ユウの前に現れたのは、怪しげな金髪サングラス男だった。
丸く、顔の半分くらいの面積を占める黒いサングラス。雑にまとめてポニーテールにしたゆるやかふんわりした金髪。
極めつけは、よれよれのワイシャツに黒ネクタイ、黒いズボンといった、冴えないサラリーマン様相だ。
怪しくないわけがない。
「ミッサギどーん♪ おヌシの好っきな肉まん買ってきたなりぃ~♪」
「うわっわ!?」
間一髪、ユウは身を反らして迫りくる頭突きを避けた。
その反動で、再び仰向きにこける。
金髪の男は、肉まんが入っているらしい袋を片手で振り回しながら部屋中を走り回る。そして、散々走り回った後、男はようやく転げたユウに初めて気が付く。
「んぬっ、ミサギどんは? そして、おヌシは?」
いきなり床を突き破って出てきた変な……いや、ものすごく不審な男に応える必要はないのだが、ユウは思わず応えてしまった。
「ボ、ボクは春日ユウ……です。いきなり床から出てきたあなたは?」
「おうっ! わっしはみっちゃんぜよ!」
逃げるか攻撃するかどうするか悩んだが、ユウの脳裏では、いきなりわいてきた彼の正体への興味が勝利をかっさらった。
「みっちゃん、さん。なんで床から出てきたんですかっ?」
「んむ? そりゃ、ミサギどんにサプラ~イズ♪ するためやん!」
「ミサギさん、ここにはいないですよ」
「なんてことっ!」
くるくる回ったり、ショックを受けたり、頭上に豆電球が出現しピコンと光ったり、忙しい人だな、と思ったユウ。
「んじゃ、探しに行くわいな~!」
「?」
みっちゃんは、キョトンとするユウの手をいきなり引っ張った。
「わたっ!? ちょ、何なん……うわあっ!」
バランスを崩して、彼の開けた穴に落っこちた。暗く、狭い床下へ頭をぶつけるはずだったのだが――ぶつからない。
思わず閉じた目をうっすらと開く。
「……え? えっ!?」
ぽっかり空いた床の下には、あるべきものがなかった。
「ミラクルワンダーランドへよ~ぅこそぉ~♪」
一瞬、無重力感がユウの体を包む。そして、急に襲ってくる引力と抵抗の風。
それを知るのに、ユウの脳では数秒を要した。
「お、落ち……!? 落ちっつて落ちぁああああああああ!」
ユウは底なしの闇の中を落ちていた。
上を見ると、落ちてきた穴がなくなっている。
「な、何でぇえええぇぇええ!?」
「ここなあ、木戸はんが作り出した空間やね~ん」
呑気な声が隣からやってきた。
空中を落下しつつ平泳ぎしながらこちらへくるみっちゃん。
「……器用だ」
「木戸も一応魔法士やからなあ。空間を操んねん。屋敷も、外のだだっ広い草原も、ついでに太陽まで自分の空間なら自由自在なんよ~」
「空間を操るって……てか、落ちてるんですけどー!」
「おお! この状況で冷静なるそのツッコミ! なかなかやるのぅ!」
そう言って親指を立ててニカリと笑う。
「つ、突っ込んでる、わけじゃ……!」
落下の圧でしゃべりにくい。
「そういや、どこぞの童話にもこれと似たようなのがあったのう~」
金髪サングラスは懐かしげに明後日の方を見上げる。
ユウはその顔をじっと見た。
――何でだ!? 何であのサングラスはこの風圧ではずれたりしないんだっ!?
ユウの感じる限り、今までにない速度で落ちているにも関わらず、まったくずれさえしない男のサングラス。
そこだけ冷静にツッコんでいる場合ではないとわかってはいたが、つい考えてしまう。
男は、ユウの視線に気付いたのか、赤く染めた頬にてをあてて恥ずかしげな仕草を見せる。
ここまで読んでくださりありがとうございます。次回更新は、5月22日の予定です。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!