蒼の魔法士

アヤカシ・魔法・機械が織りなす現代ファンタジー
仕神けいた
仕神けいた

Seg 53 遇う者たちの生業 -04-

公開日時: 2023年3月10日(金) 19:01
更新日時: 2023年6月6日(火) 15:04
文字数:1,986

 現場と言っても、規制線が張られていたり通行止めになっているわけでなく、街通りは人でにぎわっていた。

 やけにきらめいて見える快晴の空の下、颯爽さっそうと歩く緇井くろいは目立っていた。


「所長、目立ってます」

「いつもの事だ、問題ない」


「ミサギ君のグラサンも効果は順調だね」

「そのようだね」

 ミサギの顔には、アスカからもらった丸いフレームのサングラスがかけられている。

 かけた者の存在そんざいうすめたり、かくしてしまうということらしいのだが、効果は絶大であった。

 すれちがう通行人はみな見向きもせず、というより気付く事なく通り過ぎる。


 ユウやみっちゃんのように、最初からミサギを認識にんしきしている者には効果がなく、当然例外もあるが、対処たいしょできる範囲はんいであった。

 おかげで失神さわぎもなく、かれ姿すがたは完全に街の風景にんでいた。


「……女の人がいない」

「ていうか、平日なのにやけに人が多いね」


 辺りを見回す一同。

 スマホで自撮じどりをする人、男モノの服を楽しそうに選ぶ人、ナンパ目的で声をかけるチャラい若者わかもの――どこを見ても男性だらけである。

 それらにまぎれて、女性もちらほらといるのだが、どことなく違和感いわかんがあった。


「まさか、これ全部被害者ひがいしゃなんか?」

 みっちゃんのおどろきに、緇井くろいいきをついた。

「そのまさかだ。しかも、イケメンなものだから、なげくどころか喜ぶ者が続出して……」

 一同は、イケメンだらけとなった光景をながめる。


 街の隙間すきまからのぞく青い空は、羊が群がるがごと積乱雲せきらんうんがモコモコとのぼっていた。

 ミサギはふと空を見上げ、

「……積乱雲せきらんうん……南南西の空……」

 緇井くろいの資料に、落雷らくらいのあった日時や空の様子まで事細ことこまかかく書かれていたのを思い出す。


「今、何時だい?」

「えっと、十四時ッスね」

 即座そくざ吉之丸よしのまる確認かくにんする。

緇井くろいさんの資料だと、落雷らくらいすべ日昳にってつころと記してあった。それって、この時間帯じゃないのかい?」

「ああそうだ。すまない、書き方が古臭ふるくさくて」

「けど、それがわかったところで何だっていうんですか?」

 吉之丸よしのまるがかみつくように言う。ミサギは見下してかれを見る。

「物事は、天の時、地の利、人の和で成されるもの。緇井くろいさんの助手なら常識でしょ」

 と、満面のみを見せた。


 ◆ ◆ ◆


 上空約一万メートル。

 ここはもはや航空機の領域りょういきである。

 だが、氷点下に達する空気も一瞬いっしゅんで飛ばされてしまう強風も、魔法まほうで結界を結ぶかれらには無縁むえんだった。

 二人ふたりは、飛行機のコックピットの天井てんじょう部分に立っていた。もちろん、飛行機の外だ。


 一人ひとりは少年で、飛行機に何かを小さくんでいる。

 もう一人ひとりは、少年と同年代の少女だ。


 少女がおもむろに立ち上がり、うすめたかみをそよ風になびかせ、両腕りょううでを広げさけんだ。

アーイム、フライーング! ジャーック!" I'm flying, Jack!"


「やめろあぶないだろライセ! そして何のモノマネだ!?」

 ライセとばれた少女はいたずらっぽく笑う。


「こないだ見た映画えいがよ! アタシこのシーン大好きなの!」

「だからって、飛んでる飛行機の上でやるコトじゃねーだろっ!」

「なによう、ちょっとくらいノッてくれたっていいぢゃない」

 ライセは口をとがらせる。

「もぉ、つまんなぁ~い! さっさと終わらせようよ、ゼン!」


「最初からそのつもりだよ」

 少年――ゼンは、最後の仕上げにと円をグルグルとむ。


「よしっ、できた!」

「え? それ、なぁに?」

「おま……前に教わっただろ、特定の場所で使えって。飛んでる飛行機の上でこんなコトできるのオレらだけだなんだぞ」

「……お、おぼえてるわよ! そうよね、アタシたちだけなのよね」

 一瞬いっしゅんの間をゼンは見逃みのがさなかった。彼女かのじょを見ればわかる。完全にわすれてた顔だ。

 毎度の事であきれていきしか出なかった。


「ああもう、なんかメンドくなってきた……。

 とりあえず、石をここに置いて……と」

 ゴソゴソとポケットをさぐり、小石ほどの赤い宝石ほうせきをとりだす。


 粗削あらけずりの丸い玉――アヤカシの『目』だ。


 一握ひとにぎりある量のそれを日昳にってつと書いた側にある梵字ぼんじの上へ置く。


 すると、文字が石の中へとまれたではないか。

 赤くきらめく中でゆっくりと動く梵字ぼんじは、ずっとながめていたい気持ちにさせる。が、ゼンは文字がすべての『目』に入ったのを確認かくにんすると、ライセへ投げわたす。


「ほいライセ、くだいて」

「まっかせて!」

 受け取った小石たちを、彼女かのじょ華奢きゃしゃてのひらはいとも簡単かんたん粉砕ふんさいした。


「……相変わらずスゲー握力あくりょく……」

 いくつもの石を一気に粉微塵こなみじんにした片手かたては広げると、あっという間に強風であおられ、眼下に広がる雲へと散っていく。


「この程度、お茶漬ちゃづけサイコロよ♪」

「その握力あくりょくになる栄養を、も少し頭にまわせねーかな?」

「う……ちゃ、ちゃんと少しは回してるわよ! ほら、いーから、早く確認かくにんしにいきましょーよ!

 今日きょうこそ、いとしいあおの君に会えるかもしれないでしょ♪」

 ライセはこいする乙女おとめひとみかがやかせて飛行機からりた。

「やめとけばいいのに……どーせまた、勢い余って殺しちゃうんだし」


 ゼンはむなしさをめていきをこぼし、後を追った。

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