――――両手にカバンとスーツケースを持ちながら、駅の中を走っていた。
「じゃあ行ってきます」
そう言って、夏生は両手に荷物を持ちながら慌ただしく家を出た。次の電車に乗らなければならないのだ。
ポケットからスマホを取り出した。
「やばっ」
時刻はすでに電車に間に合うギリギリだった。
夏生はとにかく走った。これを逃せば次に電車が来るのは1時間後なのだ。
草木の茂る平原を、夏木は電車の窓から見ていた。
おもむろに財布から『黒本夏生』と書かれた学生証を取り出し眺める。太陽に照らされて光が反射した。
春から大学生の夏生は、親元を離れてこれから一人暮らしをはじめる。
夢見ていた大学生。
夏生はこれから始まる大学生活に夢を膨らませていた。
溢れんばかりの期待と共に、母に買ってもらったカバンに夏生は学生証をしまおうとした。
カバンの中にチラリと見える小さな白い手鏡が目にとまった。
夏生と妹の千映は双子である。それも顔がそっくりの一卵性双生児だ。
2人は髪型が違わなければ見分けがつかず、小さい頃に両親を騙して遊んだ事もあった。
――千映と一緒に大学生活を送るはずだっのに。
千映は大学入試の数日前に交通事故に遭った。信号無視の車にはねられてしまったのだ。
緊急入院することになった千映は、入学試験を受けることが出来なかったショックで塞ぎ込んでしまった。
今もまだ入院はしているが、怪我は順調に回復しもうすぐ退院の予定日だ。
夏生は前日に千映の病室を訪ねていた。
「お姉ちゃん! ついに大学生だね!」
夏生が病室に入るなり、千映は驚いた様子で夏生を迎えた。帰り際、夏生の大学祝いとして千映は自分の使っていた白い手鏡を贈った。
夏生は、まだ塞ぎ込んでいるものだと思っていた千映が持ち前の明るさを取り戻していたことに安堵した。
一緒に大学へ行けないのは悲しいが、あれだけ元気ならば大丈夫だろう。帰省するときはたくさん土産話をもって帰ろう。
そう思いながら夏生は学生証をしまい、窓から見える景色に目をやった。
初めて書く小説です。
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