加藤 飛鳥はスカウトされ体験入部に行った運動部の先々で、その競技では全国トップクラスの男子部員の上級生たちを、その競技でやすやすと負かした。
キャーッ! 飛鳥くーん‼
素敵ーッ♡ 抱いてーッ♡
一方、飛鳥が活躍する度に彼を取りまく女性たち──全学年の女子に女性教師──からは歓声が上がった。そこには屍と化した男子たちの誰かの、恋人や想い人の姿もあった。
ウラヤマシイ……ネタマシイ……トラレタ……
すすり泣く屍人たち。だが、その目が憎悪の火に燃えることはなかった。飛鳥が熟練者ならまだしも、どの競技でも初心者だと知り、あまりの敗北感から虚脱していた。
飛鳥をスカウトした各部だが、もう誰も彼の入部など望まなくなっていた。彼さえいれば全国優勝は確実でも、彼が傍にいては比較される惨めさに耐えきれない。
飛鳥にも入部する気は元からなかった。
誘われた部には冷やかしに行っただけ。
それを一通り終えても、飛鳥は帰宅せずに校内を歩いていた。それに無数の女性たちが付いていって廊下を塞ぐ。その1人が、猫撫で声で訊ねた。
「飛鳥くん、次はどこ行くの~?」
「元から入るつもりの、本命だ!」
¶
アーカディアン部・部室。
咲也に続いて常磐を破った顧問の巨乳美人教師・風間 菫は、次に六花、その次に小兎子とも対戦することになった。
咲也たち入部希望者4名は、自分が菫と対戦していない時には他の相手なりCPUなりと対戦していても良かったのだが、誰もそうせず菫の戦いを見物した。
菫という、未知の凄腕プレイヤーの動きを観察して自分の糧とするほうが有意義だと判断したから。そうした学びは格下からもできるが、菫は完全に4人より格上だった。
「きゃっ!」
常磐に続いて六花も敗れた。
六花の次に小兎子も敗れた。
「あーっ‼」
小兎子が悔しげに叫び、アーカディアン用ゲーミングチェアの上でVRゴーグルを外す。別のゲーミングチェアに座った菫が、VRゴーグルを外して小兎子に微笑んだ。
「月影さん~お疲れさま~♪」
「お、お疲れさまです! 負けました、完敗です」
「謙遜しないの~惜しかったじゃない~」
「そ、そうでしょうか」
「お世辞なんかじゃないわよ~? あなたにも~名雪さんにも~岩永くんにも~立花くんにも~毎回ヒヤヒヤさせられたわ~っ。4人とも強いのね~♪」
「「「「ありがとうございます!」」」」
4人は素直に礼を言った。
そこには尊敬の念がある。
悪を裁くためとはいえ暴力も辞さない姿勢も、その戦闘能力が達人的なことも怖いし、六花と小兎子からは咲也に近づく悪い虫としても警戒されているが、それはそれとして。
人間の価値はロボットの操縦技能の高さで決まる──という、ロボットに魂を引かれた者特有の歪んだ価値観を持つ4人には、菫はそれだけで偉大な存在。
この人が顧問で良かったと。
4人は幸運に感謝していた。
「これから先生がビシバシ鍛えて~もっと強くしてあげる~っ。そしたら~夏の大会での優勝だって~もらったも同然よ~っ!」
「いえ、その」
「岩永くん~? な~に~?」
「話を蒸しかえすようですが、大会には選手が5人いないと出場できません。夏までに部員を獲得する手立てを考えませんと」
「そうね~それも考えましょ~。部員は多いほうがいいもの~。でも~最低限のメンバーは~もう揃ったみたいよ~?」
「揃った?」
「言ったでしょ~? アンケートにアーカ部って答えた子がもう1人いるって~。その子が~ようやく来たみたいよ~?」
「「「「え⁉」」」」
ガヤガヤガヤ……なにやら外から騒がしい声が聞こえてきた。その音源が近づいてきて──ガラッ‼ と開かれた扉の向こうの顔を見て、常磐が顔をしかめた。
「入部希望、加藤 飛鳥! 只今参上‼」
きゃーっ! ──飛鳥の決め台詞に続いて歓声を上げる、その背後のたくさんの女性たち。室内から開いた扉の向こうに見えるだけでも廊下が埋まっている。
その声の多さから、自分たちが飛鳥と1年A組の教室で別れた時よりも増えているらしいと4人にも分かった。不快感も露わに常磐が飛鳥に突っかかる。
「加藤! お前が5人目だったのか‼」
「ハァ? 誰が5人目だ! オレが1人目、アーカディアンでもオレが最強に決まってんだろーが!」
「強さの順位の話ではない! だが、いいだろう……その言葉、証明してみせろ。アーカディアンの1対1で、俺と勝負だ‼」
ビシィ! と指を突きつける常磐。
飛鳥は狩猟者の顔になって笑った。
「へーえ? ……なんだ、オメー。昼間、オレにバスケで負けたウドの大木じゃん。リベンジか? いいぜ、かかってこいよ!」
「岩永 常磐だ! 他のなにで負けようと……愉快ではないが、まぁいい。だがアーカディアンで、ロボットの操縦でだけは! 貴様のような奴には絶対に負けん‼」
キーンコーンカーンコーン……
「下校時間ですね。では帰ります」
ズコッ‼ 闘志を燃やしていた常磐が下校のチャイムが鳴るやクールに帰り支度を始めたことで、彼以外の全員が脱力した。
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