これまでの経緯をユキノは語ってくれた。修学旅行の最中にこの世界に転移させられたこと、王様に世界を救って欲しいと頼まれたこと、そしてここのオーパーツを使って4つの封印を解いた時に生じる余剰魔力を使えば楽に魔王を倒せること……次の目的地が南東にあるセプテンと言う小さな街であることまで教えてくれた。
教えてくれたことに感謝を示しつつ、事実を述べることにした。
「王は封印解放時の余剰魔力を利用して戦争に勝つつもりだろうが……その前に魔神が復活して魔王共々滅ぼされるぞ?」
実はこれ自体も眉唾物だ。ここ半世紀以上、魔族の目撃例すらないからだ。
万を越える年月が経ち、魔神の存在もあやふやで……親が子供を脅す常套句にまで成り下がっていた。
「私達だって……聞きました。封印されてる存在が復活してもいいのですか?って。そしたら王様から魔王を倒したあと魔神を封印すればいいって言われてこれを渡されました」
彼女に見せてもらった物に俺は驚いた。それは『闇の武器』……魔王が魔神を滅ぼすために作った対神兵器。生命力を吸うことで成長する忌まわしき兵器。だがそれには欠点が存在した。使用者の精神を徐々に蝕むと言う致命的な欠点が……。欠点に気付いた魔王は部下からそれを取り上げ、使用を固く禁じたと言う。
それをユキノに伝えると、彼女は武器を落として後ずさった。
「そ……んな……。私達、騙されたの?」
「人間が使ったら多少性能が落ちるが、魔神を封印するくらいならできるだろう……その点だけでいうなら嘘はついてない。嘘はついてないけど本当のことも言ってない、人を狡猾に騙す常套手段だな」
ユキノはペタンと座り込んで嗚咽を漏らす。その姿を見て俺は"ざまぁ"と一瞬思ってしまった。本当は命の恩人にこんなことを思ってはいけない、でも父さんと母さんを殺した男の仲間と思うと、心に黒い感情が生まれてくる。
徐々に黒い感情に塗り潰されながらユキノの背後に立った俺は───毛布を被せた。
楽にするつもりはない、罪悪感で生き地獄を与える……甘いかもしれないが、この女を生かす理由だからだ。
「安心しろ今見た感じ、闇の武器には軽減措置が施されている。本来の汚染速度を大幅に落とす仕掛けだ。その代わり武器の成長速度も遅いけどな。だけどこのままじゃいずれは最悪の結果になりかねない。だからアンタは彼らを説得するために、俺達のオーパーツを奪い返すために……協力しないか?」
握手のために手を差し出すと、ユキノも控え目に手を出して握手を交わした。
「こちらこそよろしくお願いいたします」
握手を交わしたあと、次の日に備えて寝ることにした。少し経ってからユキノのうなされるような寝言が聞こえてきた。
ハルト……ハルト……どこ……?
ハルトとユキノは恋仲なのだろう。だとすれば、いざというとき人質として、闇の武器に対する強力な武器になる……。
ロイは仄かな黒い感情を揺らめかせながら、うなされるユキノの頭を撫でた。彼女の安心した顔を確認したあとロイも明日に備えて意識を手放すのであった。
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