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店の奥にある一室へ通されたユウ。
言の葉屋は襖を閉じると、火鉢より奥にある座布団をユウに勧める。そして、自分はどっしりと向かい側に胡座をかいた。
「手荒なとこを見せてもうてすまんのう。ここでは用のない奴は話ができぬ決まりでの。守る者は護られる。守らず話すものならば、言葉に狩られてしまうのさ。
あ奴には何度も厳しく言うておるのだが、世話好きが災いしてるようだて」
言の葉屋は「すまぬが一服するぞ」と言い、小さな壺が三つ乗ったお盆を引き寄せる。トントンッとキセルの火皿の葉を壺に落とし、別の壺からほぐした葉を火鉢の炭に当てる。
「あちちっ」
言の葉屋はチリチリと火のついた葉をキセルの火皿にふわっと詰める。
「さて」
吸い口から軽く吸い、少し吹き戻して煙をキセルから燻らせる。
その一挙一動がとても風流で、ユウは魅入ってしまった。
「蒼い小童よ、改めて話を聞かせてもらえるかの?」
吸った煙を舌で転がすように味わう。
「はいっ! あの、ボク、春日ユウって言います。マホウシのライセンスを取りに来たんですが――」
ことのあらましを身ぶり手振りで話すユウに、言の葉屋は煙をゆっくり出し、静かに耳を傾ける。
時に言の葉屋が質問し、ユウは戸惑いながらも応えていく。
「……なるほどのう……よう頑張って話した。お前さんはえらいな」
ニッコリする言の葉屋に、ユウは照れる。
「えっと、あの……」
「よかろう。お前さんの力になろう」
立ち上がると、筆と墨、それから和紙を出した。
「珍しいじゃろ。このご時世、もうほとんど目にすることはなかろう品じゃからな」
ユウは興味津々にその様子を見る。
「はい。タブレット用で筆タイプのペンは見たことありますが、本物は初めてです」
「そうであろそうであろ♪」
さらさらと何かを書き上げ、満足そうに掲げる。
ほとんど一筆で書き上げられたそれは、文字のようだがミミズがのたくったようになっており、ユウには何が書いてあるかさっぱりだった。
「これは『言織』と言ってな。この紙に書いた言葉は、字綴り屋によって綴られるんじゃ」
「コトオリ?」
「そう、『言葉を織り込む』と書いて『言織』。まあ、人によっちゃあ閉じ込める意味で『檻』を用いて『言檻』と言っておるヤツもおるがの。アタイは織り込む方が好きなんさ」
よく意味が分かっていないユウが、何とも言えない顔をしていると、言の葉屋は軽くウィンクする。
「アタイの方が優しいってことさね」
その和紙を横に二回折りたたみ、もう一枚の紙を取り出して包んだ。
「この紙は折封じゃ。昔よく使われとった封紙の折り方なんじゃ」
言いながら、器用に手早く封紙を三つ折りにして手紙を包んだ。封紙の上と下の部分を同じ長さにそろえて折り曲げた。
「おーい、井上坂!」
彼女は隣へ続く襖を少し開け、『井上坂』なる人物を呼んだ。
開いていた襖はゆっくりと閉まっていき、残るはほんの数センチ。その隙間から覗く目は彼女を拒絶しているようだった。
「……呼んだ?」
低い声が嫌そうに響く。
「仕事じゃぞい。ほれ、客は自分の目で確かめい」
「……わかった」
そういうと、襖は完全に開き、声の主が姿を現わす。
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