「立花くん?」
「えっ……?」
総帥の声に、立花 咲也は我に返った。全高380㎝以下の搭乗式人型ロボット【アーク】を駆って模擬戦をする競技【機甲道】の練習試合を観戦していて……
3対3の集団戦で両チーム最後の1機になった白のブルームと赤のブルームの剣戟。白いほうの振るったライトセーバーが赤いほうの胴体を薙いだところまでは覚えている。
今、競技場では6機が退場するところだった。
試合中やられた機体は動かなくなっていたが今は動いている。本当に壊れていたのではなく撃墜判定を食らうと試合中は操縦を受けつけなくなるシステムが機体に組みこまれているのだろう。
それはともかく……最後に見たところから場面が飛んでいる。そのあいだ周りが見えなくなっていたようだ。
「つまらなかったかのう?」
「とんでもない! ただ途中から『どうやって操縦してるのか』考えこんじゃって……僕がブルームに乗った時 把握した範囲では不可能な動き、たくさんあったので」
「なーんじゃ……アークの操縦方法の全て。知りたいかね?」
「はい‼」
即答すると、総帥はニンマリした。
「なら話が早い。さっそく次の場所へと移動しよう。今日、君らに見せたかったのはこの機甲道が最後ではない……次こそ最後、そして本命じゃ!」
「「「「えっ⁉」」」」
咲也だけでなく傍にいる岩永 常磐・名雪 六花・月影 小兎子も驚いた声を上げた。3人もこれで終わりと思っていたのだろう。
ここで世間には未公開のアークの実物が戦っているのを見せてもらうのが、先日 火事場で見てしまったアークのことを秘密にする口止め料だと。
「それでは参ろうか!」
「「「「はい!」」」」
借りていたMRグラスを係員のお姉さんに返し、スタジアムを出た咲也たち4人は総帥にすぐ隣のきらびやかな建物へと連れていかれた。
〔ビデオ・アーケード〕
という名のここはいわゆる〔遊園地内のゲームセンター〕で、ロボットテーマパークであるこのロボット島園の場合、置かれた業務用ゲーム機もロボット物オンリーだった。
色々な形式の筐体を使った、様々なゲームがある。ただし違うゲームでも同じロボットアニメを題材にしている例はある、いや多い。辺りを見渡していた六花がつぶやいた。
「■■■■ばっかり」
館内に響くゲーム機からの音で聞きとれない部分があったが、咲也は脳内で補完した。某ロボットアニメ、またその主役メカの名称。
ロボットに詳しくない六花でも知っているほど有名な。ただし六花にそれと別作品のロボットの区別がついているか怪しいが、確かに館内はそれのゲームばかり。
総帥が苦笑した。
「ここには現在、日本で稼働中のロボット物アーケードゲームを全て揃えておるが、この業界■■■■一強じゃからのう」
世知がらい話だ。
「とはいえ■■■■以外のゲームもちゃんとあるゾイ。これから紹介するのもその1つじゃ。アークの操縦室を再現した筐体によるロボット操縦シミュレーションゲーム。その名も──」
そのゲーム機が並ぶ一角へと到着した。
ゾワッ──咲也は全身に鳥肌が立った。
「機甲遊戯アーカディアン‼」
通路にアークの操縦席──肘掛けの先にレバーが左右一対、足置台にペダルが左右一対あるシートが、壁を背にしてズラッと並んでいた。
シート間は衝立に仕切られている。
衝立の上に水平に渡された屋根板。
シートから見て左右の衝立の上半分ほどと、上の屋根板の裏を四角いモニターが覆っている。屋根板の通路側の縁から上に張りでた板も、ここからは裏しか見えないがモニターだろう。
このシートを囲む直方体の空間が、アークのコクピットの再現というわけだ。確かに先日、咲也が乗ったアーク 【ブルーム】の中そっくりだった。造りはさすがに本物より安物っぽいが。
「「「「お~っ」」」」
「当然これもまだ社外秘なので、外の人でプレイするのは君らが初めてになる。どこでも好きな席に座るといい。メニュー画面でチュートリアルを選べば操縦方法をイチから教えてくれるゾイ」
逸る気持ちを抑え、咲也は一応 確認した。
「あの、料金は──」
「今日はタダじゃ、好きなだけ遊んでくれい!」
「「「「ありがとうございます!」」」」
自分と常磐は当然として、ロボットオタクではなかった六花と小兎子の声もウキウキしていた。機甲道を見て、2人もアークを操縦してみたいと思ってくれたらしい。
咲也は最後に、友人たちに声をかけた。
「じゃ、みんな。またあとで!」
「おう!」「うん!」「ええ!」
常磐・六花・小兎子と別れて、咲也は3人と別々のコクピット部屋に飛びこんだ。くるっと体を反転させて着席すると本当に「ロボットのコクピットだ」という景色になった。ただ──
「ブルームより広いですね」
「実機のコクピットが狭すぎるんじゃよ……全高380㎝の人型に人間を納めようとするとスペースがぎっちぎちで……あのまんまじゃと快適にプレイできんので広くしておる」
「そういうことでしたか」
ブルームの中を咲也は狭いとは思わなかったが、それは自分が小さいからか。確かに大人の平均以上の身長だとキツそうだったかも。総帥の言から他の機種もあれくらいらしい。
「では総帥、失礼します」
「うむ、楽しんでおくれ」
ぽちっ──咲也は座席の横のコイン投入口の手前で光っているスタートボタンを押した。すると正面の開口部の上から、さっき見た板が降りてきて左右のモニターの下端と同じ高さでとまる。
がちゃっ
正面メインモニターと、その下にくっついた横長のコンソールパネルだ。コクピット内は前方の下半分は開いているが、視界はほとんど塞がれて自分だけの空間という感じになった。
パッ
正面モニターが外の明かりを遮って暗くなりかけた空間内が、その正面モニターが点灯してまた明るくなった。そこに映された〔機甲遊戯アーカディアン〕のタイトルロゴ、メニュー画面。
そこではさっき試合場で見た【ブルーム】【スノーフレーク】【クレセント】と他にも見たことのない数種のアークが荒廃した都市を背景に武器を構えている。
メニュー画面の操作方法も表示されていた。咲也はその指示に従ってコンソールのタッチパネルを操作して、ステージ一覧から〔チュートリアル〕を選択した。
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