早い話が、女神ローザ様を唯一神として信仰するローザ教は、「いずれ訪れる厄災を女神ローザ様が黄金の椅子に座って見つめている限りは、防ぐことができているんですよ!」という、教えを守る会です。
厄災とは大司教様によりますと、異界の扉が開かれ、怪物がやってくることだとおっしゃられています。
魔界というものが閉じられて数百年。この世界には魔物一つ現れません。ビバ平和。じゃあ、なぜ教会で祈りをささげる必要があるのかというと。
それは女神ローザ様、ただお一人が未だに戦いを続けておられるからです。女神ローザ様は封印を行っていらっしゃる。まるで人柱ではありませんか。
僕は、紅蓮の瞳を炎と解釈しております。ローザ様は熱き誓いを守るごとく、その身で魔界の扉を封じておられるのです。
「数百年も孤独でしょうに」
説法の合間に、ぽろりとこぼしてしまいました。女神ローザ様の存在意義は、町民も耳にたこができるぐらい聞いています。
僕の熱弁にもかかわらずうたた寝されてしまう始末でした。でも、これが僕のやり方です。
これが終わったら、午後からは僕が教える神官学校の生徒たちと女神ローザ様の髪色が何色だったら、艶めかしいかを討論します。
僕は断然、ピンク推しです!
絵画では金髪ですけれど、誰がなんと言おうとピンクです!
僕は口元が緩むのをおさえるのに必死でした。大聖堂の木製の扉のきしむ音で淡くて甘い思考が破られました。
「に、逃げて下さい! みなさん避難を!」神父の一人が閉めきった木製の扉を左右に開いたのです。
「そんなに慌ててどうしたのです? 火事でもあったのですか?」
僕は同胞をしかりつけたりはしません。何かの理由があるのだと、彼の青い顔色から察しました。
「聖女リア様が野犬に襲われております。早く誰か来てください」
どういうことです? 野犬が出ることはおかしくありません。
問題なのは聖女リア様は、生きた神様であるということ。
そう簡単に、そのあたりにいる犬に噛みつかれたりはしません。僕は『聖なる御心の書』を机に置いて、早口で今日の会を終わらせることを告げます。
「リア様の身になにかあったら、僕はローザ様に祈るときに、どのような顔をすればいいのでしょう」
うっかり口に出してしまいました。こうなったら、最後まで言い切ります。
「っは。危ないところですね。いや、口に出してしまったらもうどうしようもない。愛しています、ローザ様」
「ジュスト様! おふざけはよして下さい。大の大人三人がかりでも手に負えません」
聖女リア様は女神ローザ様の妹であらせられるお方です。まだ、九歳ですが祈りの力を有しています。その気になれば野犬など、怒りを鎮めさせて手なずけることもできるはずです。
ですが、最悪の事態が脳裏をよぎりました。人々はいつかこんな日がくることを恐れています。だから、僕も口に出してそうだと断言はできません。人々を恐怖と混乱に招き入れてしまいかねませんので。この目で確かめなければ。
魔物がついに、この町にやってきてしまったということをです。
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