冷気が暴風になって狂い踊る。それでもアスカが平気なのは、近くにユウがいるからだろう。
「そんな怒らないでよ。
いやあさすがミサギ君だよ。アヤカシの消滅と逃走、一気に二つのパターンデータが取れて、僕もウッハウハ♪」
「で?」
「うん、それでね、逃走したアヤカシを僕のお手製のドローンで追跡させたところ、なんとこれがばっちりドン!」
ドン、のセリフに合わせて、彼の背中から突如バズーカーが飛び出す。
空砲を鳴らし、部屋を震わせた。
「これでアヤカシの特殊な魔力を波形情報として捉えて、そこから可視化できるようになったってわけ! ねえ、すごいでしょ!」
すごいのだろう、前人未踏なのだろう。だが残念な事に、そのすごさはアスカの奇行にかき消され、ユウたちに一ミリも伝わらなかった。
反応に困って、とりあえず頷く一同。
「あー、いいのいいの。このすごさは僕だけがわかればいいの。
……おっと、忘れるとこだった。
でね、すぐに地球の表面をまるっとサーチしてみたら――」
話が一気に地球規模になった。
「なんと類似した反応が、逃げた犬を含め十ヶ所もあったんだ。うち五ヶ所は国内で確認されている。
これって、大型のアヤカシが少なくとも五体はいるってことになるよね」
その場にいる全員が固唾をのんだ。
アスカは咳払いをし、「ここからは政府からの方針を伝えるね」と付け加えて言った。
「この報告に、政府は大型のアヤカシを『アラミタマ』と呼称、緊急対策として、国内にある五ヶ所を至急調査し、捕獲もしくは討伐対象と見なして早急に対処せよとのことだ。
あ、ちなみに筆頭の行動部隊と指揮権はイズナね。これは特命だよ。
この大規模作戦計画は、今後『カミノヨ作戦』として各機関に通達される。
フウガ君が頑張ってくれたおかげで、作戦名とイズナの名前をだせば、予算・人員・時間を問わず全機関が協力を惜しまないそうだよ」
「あれっ? 私がつけた作戦名は……?」
作戦の協力に一番苦労した本人が、不安そうに訊ねる。
「ああ、あの『キョダイアヤカシ大作戦』てゆーの? あれ、却下。
「え?」
「あれは、政府の方針にそぐわないという理由で、却下されました!」
「ガーン!
……子供にも読めるようカタカナで表記したのに……」
がっくり膝をつく。
「いや……ネーミングセンスだと思うよ……」
アスカは言葉の刃物をブッスリと刺した。
「そんなわけで、僕も早速力になるよ。これからよろしく頼むね!」
アスカはにっこり笑った。
◆ ◆ ◆
外は時が過ぎ夕焼け、アヤカシの瞳に染められた空が広がっている。
建物の影は領域を広げ、街を闇に包みこもうとする。
「うぅ……おナカすいた」
そこに蠢く影が一つ、むくりと起き上がり空を仰いだ。
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