Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Preliminary Contest ⑩

公開日時: 2022年9月22日(木) 19:54
文字数:2,348

『ジャケットを着けないというのは普通に不利だと思うのですが、甲斐さんはどう思われますか?』

『そうですね、一般的にみて設定重量以下でプレイするのは不利とされています。得点は半分になりますし、その分攻撃回数も多くなり機体の損耗も大きくなるでしょう、正直デメリットしかありません』

『では何故ジャケットを着けないのでしょうか?』

『一つだけ想像できますが、実況の楽しみが減るので今はやめておきましょう』

『ええ、何ですかそれは? 気になります!』

『私としてはバジリスクの戦術も気になりますね』

『なるほど、確かに。インビクタスアムトがエースを最初から投入してきたのと対照的に、バジリスクはエースを出してきていません』

『興味深いですね、インビクタスアムトはこの予選大会においてエースを最初からだしたのはこの試合含めて僅か二回、対してバジリスクはこの試合以外全てエースを最初から出してきました』

『全く対照的な戦術をとったわけですね』

『その通りです』

『近畿大会の切符をかけた予選最終試合、始まる前から面白くなってきました。さあカウントドローンがフィールドに入りました』

 



 実況と解説が思い思いに考察を重ねている頃、甲賀バジリスクはポジションに付きながらメンバーと打ち合わせをしていた。

 

「なんやあいつら、しょっぱなからエース投入かい」

『勝負を捨てたとかでしょうか』

「んなわけあるかい、オレらに勝ったら近畿大会やぞ」

 

 高秀は自分が持つインビクタスアムトのデータを脳内でまとめながら違和感を探す、しかしハミルトンに関しては普通の機体より速いという事以外のデータがない、ACSについては体感的に動かせるという事らしいが、所詮は操縦法の一つなので気にするまでもないだろう。

 

「わからんけど、太郎を下げたのは正解やな」

『拙者、本音を申すと最初から戦いとう御座る』

「作戦会議で決めたやろ、お前は後半に集中せぇ」

『御意』

「皆もきっちり意識しとけよ、前半は捨ててもええから相手の戦術を引き出すのと疲労を狙うんやで」


 メンバー全員から威勢のいい返事を受けて高秀は満足する。

 実況と解説は気付いていなかったが、もしくはあえてスルーしてたのかはわからないが、実は甲賀バジリスクのスタメン機にはレギュラーメンバーが半数しか乗っていなかった。

 

 カウントドローンが試合開始のスリーカウントを始めた。

 


 

 滋賀予選Aブロック大会最終試合が行われている会場から遠く離れた関東地方、熊谷市の熊谷グラムフェザーのいくつかある休憩所の一つにて、かつてインビクタスアムトに所属していた枝垂健二と、グラムフェザーで仲良くなった田中星矢が予選大会の中継を一つの端末で観ているところだった。

 

「へえ、わざとジャケット外すんだ。健二君は何でかわかる?」

「んー、まあ俺も大体予想つくけど、先の楽しみが無くなるので今は黙っておきましょう」

「それさっきの解説の人の真似? 似てない」


 実際、健二にはジャケットを着けない理由がわかっていた。むしろジャケットを着る理由の方がわからないぐらいだ。

 そんな二人の後ろからぬっと大柄の男がやってきて、上から端末を覗きこんできた。

 

「インビクタスアムトの試合か、今日だとは知らなかったな」

「誰っ! ……て上邦炉夢!」

「えぇ!! ろ、炉夢さん!?」

「アタシもいるぜ!」

「げっ、姐さん」

 

 後ろから現れたのはグラムフェザーのエースこと上邦炉夢、それと同じくグラムフェザーのレギュラーメンバーである三枝和紗さえぐさかずさだった。

 黒く長い髪と釣り目、勝気な仕草がまさに姐さんと呼ぶにふさわしい女性であった。

 実際彼女自身周りの人間に自分の事を「姐さん」と呼ぶよう徹底しているくらいだ。

 

「これが炉夢の推してるチームかえ? いいねぇアタシ達も観ようぜ。あと健二てめぇ、さっき「げっ」つったろ? デコピンすっぞ」

 

 と言いながら和紗は健二にデコピンした。

 

「痛ってぇ!」

 

 めちゃくちゃ痛かった。

 どうにも健二は和紗が苦手である。

 

「俺も宇佐美がどれだけ上達したか興味ある。見せてもらおう」

 

 そして四人がぎゅうぎゅう詰めになって一つの端末を覗き込む。

 

「いや、そこのモニターで流すから離れてくんね?」

 

 カウントダウンドローンのスリーカウントは既に二つ目まで進んでいる。

 



 インビクタスアムトのメンバーは比較的落ち着いていた。

 流石に十試合目ともなれば慣れて緊張とも程よく付き合えるようになる。

 

『向こうは後半に力を入れてくるみたいね』

『エースがいない事からまず間違いないでしょう』

『対してワーレワレは宇佐美と気高い貴族こと南條漣理のダブルエース投入! 前半はもらったも同然!』

 

 漣理のダブルエース発言は誰もが無視した。

 

『記録では、予選大会の開始からエースの鈴木太郎君を出さないのは初めてですが、去年の予選では何度かありました』

『その時どんな戦い方したのかしら?』

 

 大蔵が友恵に聞き返すが、既に答えは用意してあったのかスラスラと流れるように答える。

 

『今と変わらずアシスト中心のプレイだったのですが、機体が今と違うので参考にはならないかと』

『うぅむ、とにかく相手は後半からが勝負と思っているのなら、こちらは前半で勝負をつけるわよ!』

 

 誰も異論はない、むしろ最初からそのつもりで来たのだ。

『そのためにハミルトンのジャケットを外したんだから』

「ついでにリミッターも外してきたよ」

『お、許可降りたんだ』

「弁護士九重さんのおかげですばい」

 

 最終試合のためにハミルトンに掛けられたリミッターを外そうと、宇佐美は祭と共に整備士長の聖へ掛け合ったのだ。丸一日使った身体検査の果てに、ようやく昨日リミッターを外す許可が降りたのだ。

 残念ながら試運転がまだなのでぶっつけ本番になる。

 

『いいじゃない、ぶっつけ本番けっこう』

 

 カウントドローンのスリーカウントが三つ目を告げた。 

 

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