「そんなことができるんです? いや、できたとして、何故お前がそのことを僕に教えるのです?」
明確な悪意を感じます。怪物の目的はすでに達成されているというのに、また異界との扉を塞ぐということですよ?
「だ、騙されませんよ」
「いや、お前は女神を天に戻したいはずだ」
「そうですけど。お前こそ、目的はなんです?」
「代替わりだ」
あっさりと答えましたね。でも、よくわかりません。
「というと?」
「鍵の怪物は一人ではないということだ。どのみち俺は死ぬが、次の怪物が生まれる。俺は異界と繋ぎ魔物を放った。正直、それで人の世が滅ぼうがどうなろうが知ったことではない。俺は扉さえ開くことができたら自由になれたんだ」
怪物が自由を語るのですか。なんだか腹立たしいですね。お前のせいで人の世がどうなったのかは、こいつがよく分かっているでしょうに。
「だから、お前には次の怪物になってもらう」
「え、僕がですか? いい加減ふざけるのはやめて下さい」
「ふざけてなどいない。これは契約だ。人を女神にする方法は一つしかない。生贄だ。そのためには誰かが怪物にならなくてはならない」
え? 破滅の使いが怪物ではないのですか? 人を怪物として捧げて女神が成るのです? 女神の教えとは違いますね。女神ローザ様が実在した以上、不思議なことが起きても平気なつもりでしたが。
「女神様が天上に戻り、魔との繋がりも断つことができると? その代わりに、僕が鍵の怪物にならなければならない?」
「とても単純明快だ。お前は確実に契約する。怪物に堕ちることは、名誉なことだろう?」
こんな醜悪な存在に、この僕が成り下がるのです? いや、考えを改めてみましょう。僕なら女神ローザ様を救えるのです。どの道、この怪物も命は尽きるのです。僕がどのような形で怪物になるのか想像もつきませんが、僕一人の犠牲でローザ様が救えるのならば。
「早く決めろ。俺の命が尽きる」
こいつの命が尽きた場合、異界との扉は開いたままです。これからも魔物による犠牲者が増え続けることでしょう。
「……分かりました」
僕は苦虫を噛むように伝えます。女神ローザ様。あなたが天上に戻ることができるのならば。僕は怪物にでも成り下がります。
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