蒼の魔法士

アヤカシ・魔法・機械が織りなす現代ファンタジー
仕神けいた
仕神けいた

Seg 56 封印、そして…… -03-

公開日時: 2023年3月28日(火) 19:04
更新日時: 2023年6月6日(火) 15:05
文字数:3,416

 あまりのまぶしさに目を開けられないほどはげしい稲妻いなずまの空間。だが不思議な事に、ミサギにいたみはまったく感じられなかった。


「……?」


 音と光がだんだんと落ち着いてくると、ユウはそっとまぶたを上げ目の前に立つミサギを見る。


 おどろくことに、稲妻いなずま走る空間にいたのは、無傷むきずのミサギ。

 放電は続きバチバチと音までたてているが、これといったダメージは無い様子だ。

「み、みしゃぎ……しゃ?」 

「……何ともない」

 意外な結果にミサギは拍子抜ひょうしぬけした声でこたえる。

 頭上にハテナを飛ばすユウ。

 アラミタマも同じリアクションでなやんでいたが、再びミサギにねらいを定めて、かみなりたまった。

 今度は、けることなく真正面から受け止めるミサギ。

 先ほどと同じ轟音ごうおんひびかせ、辺りが光に包まれていく。しかし、やはり何も起こらない。

「ど、どういうこっちゃねん……?」


「メェ〜???」


 もしかして、と吉之丸よしのまるは気付く。

「東条さんの事、女性と勘違かんちがいしてるんじゃ?」

「は?」

勘違かんちがいしてて、男に変えようとしてるんじゃないっすか? 所長みたいに」

「えっ?」

 またもや核心かくしんいてしまった吉之丸よしのまる


 その発言を聞いて、ミサギの表情が変わる。

 を向けられたユウ以外のみなは、この世で見てはいけないいかりを見てしまったと、後に青ざめながら語った。


「ふざけるな…………ぼくは男だ」

 かつてない冷気を放ちながらつぶやく。


「!!??」


 まさに、ガーンとショックのかねを鳴らすアラミタマ。


「お、落ち着けって…………な?」

「せ、せやで……ほら、アラミタマいうても、もこもこの羊さんやん? キレても、しゃ、しゃーないやん? な?」


 みっちゃんとアスカは決死の覚悟かくごで止めに入る。アラミタマを封印ふういんするのだから問題はないはず。だが何故なぜか、止めないと途轍とてつもない惨劇さんげきが起こる気がしてならなかったのだ。


 木戸も察しているのだろう、かれから見えないよう大きな体でユウを避難ひなんさせてかくす。


 その場にいるすべての存在そんざいが体のふるえを感じていた。

 原因はきっと寒さだけではない。


 禍々まがまがしいオーラが周囲ににじみだし、ミサギは小さく口を動かす。


「…………ル シエ コンフェ ト シェス フェセスこいつの毛を残らず刈り取ってやる……!」


「ちょっ!? こ、言霊ことだま待って!? それ羊さんぜったいこわがるやつ言うてるやろ!?」

「アラミタマ相手に、温情ける必要があるの?」

「メヒェッ!?」

 アラミタマも恐怖きょうふを感じたのか、おびえてひきつった声を上げる。


「……ぼくいからせたのが悪い……!」

「や、やめたげてぇな……今はミサギどんの方が悪モンの顔なっちょるで~?」

「そ……それにさ……ほら、アラミタマは封印ふういんしなきゃ、ね?」



 ミサギは無言で無数に連なる氷のくさりきりを空気中から作り出した。

 アラミタマの起こした風は、ミサギの冷気と混じりかみなりが冷気に食われていく。

 んだ音をたてながら、刹那せつなのうちに小さな羊たちをきりすべつらぬき、くさり巨大きょだいなアラミタマをからめとった。


「メッ……メエエェ……」


 リィレァー……


 拘束こうそくからのがれようと、アラミタマはもがき始めるが、

動くなヴェスェス

 かれの一言で、恐怖きょうふとともに動きをふうじられる。


「……」


 ミサギは大きく息をし、



 ダンッ



 と、片足かたあしで思いきり地をみつける。


 その衝撃しょうげきだけで大地はけ、くぼみ、数分にわたる地震じしんを引き起こした。


ぼくの気が変わらないうちに、早く封印ふういんして」

 落ち着いた、いつもの表情を見せているが、くら漆黒しっこくひとみ無慈悲むじひな殺気を宿したミサギに、一同はしたがう他なかった。


 ◆ ◆ ◆


 緇井くろいは、急いで透明とうめい小瓶こびんを地面に置き、スマホをかざす。

 冷たい風が強く、かじかむ手でびんさえていなければ飛ばされそうだった。

 スマホを持つ手から、明るい青緑の花びらが無数にて、風にあおられ花吹雪はなふぶきす。しかし、AR機能でうつされた画面には、小瓶こびん魔法陣まほうじんだけがうつっていた。


 緇井くろいは、カシャリとシャッターを切る。

 すると、先ほどの魔法陣まほうじんびんきざまれているではないか。

 小瓶こびん確認かくにんすると、彼女かのじょはアラミタマへとびんの口を向ける。


「アラミタマをふうず……!」

 彼女かのじょが念をめると、小瓶こびんの周りに再び花びらがい始める。魔法陣まほうじんあわく青くともり、風が徐々じょじょびんへとまれていく。


 時を置かず、びん吸引力きゅういんりょくはどんどん増していき、アラミタマのもこもこからかみなりから、すべてをくすまで止まらなかった。


 み始めてから数分。

 ようやく最後の雲をわり、緇井くろいはすぐさまコルクでふたをする。


「……メェエエ」


 外へ出ようとアラミタマがうごめくと、びんれた。吉之丸よしのまるがあらかじめ用意していた麻紐あさひもきつける。

「くっ、キツ……」

 吉之丸よしのまるは、抵抗ていこうするたびに解けていく麻紐あさひもを、い緑の花びらをはらはらとさせながら力の限りびんきつける。ひもき具合がそのまま封印ふういんの強さを表しているようだ。


 アラミタマは、封印ふういんされてなるものかとあらがう。

「気合い入れろ! 今までのアヤカシとはちがうんだぞ!」

 緇井くろい手伝てつだってどうにか封印ふういん完了かんりょうした。


 びんは、きにいて、バレーボールほどの大きな麻紐あさひもの玉になっていた。もはやびんなのか玉なのかわからない。


「アラミタマをふうじるのは初めてだが、成功してよかった」

 そう言った緇井くろいは、出逢であった時のすらりと凛々りりしい女性へともどっていた。

「あ、所長! 元の姿すがたもどりましたね!」

「うむ。これで依頼いらいは達成できそうだな」


「無事に封印ふういんおめでと~う♪ いやあ、どうなることかと思ったけどよかったよかった♪」

 アスカが拍手はくしゅしてねぎらいの声をかける。


「ね、それ、見せてもらっても大丈夫だいじょうぶ?」

「ああ、構わない」

 びんというよりもはや麻紐あさひもの玉となった物を受け取ると、アスカはめつすがめついろんな角度から観察し始めた。


「へぇ、これが封印ふういん……バレーボールができそうだね」

 不思議な事にわりがわからなくなっている。


「これは、麻紐あさひもいた分だけアヤカシの力をふうじることができるんだ。びんにつけた魔法陣まほうじんは、どんな大きさのアヤカシも入るように術をほどこしている」

 しかし……と、緇井くろい悄然しょうぜんとした面持おももちになる。

「正直、アラミタマがここまで強力だとは思ってもいなかった。封印ふういんの方法も改良する必要がありそうだな」

「よかったらぼく手伝てつだうよ。封印ふういんについてもっと研究も進めたいし。

 君さえよければいつでもイヅナに連絡れんらくして」

 アスカは名刺めいし名刺めいしと言ってスマホを取り出す。

 画面には「国軍超常ちょうじょう現象研究機関所属けんイズナ所属研究員」の肩書かたがきが、アスカの子供こどもっぽい笑顔えがおの証明写真とともにうつされる。


ぼく個人への連絡れんらくはこっちにしてね。イヅナの代表番号だと左沢あてらざわさんが出てくれるだろうけど、多分室長の事で手いっぱいだと思うから」

了承りょうしょうした」

 二人ふたり名刺めいし交換こうかんをしている間、みっちゃんはキョロキョロと辺りを見回す。


「なあ、ミサギどんとユウどんは?」


「え?」

「そういえば……! ミサギ君、機嫌きげん悪いままだよ!」

「早く何とかせえへんと、いつ爆発ばくはつしてもおかしないで!」


 みっちゃんとアスカはさおになって、手当たり次第しだいまわってさがす。


「でも、本当にいないッスね」

 危機感ききかんゼロの吉之丸よしのまるも近くのしげみなどに入ってみたが、見つけられずにもどってきた。


「なに呑気のんきにしてるんだよ! あの性格破綻はたん者をっておいたら大変な事になるよ!」

 思わず大事さにさけぶアスカ。しかし、視界しかいに大きなかげを見つけ、救世主とばかりにひとみかがやかせた。


「木戸君っ! ああ君がいてよかった!」


 みなは、残された唯一ゆいいつの希望、木戸へと一斉いっせい視線しせんを向けた。

「君ならミサギ君の居場所がわかるよねっ?」


「……」

 木戸は、相変わらず寡黙かもくたたずまいでみなの注目を浴びていたのだった。


 ◆ ◆ ◆


 木々がしげる中、ミサギはねむるユウをかかえて歩いていた。

 表情は見えない。うつむいていて、何かをつぶやいているようだ。


 アンフェティト オイセオア

 シャンティレシャンティドゥ ヴィイレセア……


 それは子守唄こもりうたのように聞こえた。

 ミサギが言葉をつむぐたび、ユウの身体からうすすみのようなきりしていく。すると、アラミタマの魔力まりょくにあてられ紅潮こうちょうしていたほおが少しずつ落ち着いてくる。


 もう少しでユウも回復するだろう。そう思うと、ミサギの表情は無意識におだやかなものとなった。


「まったく、世話を焼かせる……」

 顔がまだ少し赤い。熱を計ろうにも両手はユウをきかかえてふさがっている。


 ミサギは、仕方無しに自身のほおをユウのほおにくっつけた。


 しばらく体温を確かめているうち、自分も熱くなってきた気がして顔をはなす。


「……?」

 ユウの熱が移ったかと思った。しかし、では、鼓動こどうが早まったのはなぜだろう。

 初めての感覚に戸惑とまどう。

 ミサギがその答えへと辿たどくのは、まだまだ先のようである。

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