私のセックスは落書きか??

~私が、毎晩のようにアルダ・ラズムの兵士どもに遊ばれる日々とおさらばしたいって思っても構わないことを知った日~増補版
おッちぃに
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#4.妖精が舞う墓場

公開日時: 2023年2月19日(日) 21:06
文字数:1,816

酒場ボルカを出たセシリアは、そこから最も近い列車の駅があるルモーサに1時間ほど歩いて向かっていた。


そんなスエル・ドバードという町は、元々は観光地であった事を、すっかりと人々から忘れ去られ、何かと不便さだけが残り、移動にしろ、立ち寄って行く場所からも外れてしまっていた。


(観光地であった事が忘れられると、自然とスエル・ドバードに建てられる筈であった列車の駅の建設の話は、いつの間にか消えていた...)


その町の道中を、ため息交じりで呟いては、


その足を止めずに列車の駅へと向かうセシリアであったが、


朝から酒場の集金で歩き回っていた所為か、


足に疲れが溜まっている事に気がつくと、


その場に立ち竦んだ。


「..はぁー、流石に少し疲れたな...でも、早く行かなきゃ...今日の夜には、間に合わなくなっちゃうよ..」


そう呟くとセシリアは、腰を曲げて足のふくらはぎに片手を持っていき数回だけ揉んでから、もう1度、その重い腰を元の位置に戻そうとした。


ちょうどその時、正面から小さい男の子が急に走って来て、咄嗟にセシリアは避けようとして顔を背ける。


「おい、ちょっ!」


「.....ごめんなさい!?」


走って来た男の子は、セシリアとぶつかる寸前で、サッと避け、少しだけ振り向いてから言葉を残し、その場をを走り去って行った。


「...バカヤロー! 何処見て走ってんだよ?!


ちゃんと前を見て走れよ! ..全く...呆れる」


そんな無礼な男の子に、罵声を浴びせるセシリアを見た通行人は、その容姿から想像出来ない怒鳴り声の大きさに、何度もセシリアの顔を見返していた。


一方、そのセシリアは、尻餅をつきそうになっていた体勢を整えて、スカートの裾の部分を3.4回叩いてから立ち上がると、目の前に何かが落ちている事に気がつく..


それは、縦に広がろ紙袋だった。


「..あの無礼なクソガキが落としていったんだろ...


へぇっ..もう、あたしのものだからね?


拾ったんだからさ...バーカ..」


セシリアは、その男の子が走り去って行った方向に声を向けてから、その落としていった紙袋の中身を確認した。


セシリアは、その中身がお金である事を期待したが、入っていた物は..


「...なんだよ? これ...はぁー? これ湿布じゃないか? ...なんだよ、金じゃねえのかよ? …もうバッカみたい!」


紙袋に入っていたのは2枚の湿布であった。


落胆するセシリアであったが、しばらく考えたあと、その紙袋に入っていた2枚の湿布を取り出し乱暴に両足のふくらはぎ部分に押し貼ると、なんだか可笑しさが込み上げて来て、その瞬間だけ、その日の不安等がなかったかのように思えた。


彼女は、気持ちが落ち着くまで、その場で行き交う通行人をよそに腹を抱えて笑い、さっきあの男の子が走り去って行った方向にもう1度目を向けてから、また列車の駅の方へと歩き始めた。


そんなセシリアを、その走り去って行った男の子が遠くの物影から眺めていた事を知らずに..


───


ルモーサの駅に着き、スエル・ドバードから約20キロ離れた街、ゲヘサ・ターツ行きの切符を買い、空いた列車に乗ったセシリアは、その揺れる列車の中で、過ぎ行く光景を敢えて座らずに見ていた。


その列車の扉のガラスから見える先を羨ましそうに眺めて溜め息をつき、さっき貼ったばかりの湿布が沁みて、独り言をこぼしながら、走る列車の中で、一瞬だけ出来て直ぐに去って行く影を見つけては、それを追っかける顔の表情が緩んでいた。


セシリアは、笑っていたのだ。


暖かくも沁みる..湿布の感触に…


そんな日が、今日であった事がうれしくて...


──


午後の15時になる頃、セシリアは、静かなゲヘサ・ターツの町にある広く綺麗な公園の中に佇んでいた。


直ぐ近くには、大きな教会が見える。


セシリアがやって来た場所は、墓地だった。


ゲヘサ・ターツという町はイルモニカの中でもよく知られている墳墓であり、元々は、妖精の住む土地であった。


その事が影響してか、死んだ時には、ここに埋めて欲しいと願う者は、数多くいる。


そんな大地の上に建てられた墓場を空の光は、何時間も前から照らし続けていた。


その光景にセシリアは1人、その場を動こうとせずに、普段にはない、不思議な気持ちになって、しばらくじっとしていた。


風が吹き抜ける音が聞こえる、その幾つもの墓場を無視して通り、1つの墓の前に立ったセシリアは、表情を崩してから、その墓に声を掛ける。


「母さん...また来たよ」

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