蒼の魔法士

アヤカシ・魔法・機械が織りなす現代ファンタジー
仕神けいた
仕神けいた

Seg 03 魔の途を知る者 -02-

公開日時: 2021年3月26日(金) 19:00
更新日時: 2023年6月6日(火) 13:43
文字数:1,542

 口の悪さすら忘れ、ユウも顔を赤くしながら礼をする。


「は、はじめまして。こちらこそよろしくお願…………って、え?」


 ユウは目を見開いた。


「え、とうじょ、え? 兄ちゃ……じゃ、え?」


 確か、兄に言われて会いに行く人の名も東条ミサギであったと思い出す。その人は男だと聞いていた。


 目の前にいるのは、ユウから見て女性にしか見えないのだが――。


「お……おお男……?」


ぼくは、自分が女だなんて言った覚えはないよ。あと、人を指差さない」


 東条は悪びれもせずに言う。


「あの……じゃあ、あなたがにいちゃんの言ってたアカツキの――」

 言葉の続きはこおって出てこなかった。

 周りの空気が、一気に五度下がったように冷えわたる。



「ユウ君」


「!?」


 ユウの背中がぞくりとする。

 いつの間に近付いたのか、東条の顔がれるほど間近にあった。


 温かい指先がユウのほおを伝う。






「それはヒスイだけが使っていい呼び名だ。かれは親友だからね。

 ……だけれどね、だからといって君が使っていいという道理はこれっぽっちもないよ」


 ひとみこおるように冷たい。


 しかも、ひとみを見ているだけなのに、すべての感覚がどんどん失われていく気がする。

 遠くから、おぼろげに声が聞こえる。


「――聞いてるかい、ユウ君?」


「は……はいっ!」


 突然とつぜん、耳元から声がして、ユウはおどろいてがった。案の定、体の痛みで再度うずくまることになった。


「うん、よし」


 ぱっと、無邪気むじゃき笑顔えがおになる東条。

「それじゃ、自己紹介しょうかいはこのくらいにして。今日きょうはゆっくり体を休めるといいよ。くわしい話は明日あしたにでも聞くから」

 そこでユウはあることを思い出した。


「あ、あの! 一緒いっしょにいた女の子は大丈夫だいじょうぶでしたか? ケガとかなかったですか?」


「女の子?」

 東条が不思議そうな顔をする。


ぼくらが見つけたのは君一人ひとりだけだよ」

 そんな子いたっけ、と木戸に確認かくにんする。かれもまた知らないらしく、首を横に降っていた。


 どういうことだろうか。

 気を失ってから何が起こったかがわからない。東条がユウを発見する前に目が覚めて、どこかげてしまったのだろうか。


「え? ボク、背負しょってたんです、気絶した女の子。その子に道をたずねたときにアヤカシにおそわれてしまって――」


「……ふうん」

 さほど、どころか全く興味なさそうである。


「どうでもいいことだけどさ、大方、目が覚めて勝手に帰ったんじゃないの? 最近はほら、薄情はくじょうな人間ばかりだから」


「ハクジョォ……」

 かれに言われてしまうと、その女の子の方がかわいそうになってくる。それほどかれの言い方は冷たかった。


「それより、君の方が問題だよ」

 東条がずいっと近寄る。

 ユウは反射的に目をらした。あまりに近い。顔が上気するのを止められなかった。


「君、自分がどういう立場の人間か理解できてないの?」


「そんなことは――」

 ない、とユウは否定しようとするが、言葉の最後はうまく出なかった。


「君みたいな子が無防備に街中を歩くなんてどうかしてるよ」


「だって、昼間っからアヤカシが出るなんて初めてで――!」


「理由になってない」


 東条はぴしゃりと言う。


「君のように、無意識にアヤカシを呼び寄せてしまう人間が街を歩くだけで、どれだけの無関係な人をむことか」


 ユウはみかけるが、ふと目を見開く。


「なんで……わかるんですか? ボクがアヤカシを呼び寄せる体質だって」


 すると、東条は自分の首元をチョンチョンと指した。

 ユウがつられて首元に手をやると、十字架じゅうじかのチョーカーがあった。

「それ、アヤカシけの石だよ」


 ピシ……と小さく割れる音がしたので、十字架じゅうじかを取ってみると、中央にはめまれた小石にひびが入っていた。


 役目を果たしたのであろう、それはみるみる砂となって消えていった。


「言ったろう、君の兄上から話を聞いたって。その兄上から注意されなかったのかい? 君はもっと周りに気を配った方がいい」

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