「俺もだ」
「?」
顔の赤みを抑えられず、上気したまま井上坂を見る。彼は、言いにくそうに少し俯いた。
「最初、無愛想にしていてごめん。俺たちのとこに来る客は、全員が楽して事を成そうとする大人だから。
……だから、君みたいな子供は初めてだけど同じように考えてた」
でも君は違った、と彼は謝った。
「何で謝るの?」
予想していた返事と違う言葉に、井上坂は「え……?」と目を丸くする。
「ボクだって、こうやって井上坂さんや言の葉屋さんに頼ってるよ」
「いや、君の場合は世界の方を君に合わせないといけないからだろ。それは言の葉屋と俺でないとできない事だ」
自分でも不思議なくらい擁護している、と井上坂は思った。
それもそうだ。ユウの姿に、彼のよく知る面影が重なっていることに、今気付いた。
井上坂は、小さな頭を撫でる。
大切に大切に、壊さないようにそっと。
「君を見ていて、懐かしい人を思い出した」
彼の瞳は、ユウを通してその人を見ている。
恩人か友人か、はたまた想い人か。懐かしき思いで表情が優しげになる。
ユウもつられて頬が緩んだ。
「きっと、その人も井上坂さんのこと、大切にしていると思う」
「え……?」
――どうして、そう思う
言おうとしてやめた。
ユウが言うなら、そうなのだろう。そう思えた。
「……そうだね。きっとそうだろうね」
「井上坂さんが大切に感じているのだから、その人も井上坂さんのこと大切に思っている。ボクだったら、そう考えた方が嬉しい」
薄菫の瞳はまっすぐ井上坂を映し出す。
透き通った瞳をきれいだと、ずっと見ていたいと彼は思った。
「ねえ、ユウ……手の平を出して」
「はい?」
急なことに戸惑っていると、井上坂から手を伸ばしユウの手をとる。
「わっ……!?」
「俺から君へ御守りの歌を綴るから。もし、危険なことに遭ったら、この歌を歌って御覧」
そう言って、ユウの手の平に指で文字を綴った。
綴られた文字は淡く光り、読み取ることはできなかったが、ユウの脳裏に歌となって流れてきた。
「うあ……なんか、すごい」
初めての感覚に、言葉の表現が追いつかない。
「忘れてたのを思い出したような感じがする?」
「うんっ!」
「そう、きっと役に立つよ」
言われて喜ぶユウの顔が、井上坂を自然と笑顔にした。
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