蒼の魔法士

アヤカシ・魔法・機械が織りなす現代ファンタジー
仕神けいた
仕神けいた

Seg 51 遇う者たちの生業 -02-

公開日時: 2023年2月28日(火) 19:01
更新日時: 2023年6月6日(火) 15:00
文字数:1,955

 突如とつじょやってきたあらしは、やりたい事言いたい事をまき散らし、あっという間に去っていった。


 週末になるのがなんとなく不安なユウ。

 しかし、睡眠すいみん中に容赦ようしゃなくまれる知識とともに日々は過ぎ、すぐその日はきた。


 目的の場所は、ミサギの屋敷やしきから車で数時間はかかる距離きょりだったのだが、木戸の能力により時間も労力も割愛かつあいされた。

 おかげで、ユウは昼食も屋敷やしきでゆっくり満足行くまでたいらげることができた。


 そうして昼下がりに目的地へと着いた五人。


「ここ、ですか?」

 目の前にある建物を見上げながらつぶやいたのはユウだ。

 道路に面した場所に建つ雑居ビルは、近代的なデザインながらも、どこかなつかしさをかもす。

 壁面へきめんをおしゃれにおおう黒い木の板と、ステンレスでできた正方形の看板かんばんのおかげかもしれない。


 看板かんばんにはシンプルに『緇井くろい行政書士事務所』とあった。


「ンーイー、ユクセー……カキシ?」

「うんうん、緇井くろい行政書士、な」

 みっちゃんがユウの頭をでる。

 アスカは、

「おかしいな? あの装置そうちには基礎きそ知識も入れているんだけど……」

 と、首をかしげた。


魔法士まほうしの事務所じゃないんですか?」

 ユウの直球な質問に、だれもが複雑な顔をする。


魔法士まほうしはね、まあ、なんていうか」

「うさんくさいと思われるから看板かんばんには出さないんだよ」

 言いにくそうなミサギに対し、アスカがズバッとてる。

「それに魔法士まほうし一本じゃ食っていけないから、ほとんどが兼業けんぎょうしているんだよ」

「へぇ……」

 ユウは、知らなかったと目を見開く。


緇井くろいさんの事務所は、行政書士だけでなく探偵たんてい業もねていて、ついでに言うと魔法士まほうしが経営もしているんだ」

魔法士まほうしが!? ギョーセーと探偵たんていまでやってるの!?」

 おどろいてミサギを見ると、当然だという表情をしていた。

「今のご時世、それくらいしないと生きていけないからね」

「行政書士と探偵たんていって、兼業けんぎょうしてるところ結構あるよ。書類の手続きで行政書士の資格が必要な場面が多いからね」


「じゃ、じゃあ、ミサギさんも探偵たんていやったりして……?」

 ミサギの探偵たんてい姿すがたおもかべ、想像がふくらむ。

「やらないよ、面倒めんどうくさい」

 せっかく想像したのに、するどはりされた風船がごとく、一瞬いっしゅんにしてられてしまった。


「ミサギ君は特殊とくしゅだからね~。政府から直接依頼いらいをもらうから、むしろほかの業務はできないんだよ。あ、ちなみにアヤカシ関連でほか魔法士まほうしをサポートしてるのは政府からの依頼いらいなんだよ」

「政府から?」

「そうそ……あ」

 アスカの口はすべしそうになる前に自ら止まった。ユウの後方からにらむ絶対零度の視線しせんのせいであった。


「……うん……まあ、ミサギ君についてはまたおいおい、ね。

 ほら、中に入ろう♪」

 アスカはユウの手を取り、とびらして中に入った。

 内装ないそうは白い漆喰しっくいかべに木目調のゆかで、シンプルながらも落ち着いた雰囲気ふんいきだ。


「こんにちは~」

 無人のカウンターがあったが、すぐに足音が近づき、

「お待たせし……げっ!」

 出迎でむかえたのは、ボサボサ頭の黒縁くろぶちメガネをかけたえない男性だった。

 ミサギを見るなり失礼な声を上げる。


「やぁ、久しぶりだね。来るとわかっての君の態度も相変わらずだ」

 ミサギは慣れた口調で挨拶あいさつわす。

「お……お待ちしてました東条、さん。所長は中におりますので……」

 あからさまに見せる嫌々いやいやな態度に、ユウはほほふくらます。が、発言する前にみっちゃんにほおを軽くつつかれる。

「どこも同じや。我慢がまんしいな」

 あきらめた表情のみっちゃんに言われてしまうと、シュンとうなだれるしかなかった。


 そんなやりとりを知ってか知らいでか、渋々しぶしぶとした表情とともに、かれは一行をカウンターのおくへと案内した。

「お連れの方も、こちらへどうぞ」


 さほど大きくない事務所は、受付、事務スペース、応接間をワンフロアにして一望できるレイアウトだ。白いかべ漆黒しっこくに焼かれた杉板すぎいたで統一されたデザインオフィスは、見るだけで管理者の几帳面きちょうめんさが感じられる。

 アクセントにオフィスグリーンが置かれ、ぬくもりの生えた空間だけが、ユウたちを歓迎かんげいしていた。


「ようこそいらしてくれた」

 長身で細身の、しかし出るとこはしっかり出ているスタイルのいい女性が、軍人のごとき口調で会釈えしゃくする。


 スラリとしたシルエットのパンツスーツ、少しでもかたむけば転んでしまいそうな高いピンヒールをいてもなお、姿勢しせいを正している。

 きびしそうな雰囲気ふんいきかもしてはいるが、男性だけでなく女性もれてしまいそうなほど凛々りりしく優雅ゆうがだ。


「どうも、東条さん。お久しぶりです」

緇井くろいさんもつつがなくお過ごしのようで」


 執務しつむ用のデスクをはさんで、ピリピリとした空気がただよう。


「この子が例の仕事体験の子かい?」

 緇井くろいは、ユウを見下ろす。

 電話でのさけごえを思い出したユウは、あわてて頭を下げる。

「はっ、初めまして! 春日かすがユウです! よろしくお願いします!」


 じっとユウを睨むこと数秒。

「……かわいいじゃないか」

「!?」

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【落書き】

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