◆ ◆ ◆
どのくらい経ったか。
ユウはようやく起き上がり、
「ごめん、おまたせ」
「無理してないか? もうちょい休まんでええか?」
みっちゃんがサングラス越しに心配の目を向ける。
なかなか来ないユウを心配してか、検査官も戻ってきた。
「大丈夫ですか? 体調悪いようでしたらもう少し休まれますか?」
「あ、だ、大丈夫です」
次の部屋に行くと、先程の青年と研究者のように白衣を着た女性がいた。
「お疲れさまです。魔力の量を計測をしますので、こちらへどうぞ」
言われるがままに着替えを渡され、丸みを帯びた壁へと案内される。壁かと思ったのは巨大な機械で、ドアの向こうはベッドが一つ置かれていた。
「あのベッドに横になってください。
計測は、エックス線検査と同じと思ってください。上部から魔力検査のライトを当てていきます。
機械が比較的大きな音を立てるので、耳栓をしてもらいます。検査の時間ですが、十分ほどかかります。体を動かしてしまうと計測はできないので、できるだけ動かないようにお願いします。
気分が悪くなったときは、このボタンを押してください」
言って、女性はカードサイズのリモコンボタンを手渡した。
ベッドに横になると、えも知れぬ緊張感が漂う。
女性の「はじめますねー」という声がスピーカーから響き、ゴウンゴウンと機械が動き始める。
目を瞑って体をカチコチにしていると、部屋の向こう側で、何やら焦る声が聞こえ始め、みっちゃんの叫び声とドアをこじ開ける音がした。
「ユウどん! 逃げぇっ!」
「?」
ベッドがガタガタ揺れて、驚く声をあげる間もなく電気がユウの体をほと走る。
直後、大太鼓を耳元で思い切り叩いたような音と熱と風がユウを襲った。
衝撃と共にベッドから放り出され、体から焦げた匂いと煙を立ち昇らせるユウ。
「ぎゃあああ! ユウどんが爆発して黒焦げにィー!?」
あたふたとしながら、みっちゃんはユウを抱えて部屋を出る。
検査官と研究員の女性は、様々な荷物で自分の身を守りながらその様子を見ていた。
ユウが助け出されると、その怪我の具合をみた。
「検査室もこの子が着ている服も、火事爆発が起きても耐えられるよう対策はしてあります。やけどの面が比較的少なくできたのが不幸中の幸いでしたね」
「何言うとんねんアホ! 怪我に大きいも小さいもあるかっ! 早よ治療せんと――」
「……大丈夫だよ、みっちゃん」
意識が朦朧としたまま、それでもニコッと笑うユウ。
「ちょっとびっくりしたけど、大したことないから。下ろして」
「ユウどん、無理しんなーや! 爆発に巻き込まれたんやで! 大丈夫なわけあるかい! はよミサギどんに連絡して――」
大丈夫な証拠、とユウは腕の黒炭になったところを軽くこすった。
「なっ……」
みっちゃんが驚愕の声を呑み込んだのは仕方がない。黒くなった皮膚の下からは、数時間前と変わらない、怪我のない綺麗な肌があったのだから。
「たいていの怪我はすぐ治るから。それに兄ちゃんにだいぶ鍛えられてるから平気だよ」
それよりも――と、ユウは心配の顔を検査官と研究員に向ける。
「あの、機械が壊れちゃったらもうライセンスは取れないんですか?」
「あ? はぁ……いえ」
ユウの頑丈さを一緒に見ていた二人は、間の抜けた声をだす。返事としてそれが精一杯だった。
結局、機械が使えないかわりに、簡易的な機器で魔量を測定することになった。
非接触型体温計のような機械をおでこに近づけ、数秒で終わってしまった。
「正確な数値は取れませんが、それでも魔法士に足る力を充分にお持ちです。魔量計測はこれで終わりですので、次のライセンス登録へお進みください」
「機械、壊してしまってごめんなさい」
「次来るやつにゃ、もーちょい優しい対応したってな」
ユウは謝り、みっちゃんは少なからず憤慨した表情で言った。
「原因がはっきりしないのですから、君が謝ることはないです」
「こちらこそ、初期対応が遅れすみませんでした」
ユウは、平気だと言ったがみっちゃんにおんぶされて 検査室を後にした。
見送った検査官は怪訝な顔をする。
「……人間離れしてるにも程があるよ、あれ」
「今まで見た魔法士の中でもダントツね」
しばらくして、ユウ達が出ていったドアから、誰かが入ってきた。
「久しぶりに顔を出してみたら、珍しく受験者がいるって聞いて、そしたら何この騒ぎ?」
「室長!」
ちょうど機器が陰になり姿まではわからないが、背丈と声からして青年のようだ。
彼の腰ほどの高さしかない小さな二足歩行ロボットを連れて、棒つきの丸いキャンディを手でくるくると遊びながら口にいれる。
「も、も申し訳ありませんっ! 測定器が故障……と、いうか爆発してしまって」
「爆発!? 大丈夫? 怪我人とかは?」
「あー……それは……」
言いづらそうに顔を背ける二人に、青年はイラッとする。
「さっきすれ違った二人、免許取りに来たんでしょ? 背負われてた子の方、ちゃんとみてあげた?」
「は、はい! それは」
「でも、怪我はすぐ治ってしまってて」
二人が何だかんだと言い訳じみたことを並べ始めたので、青年は無視して少し考える。
「怪我がすぐ治る……爆発……んでもってあの髪の色か……。ちょっとそこ、ぐだぐだ言ってないで機器の修理を依頼してよ!」
「は、はいっ!」
彼の剣幕に、二人はビクッと身を震わせて二つ返事で作業に走りだした。
彼は、計器のデータを見つめる。
数値が異常なほど高いのに、グラフを追うほどに数値が激しく上下している。大抵の人間は、多少のぶれはあれど、これほどではない。このグラフに、不安定な印象を持つ。
「……我慢というか、抑え込んでいるようだな……」
彼は、なめていた飴をガリッと噛み砕いた。
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