシの居場所をこのポインターで示してください」
そう言って、ペンライトのボタンを何度か押し、赤い光を出して見せる。
「正解するとピンポンと音が鳴ります。ポインターを誤ったところに指すと不正解の音がなり、二回失敗すると失格です。アヤカシは全部で五体出現しますのですべてのアヤカシの居場所を示してください」
「……うまくできるかな?」
部屋に入って待っている間、渡されたペンライトをまじまじと見るユウ。緊張からか手に力が入ってしまった。
ッブ――――――――――――――!
不正解音が警報の如く鳴り響く。
すぐにボタンから手を放したが、音はすぐには止まなかった。
「……始める前からボタンを押さないでください」
審査官の青年がジトーッと睨む。
「……すいません」
「申し訳ないですが、既に機器がスタンバイ状態なので、今のは不正解として一回カウントされています。次に間違えると失格ですのでご注意ください」
「ええー!?」
「やる前から自分追い込んでんな~、ユウどん……」
付き添い席で待つみっちゃんは、自分のことさながら、ハラハラしながら見ていた。
「それでは、始めます」
「はいっ!」
ブゥ……ンと機械が始動音を出し、ユウはすぐにぞわっと背中を震わせる。
青年がかけたVRゴーグルには、ユウの背後にアヤカシが映っていた。
ピンポーン
一体目のアヤカシをポイントできたようだ。
「黒い影だ」
ユウは、おぞましい姿のアヤカシを想像していたのか、ただの黒い影を見た一瞬、キョトンとした。
「アヤカシって、全部黒い影なんですか?」
思わず試験官に訊ねたユウに、試験官は肯いただけだった。
その返事にユウはホッとする。
「なら、そんなに怖くないや!」
俄然やる気になったユウは、二体目、三体目とすんなりクリアした。
しかし四体目となると、さすがに動きが素早くなり、捉えたと思いポインターを当てるが、アヤカシは急に向きを反転させた。
反応しきれなかったユウは、
「げっ!」
失敗に変な声をあげてしまった。だが、運よくアヤカシに当たっていたようで、ピンポーンとクリア音が鳴った。
「あ、危なかったー……」
「ちなみに、魔法士のライセンスは永久ライセンスになります。
一度受けたら合否にかかわらず二回目の受験はできませんので頑張ってください」
「ウッソ!? つか、今ココでそれを言うっ!?」
「検査官の言うてることはホントやで~」
「好不調の波はありますが、魔力を持つ人は生きている限り、少なからずその力が存在することが過去のデータから解析されています。ですので受験者の方は皆、万全の態勢で挑まれてます」
それを聞いて、ユウはみっちゃんを見る。
「そんな切なそうな顔で見んといてっ!
ユ、ユウどんなら大丈夫やて! ファイトやっ!」
とにもかくにも、最後の一体である。
五体目は、姿を現わしたり消したり、動きもさらに素早くなかなか照準が定まらない。
間違えれば不合格。
「あれ? この動き方……」
ユウは、以前ネズミのようなアヤカシと出くわした時の事を思い出す。
チョロチョロと動き回って止まらない。しかも時間がたつほど数が増えていく。
早く倒さないと、そのうち近隣の街にまで被害が及んでしまう。
その時、兄は無駄に動くことをせず、じっとアヤカシの動きを肌で感じ取っていた、ようにユウは思っていた。
勝負は一瞬だった。
背後からくると見せかけて、正面を横切る刹那、兄はアヤカシを鷲掴みして捕まえてしまったのだ。
増え続けたアヤカシは分身だったらしく、本体が捕まるとすぐに消えてしまった。
その後、アヤカシをどうしたのかまでは覚えていなかったが、今、ユウの前にあるアヤカシも動きがそれに似ていた。
何度か動きを目で追い、やがて右を向いてポインターを構える。
「……今っ!」
赤い光は、黒い影を捕らえ、正解音が響いた。
「クリアです」
「やったあ!」
「お疲れさまでした。こちらで一旦休憩なさってください。この次は、別室にて魔力の測定、数値化を行います」
促された椅子に倒れるように座り込むユウ。それをみっちゃんが手でパタパタと疲れきった顔を扇ぐ。
「お疲れや~ん。大丈夫かあ?」
「だって……もう二度と受験できないんでしょ? そりゃ、本気……出さなきゃ……!」
「落ち着かれましたら、こちらから次のお部屋へどうぞ」
検査官は機器類を片付けるとどこかへ行ってしまった。
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