※打切※ 機甲遊戯アーカディアン

Mech Game Arkadian
天城リョウ
天城リョウ

勢揃い

公開日時: 2021年4月2日(金) 16:12
文字数:2,000

 とう 飛鳥あすかはスカウトされ体験入部に行った運動部の先々で、その競技では全国トップクラスの男子部員の上級生たちを、その競技でやすやすと負かした。



 キャーッ! 飛鳥あすかくーん‼


 素敵ーッ♡ 抱いてーッ♡



 一方、飛鳥あすかが活躍する度に彼を取りまく女性たち──全学年の女子に女性教師──からは歓声が上がった。そこには屍と化した男子たちの誰かの、恋人や想い人の姿もあった。



 ウラヤマシイ……ネタマシイ……トラレタ……



 すすり泣く屍人ゾンビたち。だが、その目が憎悪の火に燃えることはなかった。飛鳥あすかが熟練者ならまだしも、どの競技でも初心者だと知り、あまりの敗北感から虚脱していた。


 飛鳥あすかをスカウトした各部だが、もう誰も彼の入部など望まなくなっていた。彼さえいれば全国優勝は確実でも、彼が傍にいては比較される惨めさに耐えきれない。


 飛鳥あすかにも入部する気は元からなかった。


 誘われた部には冷やかしに行っただけ。


 それを一通り終えても、飛鳥あすかは帰宅せずに校内を歩いていた。それに無数の女性たちが付いていって廊下を塞ぐ。その1人が、猫撫で声で訊ねた。



飛鳥あすかくん、次はどこ行くの~?」


「元から入るつもりの、本命だ!」







 アーカディアン部・部室。


 さくに続いて常磐ときわを破った顧問の巨乳美人教師・かざ すみれは、次にりっ、その次にとも対戦することになった。


 さくたち入部希望者4名は、自分がすみれと対戦していない時には他の相手なりCPUなりと対戦していても良かったのだが、誰もそうせずすみれの戦いを見物した。


 すみれという、未知の凄腕プレイヤーの動きを観察して自分の糧とするほうが有意義だと判断したから。そうした学びは格下からもできるが、すみれは完全に4人より格上だった。



「きゃっ!」



 常磐ときわに続いてりっも敗れた。


 りっの次にも敗れた。



「あーっ‼」



 が悔しげに叫び、アーカディアン用ゲーミングチェアの上でVRゴーグルを外す。別のゲーミングチェアに座ったすみれが、VRゴーグルを外してに微笑んだ。



つきかげさん~お疲れさま~♪」


「お、お疲れさまです! 負けました、完敗です」


「謙遜しないの~惜しかったじゃない~」


「そ、そうでしょうか」


「お世辞なんかじゃないわよ~? あなたにも~ゆきさんにも~いわながくんにも~たちばなくんにも~毎回ヒヤヒヤさせられたわ~っ。4人とも強いのね~♪」


「「「「ありがとうございます!」」」」



 4人は素直に礼を言った。


 そこには尊敬の念がある。


 悪を裁くためとはいえ暴力も辞さない姿勢も、その戦闘能力が達人的なことも怖いし、りっからはさくに近づく悪い虫としても警戒されているが、それはそれとして。


 人間の価値はロボットの操縦技能の高さで決まる──という、ロボットに魂を引かれた者特有の歪んだ価値観を持つ4人には、すみれはそれだけで偉大な存在。


 この人が顧問で良かったと。


 4人は幸運に感謝していた。



「これから先生がビシバシ鍛えて~もっと強くしてあげる~っ。そしたら~夏の大会での優勝だって~もらったも同然よ~っ!」


「いえ、その」


いわながくん~? な~に~?」


「話を蒸しかえすようですが、大会には選手が5人いないと出場できません。夏までに部員を獲得する手立てを考えませんと」


「そうね~それも考えましょ~。部員は多いほうがいいもの~。でも~最低限のメンバーは~もう揃ったみたいよ~?」


「揃った?」


「言ったでしょ~? アンケートにアーカ部って答えた子がもう1人いるって~。その子が~ようやく来たみたいよ~?」


「「「「え⁉」」」」



 ガヤガヤガヤ……なにやら外から騒がしい声が聞こえてきた。その音源が近づいてきて──ガラッ‼ と開かれた扉の向こうの顔を見て、常磐ときわが顔をしかめた。



「入部希望、とう 飛鳥あすか! 只今参上‼」



 きゃーっ! ──飛鳥あすかの決め台詞に続いて歓声を上げる、その背後のたくさんの女性たち。室内から開いた扉の向こうに見えるだけでも廊下が埋まっている。


 その声の多さから、自分たちが飛鳥あすかと1年A組の教室で別れた時よりも増えているらしいと4人にも分かった。不快感も露わに常磐ときわ飛鳥あすかに突っかかる。



とう! お前が5人目だったのか‼」


「ハァ? 誰が5人目だ! オレが1人目、アーカディアンでもオレが最強に決まってんだろーが!」


「強さの順位の話ではない! だが、いいだろう……その言葉、証明してみせろ。アーカディアンの1対1で、俺と勝負だ‼」



 ビシィ! と指を突きつける常磐ときわ


 飛鳥あすかは狩猟者の顔になって笑った。



「へーえ? ……なんだ、オメー。昼間、オレにバスケで負けたウドの大木じゃん。リベンジか? いいぜ、かかってこいよ!」


いわなが 常磐ときわだ! 他のなにで負けようと……愉快ではないが、まぁいい。だがアーカディアンで、ロボットの操縦でだけは! 貴様のような奴には絶対に負けん‼」



 キーンコーンカーンコーン……



「下校時間ですね。では帰ります」



 ズコッ‼ 闘志を燃やしていた常磐ときわが下校のチャイムが鳴るやクールに帰り支度を始めたことで、彼以外の全員が脱力した。

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