※打切※ 機甲遊戯アーカディアン

Mech Game Arkadian
天城リョウ
天城リョウ

2つの恋愛模様

公開日時: 2021年4月2日(金) 16:12
文字数:5,001

■ 私立カルセドニア学園・中等部アーカディアン部 ■


(顧問)

 かざ すみれ   1年A組 担任


(部員)

 いわなが 常磐ときわ  1年A組

 とう 飛鳥あすか  1年A組

 たちばな さく  1年A組

 つきかげ  1年A組

 ゆき りっ  1年A組




 この中の常磐ときわ以外の全員が、特務機関アルカディア東京支部のアークそうじゅうという、表沙汰にできない裏の顔を持っている。


 そんな二重生活を送っている5人の、裏のパイロットとしての訓練である筋力トレーニングを、表の部活の朝練の時間に行う。


 それがアルカディア東京支部の方針。


 だがこうゆうアーカディアンというビデオゲームをするだけの部活には筋トレは必要ない。アルカディアの存在を秘するため、純粋にアーカ部として、そうする理由として用意されたのが──



こうどうへ進むための準備〕



 アークの実機による模擬戦競技、機甲道。その選手には実機の機動時に発生するGに耐えられる強い肉体が必要とされるのは、実機で実戦をするのと変わらない。


 そしてアーカディアンのプレイヤーには、このゲームで培った操縦技術によって機甲道の選手となろうとする者もいることは、業界の常識。ここのアーカ部ではさくりっ常磐ときわがそう。


 そうした部員の将来のための筋トレ。


 参加は希望者のみで強制はされない。


 これなら裏の事情を知らない教師や生徒への説明にも使える。常磐ときわもその説明を受けて『それなら』と、アーカ部には本来なら必要のない筋トレに参加してきた。


 むしろ常磐ときわから見ると、必要がないのに朝練を受けているのは機甲道を志していない飛鳥あすかということになる。しかし、それを常磐ときわが気にした様子はない。


 親友の内心とはいえ確証はないが。


 疑われていないとさくは判断した。


 飛鳥あすかは元々スポーツ万能。機甲道を目指そうが目指すまいが、体を動かすのに深い理由など要らないと考えてもおかしくない。


 常磐ときわからなにも訊かれていないとのことだが、もしも訊かれたら『さくの傍にいたいから』と答えるつもりとは言っていた。


 常磐ときわさくを好きと知っているので、自らその答えを予想して『訊くまでもない』と思ったのだろう。


 そんなわけで。


 アルカディアの5人と、そうでない常磐ときわが一緒に筋トレをする日々は問題なく始まった。今朝もすみれの指導のもと、全身の筋肉を追いこんでいき……それを終えた時──



「「……」」



 さくりっとグラウンドにへたりこんだ。


 2人のリッカは運動音痴コンビでもある。


 小5の夏からアーカディアンという運動量の多いゲームをしてきたので体力は昔よりはついたのだが、筋肉はアーカディアンに使う部位以外は貧弱なまま。


 すみれから課された筋トレのメニューで、そんな部位にもしっかり負荷をかけられ、こうなった。さくりっを気遣いたかったが、口も体もすぐには動きそうにない。



「ちょっと、大丈夫?」



 も声から息が上がっているのが分かったが、自分たちに比べれば遥かに元気。4人組で一番、運動神経がいいだけある。



りっ、掴まって」


「リッカ、掴まれ」


「「……」」



 りっに手を引かれて、なんとか立ちあがった。そしてさくには常磐ときわが手を差しのべてくれた。さくもその手を取った。常磐ときわも疲れてはいるが、よりさらに余裕があるようだ。



「ったく、しょーがねーな」



 こちらの有様を見て溜息をついている飛鳥あすかは、これっぽっちも疲れた様子がない。忍者である彼にはこれくらい、運動の内にも入らないということか。



「こ~ら~? とうく~ん?」



 その飛鳥あすかを笑顔でたしなめるすみれも、自分が部員たちに指導したのと同じトレーニングをしていたが、やはりケロッとしている。彼女も忍者、当然か。


 しかもすみれ飛鳥あすかを忍者に育てた師匠。2人の属する風魔一族において、後進を育成する立場にある。この筋トレのメニューも、すみれが風魔に伝わる訓練法をアレンジしたものだった。



「体力は人それぞれ~見下さないの~」


「わ、わーってるよ、もう、それは!」



 すみれは様々な筋トレを紹介しつつ、それらをそれぞれ何回やるか個人別に指示した。それも17とか31とか、キリの悪い数字で。


 普通は〔全員~を何回〕だが。


 そんな画一的な指導ではない。


 各人の全身各位の筋肉量を体操着の上から見ただけで把握し、必要な回数を1の位まで細かく判断──これが尋常でないことはさくでも分かった。


 それは化物ばかりの風魔忍者の中にあっても傑出した能力で、すみれは風魔で一番の教育者なのだと、アルカディアの地下基地で飛鳥あすかが我がことのように自慢していた。



「だから『だらしない』とは言ってねぇ!」



 飛鳥あすかがいかにすみれを慕っているかは、言動の端々に現れている。今のように出会ったばかりの生徒と教師という設定で接している時には自重しろと思うのだが。距離感が近すぎないか。


 怪しまれるだろ。


 それでも忍者か。



「これまでゲームばかりやってきたんじゃ『しょうがない』──悪くないって認めてんじゃん!」


「それでも~侮辱と取られても仕方ない言いかただったわよ~? 2人が体力のこと責められてるのを~かばう文脈でもなければ~わざわざ言うことでもないわ~?」


「く~っ、ムズイ!」



 飛鳥あすかのアーカ部員への態度は初日より、かなり軟化していた。初日の態度なら、それこそ『だらしない』と言っていただろう。



昨日きのうは、悪かった》



 初日の部活のあとで、さくりっが校舎の地下にあるアルカディアの基地に連行され入隊させられたことを知った時、さく飛鳥あすかと口論した。


 その翌日。


 また部活のあとで基地に行った時、飛鳥あすかは2人に謝ってきた。すみれに言わされているのではなくさくに言われたことを時間を置いたら納得したからと。



《これから、よろしく頼む》


《うん。よろしくとうくん》


《まっ、許してあげるわよ》



 そしてりっとはそもそも口論になっていないどころか、それが始まるまで楽しそうに話していたこともあって、すんなり良好な関係になった。



ゆきも》


《うん♪》



 そして常磐ときわとは──もっと前に和解した。


 初日の部活の終了時にされた、飛鳥あすか常磐ときわがアーカディアンで1対1で対戦する約束は翌日の部活で果たされ、常磐ときわが勝った。


 体育の授業中、バスケでボロ負けして馬鹿にされて飛鳥あすかに対抗意識を燃やしていた常磐ときわは、無事に溜飲を下げられた。



《よぉっし‼》


《クッソォ‼》



 他のなにで負けてもいいがアーカディアン、ロボットの操縦で負けるのだけは我慢ならないという常磐ときわの矜持は守られた。


 一方、飛鳥あすかも他のなにで勝っていようとも、ロボットの操縦で負けた相手に優越感は抱けないと、常磐ときわをライバル認定した上で称えた。



《今度は負けねーぞ!》


《ああ、またやろう!》



 勝ったことで飛鳥あすかへの敵意が昇華されたのか、常磐ときわ飛鳥あすかへの態度も軟化して、アーカ部内がギスギスすることもなくなった。それは本当によかったが……



「は~い、今朝はここまで~解散~♪」


「「「ありがとうございました!」」」


「「(ありがとうございました)」」



 アーカ部は男女3人ずつに分かれて別々の更衣室に向かった。さく常磐ときわに肩を借りて男子更衣室へ。体操着を脱いで、まずはシャワーを浴びた。


 女子更衣室でも今頃……


 りっが裸でシャワーを浴びる姿が頭に浮かぶ……が、すみれより巨乳)の裸まで浮かびかけたところで、脳内の2人からにらまれさくの妄想は終わった。


 シャワーを終えて。


 体を拭いて。


 髪を乾かし。


 学生服に着替えて。



「リッカ」


「トキワ」



 常磐ときわが待ってくれていた。疲れて動きがにぶっていたさくより早く着替えが終わったか。やっと普通にしゃべれるまで回復したさく常磐ときわと2人で更衣室を出る──



 きゃーっ‼



飛鳥あすかくん、お疲れさまーッ‼」


「シャワー直後の飛鳥あすかくんッ‼」


「ああッ! 色気がさらに♡」


「どいて! 飛鳥あすかくんの匂いが嗅げない!」


「あぶねーぞ、順に嗅がせてやっから押しあうな」



 はーい♡



 出ると、先に出ていた飛鳥あすかが両目を♡にした女生徒&女教師の大群に囲まれていた。その人垣に阻まれて道が通れない。


 彼女たちは飛鳥あすかから『授業と部活の邪魔はすんな』と言われ、従っているが、終わるとこうして出現する。さくたちと飛鳥あすかとの関係が改善しても、この騒ぎまでは改善されなかった。


 むしろ悪化している。


 彼女たちの人数は初めの頃より増えていた。初めは中等部からだけだったのが今や隣の高等部からも殺到してきているので。



とうくん、今日も凄い人気」


「全く、勘弁してほしいわね」



 りっと合流して、さくたちは飛鳥あすかのファンで埋まった廊下を迂回して教室へと向かった。


 この学園で飛鳥あすかの追っかけと化していない女性は、ここにいるりっ、着替えたあと姿を消したというすみれ(忍法で教室に先回りしたのだろう)の3人だけとなった。


 飛鳥あすかが高身長・眉目秀麗・頭脳明晰・運動神経は超人的というウルトラスペックで学園中の女性たちを魅了している中、りっ飛鳥あすかになびかないのは『男はさくしか見えないから』と2人は言ってくれている。


 なのでさくは平静でいられるが。


 学園中のほとんどの男子生徒と男性教師たちは飛鳥あすかに想い人を奪われるなどして、当初は荒れた。


 それで飛鳥あすかへの私刑や嫌がらせを試みた者たちもいたが、全て返り討ちにされて、なにをやっても無駄と分からせられて、今はおとなしくなった。



(スミレ先生はどう思ってるのかな)



 すみれは追っかけに加わらず、学校内では飛鳥あすかのことも他の生徒と同じように扱っているが、アルカディア内での態度からは彼への深い愛情がうかがえる。


 それは師弟愛なのか。


 飛鳥あすかすみれのことを、顔を隠した怪盗忍者1号と2号としてしか知らなかった頃、そして同年代のコンビだと誤解していた頃は、2人は恋人に見えた。


 飛鳥あすかは12歳、すみれは22歳だと知って『その年齢差ではないか』と一時は思ったが、ありえないことではない。


 もしすみれ飛鳥あすかに恋愛感情を抱いているのなら、飛鳥あすかが他の女に囲まれていて不愉快なはずと思うのだが、嫉妬しているようにも見えない。見えないだけかも知れないが。


 2人がもし、恋人としたら。


 生徒と教師、未成年と成年。


 それは社会通念上、許されざる関係ということになる。りっ、2人の女性と愛しあっている自分と同じく。


 だからさくは2人のことを追及しない。


 自分と同じ悩みを抱える人のことさえ思いやれないようでは、ヒーロー失格。もそう言っていたし自分もそう思うから。


 ただ気にはなるので時々こうして考えこんでしまい……無口になっていたところ、隣を歩くりっが顔をのぞきこんできた。



「リッカくーん?」


「わっ。ごめん、ぼーっとしてた。なに?」


「モテモテのとうくんが、うらやましい?」



 そういう疑いか。


 顔は笑っているが目が笑っていない。


 さくはその目を真っすぐに見返した。



「全然。りっがいるから」


「~っ! 本当かなー?」



 りっは照れて嬉しそうにはしているが、目が『わたしだけじゃ満足できずにまで手を出してるくせに』とも言っていた。


 言える状況ならさくりっだけでなくの名前も挙げた。への想いは秘密、ここでは言えない。


 そのは三角関係を隠すための偽の恋人である常磐ときわの隣を歩きつつ、こちらを一瞬、冷ややかに一瞥した。おそらくりっと同じようなことを考えている。



(もちろんも!)



 りっと今の関係になって以来、さくは2人から二股を認めてもらえるよう、いい恋人(正確には未満だが)であろうと努めてきた。


 生まれついての顔の良さにあぐらをかかず母親のレクチャーを受けて美容を心掛け、エチケットにも気を配るようになった。


 日頃から愛情と感謝を伝えることを怠らずに、2人の誕生日・クリスマス・ホワイトデーには色々と調べて悩んで心を尽くしてプレゼントを贈ったし、デートにも心を砕いている。


 2人もそれには喜んでくれている。


 油断は禁物だが大きな失敗はしていないはず。だが、それでも2人のどちらもまだ攻略できていない。手ごわい。


 2人のほうもこの2年、女性的な魅力を磨いて、少しHな手も使って自分だけのものにしようと誘惑しているのに、落とせないさくに『手ごわい』と言ってきているが。


 3人の恋の戦いは膠着していた。


 それでも今は3人で仲良くできているが、口にこそ出さないが『いつまで続くんだ』という空気もうっすらと漂ってきている。これ以上、長引くのはマズイ。



(なんとかしないと)



 だから飛鳥あすかすみれの恋愛事情を気にしている場合ではない。


 さくにとって最も大切なのは、りっなのだから。。

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