蒼の魔法士

アヤカシ・魔法・機械が織りなす現代ファンタジー
仕神けいた
仕神けいた

Seg 50 遇う者たちの生業 -01-

公開日時: 2023年2月24日(金) 19:01
更新日時: 2023年6月6日(火) 15:00
文字数:2,398

 翌朝よくあさ

 屋敷やしき食堂の席で、まさにユウとミサギが朝食へはしをつける瞬間しゅんかんであった。


「や~や~♪ 朝メシちゃんと食っちょるか~!」

 みっちゃんである。食堂のとびらを勢いよく開けてやってきた。


「毎度いいタイミングに来るんだな、君は」

「そらもぉ日課になっとるけぇのう♪」

「おはようございます。朝食はこちらにご用意しております」

 木戸は、慣れた手つきでみっちゃんの分をならべていく。


 今朝けさは魚定食だ。もちろん木戸の特製である。

 こうばしい焼き目のついたさけが、横にえられたたくあんと色を織りなし食欲しょくよくをそそる。パリッとした海苔のりも、出汁だしの風味豊かな味噌汁みそしるも、すべてが食べた者の胃を満足させる。

「おお、美味うまそうじゃのお!」

 みっちゃんは、いつものように元気よく合掌がっしょうして満足そうに平らげて去っていった。


「やあやあ諸君しょくん! 朝ごはん、しっかり食べてるかい?」

 勢いよくとびらを開け、今度はアスカがんできた。

「お、たまごもあるじゃないか。たまごかけご飯にして、さけ一緒いっしょに食べると相性あいしょう最高なんだよね♪」


須奈媛すなひめ……なんだそのかみの色は?」

 ミサギがあきれて見るのは、明るい珊瑚色さんごいろとなったかれかみ

 アスカはくるくる回りながら一同の前に立つ。


「いいだろ~♪ 海にたゆたう珊瑚さんごのようになりたくなっちゃってね~♪

 どうだい、似合ってるだろ?」

 ユウにウインクして同意を求めた。

 ふわふわと飛んできたウインクハートは、ユウの頭にコツンと当たったが、当の本人はアスカを見つつも口いっぱいのご飯をずっと咀嚼そしゃくしている。アスカの予想していた効果はなかった。

「むいんあっぺあむんももも」

 何かを言っているが、まったくわからない。アスカはまったく気にすることもなく、ヒラヒラと手をって笑顔えがおを返す。

「おっけおっけ♪ おめの言葉ありがとう♪」


 ニコニコしているそばで、ミサギは食卓しょくたくならぶ食べかけのさけ視線しせんを落とす。

「……さけの色だな」

「あっはは♪ それも美味おいしそうでいいね~。

 ……あ、ぼくの分は用意しなくて大丈夫だいじょうぶだよ」

 木戸が朝食を用意しようと静かに動き出すのを、アスカは止めた。

 栄養ゼリーを取り出し、みっちゃんが食べた後の食器を見る。

「木戸君のご飯が美味おいしいのには定評があるからね。くせになって、ミシェル君みたいにやめられなくなったらぼくこまる」

「では、お席をご用意します」

「ありがと~♪」

 木戸は、すでに手にしていた椅子いすを、アスカのそばにそっと置いた。


「……ところでさ~ぁ、ミサギ君」

 行儀ぎょうぎの悪いすわかたをするアスカ。無駄むだねこなで声を出す。

「週末、緇井くろいさんのトコ、行くんだろ~? 同行させてよ~」

 たくあんを食べようとしたはしがピタと止まる。


 なぜ知っている、は愚問ぐもんだ。

 そんな事、総領寺が把握はあくしているのだから、かれも知っていて当然である。


「例の勉強か?」

「そ! 緇井くろいさん、封印ふういんできるだろ? 前に見た報告書の中で見つけたんだ。それで、ユウ君にも封印ふういんの様子を見せてあげたいんだよ」


他所よそをあたれ。ぼく邪魔じゃまをするな」

「何てことを言う!」

 アスカは信じられない、と驚愕きょうがくの声を上げる。

魔法士まほうしの仕事はそう滅多めったに! 都合よく! 定期的に画期的に来るわけじゃないんだぞ! あのキッズアニアでも体験できない貴重きちょうな仕事だぞ!」


「職業として成り立っていないだろ」

 ズバリ核心かくしんく。


「それに、ユウ君も……というより、君が見て見たいんじゃないのか?」

 さらに核心かくしんかれに、アスカはかくすことなくにっこり微笑ほほえんだ。

「まあね♪」

「……」

 もうあきれて溜息ためいきしか出ない。

「なあいいだろ? どうせサポート案件だろ?」


「サポート?」

 反応したのはユウだ。

「ミサギさん、お手伝てつだいするんですか?」

「そう――」

「そうなんだよ~! むしろ、ミサギ君に直接依頼いらいが来ることの方がめずらしいんだよ!」

 まれて、ミサギはムッとしてだまむ。

 一方、ユウはに落ちたという表情である。

 いつもいそがしそうにあちこち行っていたのは、自身の仕事だけでなく、ほか魔法士まほうしのサポートに走り回っていたということだ。


 改めて、ミサギの事を何も知らない自分に初めて気付かされる。

 思わずアスカを見ると、察したのかにっこりと笑顔えがおが返ってきた。

「君も、ミサギ君の仕事とか見てみたいよね~。普段ふだんは平和な案件ばかりだけどさ、かれが引き受けるのは、基本的に人間では対処たいしょできないものばかりなんだ。ほら、こないだのサルとイヌのアラミタマを覚えてるかい?」


「小物に用はないよ」

 ミサギが止めていたはしを口に運ぶ。その表情は少し不貞腐ふてくされていた。

「アレを小物って言うか~」

 アスカはかたをすくめ、栄養ゼリーをした。

「なあ、今回だけたのむよぉ~。ユウ君の学習のためにもさぁ」

 事実、見学などまったく問題ない。だがしかし、ユウをたてにしてくるアスカがなんだか気に入らなかった。


「……好きにするがいいさ」

 ミサギは眉根まゆねを寄せ、早々に食べ終わらせて席を立つ。

 その言葉を了承りょうしょうの意と受け取ったか、アスカは上機嫌じょうきげんでガッツポーズをした。

「ありがと~!」

 返事をしないうし姿すがたを見送り、かれはすかさずスマートウォッチを操作そうさする。


「……あ、緇井くろいさん? ぼくだよぼく~」

 どうやら通話をしているようだ。軽いノリで、詐欺さぎと聞きまが常套句じょうとうくを使っている。


 指向性のスピーカーとマイクは、周囲に声が聞こえないはずなのだが、通話相手が女性で、いかりをぶちまけてさけんでいるのがユウの耳にまでとどいていた。


「そぉんな楽しみそうな声上げないでよ~♪ 邪魔じゃまはしないからさ~。んじゃ、週末楽しみにしてるね~♪」

 通話先では、まださけごえが続いていたが、容赦ようしゃなく切られた。


 アスカの耳は、どんなに言ってもポジティブなセリフに変換へんかんされる便利機能でも搭載とうさいされているのだろうか。


「よし♪ ミサギ君と行くお仕事体験決定~♪」

「え?」

 茶碗ちゃわんを持ったまま呆然ぼうぜんとアスカをながめるユウ。


「楽しみだね、週末♪ んじゃ、また来るね~!」

 当の本人を完全に置いてけぼりにしたが、とんとん拍子びょうしに話がまとまり、アスカはウキウキしながら椅子いすの上から喜びのジャンプをして出ていった。

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