サクヤです。初心者ながらに頑張って公開していきますので、よろしくお願いいたします!
劣化した神殿の天井からは夜空が覗き、激しい雨が天井の亀裂から”神の間”に降り注いでいる。
「僕達は王様の命令でここのオーパーツを取りに来たんだ。邪魔をするなら……わかるね?」
そう言ってロイに剣を向ける男の名前は”ハルト”この世界に召喚された異世界人。髪は黒だが少し茶色い感じで体の線は細い。体に反してその強さは凄まじく、戦闘訓練を受けた影の一族をたった一人で壊滅させるほどだ。
「ハルト、やっぱりここは話し合った方が……」
おどおどした声で主張するのは、真っ直ぐな黒髪を腰まで伸ばした女だった。そいつはハルトの袖を握りながら意見を言っている。雰囲気から察するに、恋人関係になったばかりの初々しい感じがした。杖を持っているので治癒術師か魔術師だろう。ハルト以外は戦ってないので職業はわからない。
「魔王を倒すの為に必要なことじゃない。この際、手段なんか選んでられないわよ何言ってんの?」
背中に槍を携えた気の強そうな女が機嫌悪そうにそう言った。金髪に登頂部は黒という少し変わった髪の色だった。
「まぁまぁ、彼女のような意見も必要だと思うんだよね。でも、ここまで来ると話し合いは無理だよ。ロイ君だっけ?君だってそれはわかるよね?」
メガネをかけた線の細い男は仲裁しつつ勇者パーティに対峙する男、ロイに語りかけた。
周囲には息の無い同胞、そしてこの場でハルトと対峙しているのがロイだった。世界を封印する4つの塔を解放できる"オーパーツ"を渡さないために、影の一族として立ちはだかっていた。
王国に管理されたこの森の奥地は古の盟約により、王の許可がない限り入ることは許されない。そんな中、久方ぶりに王から勇者来訪の報せが入った。
そして村に着いた勇者はいきなり"オーパーツ"を要求してきたのだ。当然その要求は王の指示と言えど飲めるわけもなく、まずは話し合いをすることにした。
最初は穏やかに自己紹介をしていた。大人しそうな黒髪の少女は『ユキノ』、登頂部が黒の金髪女は『サリナ』、メガネをかけたインテリ系が『マナブ』、そして『勇者ハルト』……俺達に譲る意志がないと判断した彼等は俺達を無視して進み始めた。
当然影の一族が立ちふさがるが、『ごめん』と言って仲間の一人が斬り伏せられ、それを契機に戦闘が始まったのだが……実際は一方的な負け戦だった。10分とかからずに一族の9割がやられたのだ。
父さん、母さん、俺がオーパーツを守って見せるからな!
護身用のロングソードに影魔術で影をエンチャントしてハルトと対峙する。先程の戦いで情け容赦なく両親を斬り捨てた勇者の漆黒の剣、それが発するプレッシャーは重く、ロイの口は少しだけガタガタと震えていた。
──”このままではいけない”そう考えたロイは意を決して斬り込む。
「くらえっ!”シャドーエッジ”!!」
ロイは影の剣を伸ばして斬りつけたが、ハルトはそれを難なく弾いて反撃の拳打を放った。
っぐ……! ただ殴っただけなのに、なんて威力だ、目が霞みやがる。
「これはもらっていくよ?」
ハルトは地に伏したロイを一瞥し、その横を通り抜けて"オーパーツ"の方へ向かった。
みんなはもっと痛かったはずだ!なのに、俺だけこんな様でどうする!!動け動け動けっ!自身に渇を入れて立ち上がり、渾身の力を振り絞って疾走する。
「まだ俺は負けてな──」
──「"神聖魔術ホーリーランス”」
ハルトはこちらを向くことなく後ろ手に魔術を放った。
ドスッと言う音と共にロイは壁に縫い付けられた。腹からは血が流れ……徐々に体から熱が失われつつあるのを感じていた。ハルトが"オーパーツ"とされる銀の球体を手に取るのを見たロイは、口から血の泡を吐きながら笑った。
だが、これでいい。もうすぐ”あれ”が発動するはずだ……。
遺跡全体が揺れるような音が始まった。
「な、なんだ!?」
「へ……へへ。オーパーツを……取ったら、神殿が崩れる仕組み……なのさ」
さすがのハルトもこれには驚いたってか?時間稼ぎも上手くいったってもんだ。だが、勇者ならこれでも生き残ってしまいそうだな……。
「みんな!”スキル・マイティガード”を使うから集まってくれ!」
クソッ!勇者スキルか……魔力による半円球の大きさから見て、効果範囲は2mくらいか──最後の悪あがきだ、一人でも道連れにしてやる!
ロイは最後の力を振り絞り、手掌から紐状の影を作り出す。
「スキル──"シャドーウィップ"」
「え!?きゃあああっ!」
伸ばされた影は何かを掴み、ロイは残る全ての魔力を注ぎ込んで”ソレ”を引き寄せた。
「ユキノッ!?待ってくれ、ユキノが!ユキノォォォォォォォォォ……」
その直後、神殿は地盤ごと崩落した。
☆ ☆ ☆
……ン?ここは……ハッ!?
痛ッ!起き上がろうとするが腹部に激痛が走ってもう一度仰向けに倒れた。
辺りを見回すと、神殿の瓦礫が上手く重なって洞窟のような形状になっていた。
ん?腹に包帯が巻かれている?何故?
そんな疑問のすぐあと、ロイの耳に誰かが啜り泣くような声が聞こえてきた。
……グスン……ひっく……
ロイが顔だけを横に向けると、そこにいたのは勇者パーティーの一人である”ユキノ”と言う少女が空洞の端で泣いていた。
「ハルト……どこにいるの?うぅ……ハルト……」
両親を死に追いやったパーティーの仲間、一瞬だけ言い様の無い怒りが湧いたが自身を手当てしたのが彼女だと気づき、冷静に問うことにした。
「なぁ、これはあんたがしてくれたのか?」
「……はぃ……」
背を向けていたユキノはロイの顔を見ずに答えた。
「その……ありがとな」
それは純粋な感謝ではない……”残念だったな”そんな嫌みを込めた感謝だった。きっと優しい女なのだろう離れ離れにされ、その原因である男を治療しないといけないなんて、普通なら絶対に見捨ててもおかしくない。
助けることができた喜びと、離れ離れにした原因が生きてることへの悲しみ、相反する2つの感情にユキノはより激しく泣き始めた。それはロイ自身も同じで、助けてくれた感謝と仇を討てなかった悔しさで胸が張り裂けそうになっていた。
それから1時間後、落ち着きを取り戻したユキノは唐突に謝ってきた。
「あ、あのっ!……オーパーツのこと、ごめんなさい」
意外だった……勇者ハルトは冷たい笑みを浮かべて一族を斬り殺していた。そしてハルトの仲間もそれを見て笑っていた。もしかしたらこの女はそんな顔していなかったかもしれないが、今の真摯な態度は決して嘘のようには見えなかった。
ロイは大人の態度で接することにした。
「奪われたのなら奪い返せばいい、少しでも謝罪の気持ちがあるのなら……俺に王から受けた依頼内容を教えてくれないか?」
パチパチと互いの間にある焚き火が音をたてる。彼女の表情は言うべきか迷ってるようだった。ここで喋ればある意味ハルトの動向をバラしてしまうようなものだ。それはきっと彼女にとって裏切りに値する行為なのだろう。
そして決心がついたのかユキノが顔をパッと上げた。
「わかりました。実は───」
☆ ☆ ☆
なんとか崩落をスキルで防ぎきったハルト一行は、森の中でキャンプをしていた。
「ユキノ……」
「こっちに来る前、あんたとユキノ付き合い始めたんだって?」
「ああ、向こうでは1週間しか付き合ってなかったけどね。こっちに来てからは忙しくて恋人らしいことをしてやれなかった!こんなことになるならッ!」
後悔に苦しむハルトをそっとサリナが抱き締めた。そして耳元で語り始める。
「ねえ、ユキノとはキスはした?」
「い、いや。まだ手しか繋いでないけど……」
「じゃあ私とキス、しない?」
サリナはハルトに跨がって顔を近づけた。ハルトは理性が崩壊しそうになったが寸前で正気に戻り、サリナの肩を掴んで引き離す。
「駄目だ。僕にはユキノがいる。だから──」
「ユキノ、あの崩落で行方不明なのに?もしかしたら死んでるかも……」
「サリナッ!」
ハルトがサリナを睨み付けるが、彼女は代わりに今は使えないスマホの画面を見せつけた。
「それに、これを見たら気が変わるかも」
スマホの画面にはユキノを後ろから撮った画像が写っていた。ユキノの正面には男がいて、ユキノの顔に手を添えて顔を近付けている写真だった。
どう見てもキスをしている写真だ……ユキノ、僕を裏切ったのか?何でっ!?何でだよぉ……。
ハルトはどうでもよくなったのか放心状態になり、されるがままになっていた。ズボンは脱がされサリナも下着姿に変わり、首に腕を回し、サリナは妖艶な表情を浮かべた。
「……アタシのハルト」
「…………」
2人の距離は徐々に近付き、やがてリップ音が鳴り響く。
「──ン……チュッ……ア……プハァ……マナブはアタシ達とは別にテント張ってるから、気にしなくて良いわよ。それよりも──今はアタシに溺れてよ」
「…………」
その後、近付いた距離は0になり、そしてマイナスになった瞬間にハルトは「うっ!」と声をあげ、サリナは悲痛な表情を浮かべたものの、すぐにテントを激しく揺らし始めた。
この行動により、勇者ハルトは正しい運命から大きく外れることになった。
※気まぐれ更新
※ヒロインが彼氏を寝取られるシーンが序盤でありますが、ざまぁもなくすぐに通常の冒険になります
※長期的にはもしかしたら”寝取り”に該当するかもしれませんのでご注意を。
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