「ボクが……ボクをいらないわけ、ないよ」
しかし、水人形のユウは「いらない、いらない」と、うわごとのように繰り返して否定する。
「だって、バケモノじゃん……かみだって、あおいし……アヤカシみたいだし、きっと、しんぞうさしたってしなないよ」
井上坂は、門の向こうにいるユウを見る。
――負けるな……自分に、打ち克て!
その表情は、自分自身の葛藤に勝てるかという懸念でいっぱいだった。
「じゃあ、ずっとこのまま?」
門の中のユウはさらに続ける。その声は怒気を含んでいた。
「ずっと、周りの言いなりになって縮こまっているの? 消えてしまえっていうの?」
「それは……」
「ボクはごめんだよ、そんなの」
門の隙間から、小さな手が出てくる。門を叩きすぎたせいか、それは血で染まり震えていて、それでも、もう一人のユウを求めていた。
水人形も手を伸ばそうとしたが、動けずに身を震わせるにとどまる。
井上坂は、水人形の短冊に向かって指で横一文字に斬る。短冊は花びらのように散って消えていった。
「ボクは、それでいいの?」
真っ赤な手から力が抜けていく。井上坂は門を開ける手に力を込める。
「おい、しっかりしろ!」
「そんな……わけない……」
水人形のユウは天に咆えた。
「ボクはバケモノでもアヤカシでもない! っていうか、ボクはアヤカシなんてだいっキライだ!」
ユウの手を、水人形のユウが握る。
「バケモノっていわれるの、やだ! ボクをおいてかないで!
いっしょにいたいよっ!」
赤い目からどんどん涙が溢れる。しかし、こぼれ落ちないように、必死に口を真一文字にする。
必死に握る手を、ユウは血の滴る手で優しく包み込んだ。
「うん……一緒だよ」
「!」
「ごめん、ボクが弱いばっかりに、不安にさせて――」
「それは悪いことなのか?」
「!?」
二人のユウ驚く視線の先に、井上坂がいた。
「お前はまだ子どもだろっ! できないことも、分からないことも多くて当たり前なのに、お前は自分自身の力で頑張ってる!」
井上坂は、門を開けようとさらに手に力を入れる。
「お前がバケモノ? どこがだよ!?
僕からすれば、フツーの! でも、心の強い! 蒼童だっ!」
その叫びに、闇の色をしていたユウは、水のように流れ落ち、中からもとの幼いユウが現れた。
止まらない涙を何度も拭い、泣きじゃくりながら、ユウの手を握りしめている。
朱綴りの門がゆっくり開き、中からもう一人のユウが現れた。
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