『あと一点とられたら終わりだ』
二点目はほとんど電撃的にとられたようなものだ、流石はプロというべき、こちらに対策とらせずに素早くカタをつけてきた。
これまではこちらの技量を図るために抑えてたのかと思う動きだった。
『いよいよ本気になったのか、それともブランクを取り戻してきたのか、両方か、何れにしても時間をかけると僕らが不利だ』
『じゃあもうミスはできないね』
『まあボクにミスはありえナイルだがなぁ!』
『最初の攻撃で秒殺されてたじゃん』
『ぐほ』
心愛の鋭いツッコミを受けた漣理が情けなくもダメージを受けた。ネタではなく心の底からミスは無いと思っていたらしい、タフというか図太いというか。
とにはともかく、最早点を取られるわけにはいかないので確実にキメねばならない。彼等と同じく電撃的にやるしかない。
『次は正攻法で行こう』
開始の合図が出された。
最初に動いたのは前二回と同様TJだった。ワンテンポ遅れてクリシナが走る。先程と同じようにレオニダスが迎えうつ、盾を構えて一回目と同じように弾こうとするが。
『あら、盾の動きが悪いわ』
モニターをチェックすれば盾の先端に何か異常があるらしく、盾内蔵のカメラを動かして確認するとクリシナのネコチャンが張り付いているのが見えた。
今にもニャーと鳴きそうなネコチャンを一番物理干渉しやすい先端に貼り付ける事で行動を阻害していたのだ。
一瞬でも動きが鈍ればこちらのもの、隙を見せたレオニダスの盾に組み付いた機体があった。以外にもそれはクリシナであり、TJは既にリリエンタールの元へ向かっていた。
バックスのクリシナのパワーではレオニダスには及ばない、呆気なくひっぺがされるのだが、想定内の事だった。クリシナの目的はレオニダスを止める事ではなく、TJをリリエンタールに向かわせる事だった。
七回目の攻防にして分かったことだが、レオニダスだけならハミルトンでも突破できるとふんだのだ。
厄介なのはリリエンタールである。バックスでありながらフロントもこなせるパワーも持っているからだ。これに対処できるのは同じくバックスでありながらフロントもこなせる器用貧乏なTJだけだ。
パイロットの技能差は圧倒的だが、機体の性能差はTJの方が高い、何せリリエンタールよりも四世代は新しい。
ゆえに力比べに持ち込む事が出来れば負けることはない、そして今、TJとリリエンタールはお互いの腕を掴んで押しあっていた。性能差のあるTJと上手いこと拮抗してるのは厚の技能が高いゆえだ。
そして後ろで控えていたハミルトンが走り出す。
起き上がったクリシナがレオニダスの前に立って妨害する。一緒だけクリシナの影に隠れたハミルトンはブーストを吹かして高速でスライディングをする、盾の死角を利用して足元を横切ったハミルトンはすぐ様エンドラインへ、TJとリリエンタールを横目に追い抜いてタッチダウンをきめた。
二対二、並んだ。
『次は防衛だ!』
そして防衛戦が始まる。ここで失敗すると宇佐美達の敗北となる。所定位置に着きながら三人は作戦会議を始める。
『さっきと同じようにボクがリリエンタールと戦うずら卵』
『卵……いやさっきは奇襲だったから上手くいっただけだよ、それにリリエンタールの方が速いから僕が対応した方がいいと思う』
『ネコチャンでボールを直接攻撃できたら良かったんだけど』
協会が定めたルールにより、クリシナが使うネコチャン等の遠隔操作武器は原則ボールに触れてはならないとされている。ボールを持つ腕なら構わない。
ゆえにネコチャンを使った作戦は意外と幅が狭いのだ。
ブザーが鳴り、防衛戦が始まった。
最初に動いたのはなんとリリエンタールだった。すれ違いざまにボールをレオニダスに手渡してこちらへ猛スピードで突っ込んでくる。
『しまった!』
奇襲された。リリエンタールはスピードをそのまま攻撃に乗せてTJを張り倒した。レオニダスが動いたのを確認したらハミルトンへと向かう、ハミルトンが構えるのが見えたが、元プロの厚からしたら隙だらけだ。
ハミルトンが右腕を突き出したが、リリエンタールはそれを軽く払って懐に飛び込む。ハミルトンの足を踏んづけてから胸部を押して青天を狙うのだろう。
『ネコ!』
胸部を強く押すつもりだったが、クリシナのネコチャンがリリエンタールの腕に張り付いて阻害する。
リリエンタールの攻撃はズレてハミルトンの胸部から顔へと移る。
ハミルトンの頭は強い衝撃を受け、感覚を共有している宇佐美は強い脳震盪の錯覚を感じてふらついてしまう。足取りがおぼつかないまま、宇佐美はその場で意識を失ってしまった。
『宇佐美!』
心愛が呼びかけるが果たして聞こえていたかはわからない。
離れたところでモニターしていた整備班もまた、宇佐美が意識を失った事に気付いていた。
モニターを見る限りバイタルや呼吸に問題は無い。
「ガス濃度を下げて回復処置をとって」
聖整備長が部下に指示をだした。部下が了解し、モニター上に表示されたガス濃度が下がっているのが確認された、同時に覚醒のための電気信号が流されている。
「整備長!」
「どうしたの?」
「それが、こちらが操作する前に、既にガス濃度の低下と覚醒処置が行われていました」
「どういうこと? 誰か先にやったの?」
「いえ、誰もやってません。ハミルトンが自分でやったようにしか思えないんです」
当然ながらハミルトンにそのような機能は無い。後々つけるつもりではあったが、まだ未完成だ。ハミルトンに実装されている筈が無い。
それがハミルトンが勝手に処置をしたと、それではまるで、ハミルトンが宇佐美を気付かっているようではないか。
ふと、聖の脳裏にある人の残した言葉が蘇る。
「まさか、ほんとにハミルトンは生きてるっていうの?」
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