翌朝、部屋に落ちていた小さなマイク型の通信機を発見した。
バタバタといろいろなことが起こったので、借りた通信機のことなど忘れていた。
返すのを忘れないように机の上に置いた。
カーテンを開いて朝日を浴びる。昨日のことが嘘のような平和な田舎の風景だ。
「おはよう」
キッチンでは、お父さんが先に朝食を食べ終わって、テレビで朝のニュースを見ている。
朝も夜もお父さんとは食事の時間がずれているので、進路のことを話していなかった。たぶんお母さんから聞いていると思うけど。
ちらりとお父さんを見た。いや、でも改まって言うのも面倒くさいというか、朝からこんな話したくないというか……。
「那津、ぼーっとしてないで早く食べなさい」
お母さんがテーブルの上に、トーストとサラダを置く。
まぁ、黙って泊まりに行くわけにもいかないし、お母さんは研究所への就職は賛成みたいだったし、一応言っておくか。
腹をくくる。
「あのさ、私、今日、特殊気象研究所に見学に行くことにしたから。夜、泊まりで」
お父さんがこっちを向いたけど、なんとなく顔を合わせづらい。
お母さんは私の顔を見た。
「あら〜、じゃあ就職に決めたの?」
「まぁ、ちょっと、今は大学行くよりも、研究所の仕事に興味あるというか」
「いいと思うわ。見学してきて、思ってたのと違ったらやめればいいんだし。ねぇ、お父さん?」
母よ、今、私はお父さんと話すつもりはないというか、説明するのが面倒くさいから、わざとお母さんに話す感じで、耳に入れてもらおうと思ったのに、なんで察してくれないのかな。
「なんで、わざわざ夜に泊まりで見学なんだ?」
お父さんは大真面目に質問してくる。でも、それが正しい。普通の企業なら時間外だし、泊まりで見学なんてあり得ない。
夜になると夢魔が出るので、その浄化をするのを見学するためです──なんて言えるわけない。
困っていると、私の代わりにお母さんが答えた。
「特殊気象研究所では、主に夜に気象実験とかやってて、夜型の出勤が多いって聞いたわよ。気象庁とかでやらないことをやるから、特殊なんですって」
この前カイさんたちが家に来たときに説明してくれたのだろうか。お母さん、たまには気が利くじゃないか。
母を見ると、父に背を向けながら私にウインクした。
ウインクって反応は古いけど、助かったのでよしとしよう。
私は席について、朝食を食べることにした。
「那津、好きな道に進んで構わないけど、後悔しないように。就職なら、大学を卒業してからでもできるんだからな」
父はそれだけ言うと、席を立った。
私も急いで朝食を食べ、着替えた。登校時間になり、リビングの横を通ると、お母さんが玄関までついてきた。
「お父さんには研究所の話、ちゃんとしてあるから大丈夫よ。たぶん、ヤキモチね」
は?やきもち?
私が露骨に嫌な顔をしたらしく、母が大笑いしている。
「だって、研究所の人は若くてイケメンだったって言っちゃったから。いらない心配してるのよ、きっと。美人さんもいたって言ったんだけど、耳に入ってなかったのかしらね。とにかく、お母さんは就職に賛成よ」
この人は、自分で余分なことを言った自覚がない。ため息が出そうになるのを堪えて、学校に向かった。
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