「凄いな」
「そうでしょ、この世界は魔法があって、ドラゴンや精霊がいる。魔王も勇者もそんなに珍しくないしね」
「勇者が珍しくないのか? 職業としてあるとか?」
「職業って訳じゃないけど、私が思うに、この世界はいろんな二次元が集まっている世界って感じ」
「?」
「うん、意味不明だよね。う~ん、大雑把に言えば、複数のゲームの世界や小説の世界を共有しているらしいの。魔王は4人も存在するし。ピンクの髪のヒロインなんて、3人も会ったことあるし、ほんともうビックリだから」
「これって夢か?」
光はちょっと考えて、夢落ちと言う結論を出したようだ。
「残念だけど現実。この世界で死んだら、痛いし苦しいから」
実は私もこの森に落ちた一人だ。偶然ガリレに助けられなければ死んでいた。
二次元だと思っていた世界で本当に死ぬなんて笑えない。
「なぜこの森に異世界人が落ちてくるのは予想はしてみたけど、確かなことは神様にしか分からないんじゃいかな。さあ、足首の傷も治してあげる」
そっと光の足に手をかざす。
光は黙って見ていた。手首を治したときには、驚いていたが嬉しそうだったのに今は喜んでいると言うよりどこか不機嫌そうだ。
「光の場合、召喚した術者の力量が足りなかったのかもね。召喚魔法は最高難度の魔法だから、複数で魔法陣を造ることも珍しくないの。だから、この世界に召喚することはできたけど、森の持つ魔力に負けたのかな?」
そのおかげで、勇者様にあえて光栄です。少し冗談ぽく言ったのに、光の答えは意外なものだった。
「俺は勇者にはならない。もとの世界に戻りたい」
えっ!
チートな勇者なんて最強なのに
「なんで………」
「なんで? それはこっちが聞きたい、なんで俺が勇者なんてしなきゃならないんだ。魔王倒して何の特がある?」
今時の中学生はこんなに冷めているのか?
まあ、勇者と言えば思い付くのは魔王討伐。それ以外の理由で召喚されたのかもしれないけれど、勇者にしかできない危険なことのためだろう。
いくらチートな勇者でも命がけ。
普通にモブキャラなら、スマホなしで文明の遅れた世界なんて、帰りたくて当然だ。
「なるほど―――――。帰りたいのは今はどうにもならないけど、勇者にならないってのは協力できるかな」
「いつか帰れるのか?」
真剣な眼差しが、ごまかしは言わないでくれと言っているようだった。
『今は』と言ったので期待させてしまったのか、『帰れない』を心から言えなかった気持ちを見透かされたのか、どちらにしても今は真実をすべて話す訳にはいかない。
「それは分からない。光を召喚した魔術師に聞かないと。でも、召喚場所に飛ばせなかったのをみるかぎり、送り返すほどの力はないかも。それに、召喚の魔法陣はまだ有効だと思う」
これだけの大きな魔法を召喚場所ではなかっとしても成功させたのだ、自分の魔法の軌跡を追っているに違いない。
「たぶん、ガリレが隠蔽魔法をかけいてくれてるから見つかってはいないけど、いつまでもこのままと言う訳にはいかない」
「俺を召喚した奴はまだ俺を探しているってことか。ガリレは俺を送り返せないのか?」
「ガリレには無理」
今度はきっぱりと否定できた。
「帰る方法を探すにしろ、まずは召喚魔法を無効にするのが先、隠蔽魔法は魔法そのものがなくなる訳じゃないから。魔法はかけた人間にしか解けないし」
光は私の言葉を理解はしているのだろけれど、腕組みをし黙って考え込んでいる。
まあ、受け止める時間は必要だ。
「さっき、君は俺に協力できるといったよね、具体的に何を協力できるんだ?」
君か―――――。
ちょっと距離感あるし、年上にどうなのと言ってやりたいけど、まあいい。
私はテーブルの上にA4のプリントを数枚出して確認し、光の前にボールペンとともに置いた。
さて商売といきますか。
「これは?」
「顧客シートと依頼書です。簡単な料金表もつけてます」
明らかに光は引いているようだったが、構わず続ける。
「森での保護、状況説明、先ほどの治癒魔法はサービスです。ご希望なら、近くの町までの転送までサービスいたします。ガリレの隠蔽魔法も町までサービスしますので、じっくり考えてもらって構いません」
にっこり営業スマイルで言うと光は呆けてわたしを見た。
「金とるのか」
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