ヒロインでも悪役令嬢でもないただの商人ですが、異世界ライフお助けします。

彩理
彩理

2 落ちてきたのは勇者でした

公開日時: 2020年9月1日(火) 21:52
文字数:1,157

「魔法陣…………」



「アニメとかゲームに出てくるやつです」

 ここでは現実だけどね。


「魔法陣…………」

 少年は記憶を探るように考え込むと、「いやいや、そんな馬鹿な……」「あり得ないだろ……」とぶつぶつ言っている。


「魔法陣、あったんですね」


「………あったような気がする。視界が光に包まれたとき、足下に沢山文字が書かれたもの、あれが魔法陣なのか?」

 少年が―――光が自信なさげに視線をさ迷わせ、それから、子供のような視線で見つめてくる。


「なるほど、じゃあ魔法陣で召喚したのに、召喚者のところじゃなくてこの森に落ちてきちゃったんだ」

 これは今ごろ血眼になって探してるな。ガリレ、隠蔽魔法かけてくれてるよね。ただ縛り上げただけなら、許さん。


「別に落ちてきたわじゃないけど、森に倒れてただけだし」

「そんな事どうでもいいから、ステータスを見せて」

「ステータス?」

「そう、ステータス。召喚されたんだから、それくらいできるはず。ステータスオープンとか言えば開けるんじゃない? どこかに冒険者か勇者って書いてない?」


 光はまだ、半信半疑のようだったが、言う通りにステータスを開くと、驚いた顔でじっと確認していく。私も横から覗き込む。

 この世界の人間でも、自分のステータスを見られる人間は限られている。鑑定魔法が使えるか、チートな設定で落ちてきた人間だけだ。


 そして、やっぱり光はチートで勇者だった。


「俺が勇者――――」

「そうみたいね」

 未だ呆然としている光をよそに、手早く縄を解いていく。もう暴れたりしないだろう。

「誰が俺を召喚したんだ?あの男か?」

 あの男とは、光をこの家に案内して、手足を縛った男のことだろう。


「ガリレじゃないわ。彼は魔術師。趣味で魔法の研究をこの森でしているの。私は彼にこの森に落ちてくる、異世界人を保護するように依頼している。あくまでも保護で、決して監禁ではないわ」

 あえて、ガリレがこの世界で最強宮廷魔術師であることは言わなかった。


「保護って、どうしてだ?」

「どうしてって、決まってるじゃない。この森は魔物がうじゃうじゃいるし、普通の人間じゃ1時間だって生きていけない。光は勇者だけど、今は魔法も剣も使えないでしょ。まあ、同郷のよしみね。いい、覚えておきなさい、どんなにチートでも人間一人じゃ生きていけないの」

 もちろんそれだけじゃないけどね。


「異世界人を保護って、そんなに何人も落ちてくるのか?」

 光は縛られていた手首をさすりながら、聞いてきた。手加減無しで縛られていたのだろう、赤いみみず腫れが浮かんでいる。

 後でガリレが治してやればいいのだが、デモンストレーションとして調度いい。手を伸ばし光の手首を掴んで、治癒魔法をかける。


「うわ!!」

 あわてて手を引っ込めて、光はその場に立ち尽くす。

「これは治癒魔法で、結構貴重で難易度高いから」


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