インビクタスアムトの第六試合は、第五試合の惨状と打って変わって安定した動作を見せていた。
スタミナ配分を意識してか、比較的無駄な動きが少なくなったように見える。守備に重きを置いて一つ一つのプレーが丁寧だ。その分攻撃回数が減ってしまっている。
良く言えば堅実、悪く言えば消極的なプレーと言える。
そんなインビクタスアムトの第六試合を待合室で見学しているチームがある。先程まで米原ボートキャシーと試合をしていた甲賀バジリスクだ。
モニターを眺めながらキャプテンの羽柴高秀が頭をワシャワシャと掻き乱す。手の動きに合わせて高秀の頭からフケがポロポロと零れ落ちていった。
「あちゃー、こりゃ俺らと戦う時はインビクタスアムトが手強くなってんな」
「拙者、むしろそれこそが本懐でござる」
高秀の声に合わせて来たのはバジリスクのワイドレシーバーでありエースでもある鈴木太郎である。
「甲賀忍軍の末裔として強きものと戦いとうござる」
この者、自らを甲賀忍軍の末裔と名乗る自称忍者である。尚、実際は商人の家系で甲賀忍軍とは何の関係もないらしい。
「毎度言ってるけど、その精神はどちらかというと武士の方やと思うで」
「何を言っているでござるか! 忍者とは正々堂々正面から相手と打ち合うものでござろう!」
「いや忍べよ」
どうやら忍者というものを誤解しているらしい。
「そんな事よりインビクタスアムトやて、鈴木はどう思う?」
「手前勝手な想像でござるが、インビクタスアムトとの試合は予選最終試合、十日後でござる。先のボートキャシー戦でインビクタスアムトは自分達の弱点に気付いたでござろうから、おそらくその十日で弱点を克服するか補う術を用意してくると思われる」
「だよなあ、もう今の時点で動きが違うもんなあ」
バジリスク側もインビクタスアムトの対策は早くに立てていたのだが、事前に立てていた計画がほぼ全てボートキャシーに使われてしまったため練り直しが必要となったのだ。
「これ俺らが先に戦っとったら楽できたんちゃうか?」
「その場合はボートキャシーが苦戦していたでござろうな」
結果論ですらない。
「まあ最終試合まで十日、それまでにあと三試合あるから調べる余裕はあるな」
「うむ、ゆえに今は次の対戦相手について調べるのが良いと思う…………でござる」
「たまに忘れるならその語尾やめたら?」
「拙者のアイデンティティゆえに」
そうこうしてる間に第六試合が終わり、インビクタスアムトが勝利した。
「すまんが誰かこの試合のデータと第五試合のデータを見比べて変化を調べといてくれとマネージャーに伝えといて」
「じゃあ俺が伝えとくっす」
チームの一人が映像データを保存してバジリスクのホームにいるマネージャーへ送信した。メッセージには先程キャプテンの高秀が言ったことをそのまま書いてある。
その間に高秀と太郎は待合室を出てどこかへと向かった。
「ほな俺らはインビクタスアムトの連中に挨拶しよか」
「敵に挨拶するは忍者の基本でござるからな!」
宇佐美と涼一と厚は第六試合が終わって早速シャワーを浴びようとスタッフルームの廊下を歩いていたところ、変な二人組と出会った。
「俺は甲賀バジリスクのキャプテン羽柴高秀や!」
「同じく! 拙者は甲賀忍軍の末裔こと鈴木太郎でござる」
本当に変な二人組だった。
「なに!? お主は甲賀忍軍の末裔と申したか! つまりニンジャ!」
意外な事に……いや意外でもなんでもないが、食いついたのは涼一だった。
「左様、拙者は忍者である!」
「このようなところで会うとはな。俺の名は桧山涼一! 美浜インビクタスアムトの風使いだ!」
「なんとお! お主は風の忍法を使うともうすでござるかあ!」
「貴様の流儀で言うなら、そうだな」
「まさか斯様な場所で貴殿のような強者と会えるとは、中々やるでござる」
「ふっ、貴様もな」
忍者と風使いの間で謎の絆が産まれた。
そんな二人は置いておいて、高秀と宇佐美と厚は話を続ける。
「今日はただ挨拶に来ただけや、すぐ帰るさかい。邪魔してすまんかったな」
「いえ、これはご丁寧に。私は美浜インビクタスアムトの鳥山厚と言います」
「あ、僕は上原宇佐美です」
「上原……宇佐美、何やどっかで聞いた事ある気がするな。まあええわ、十日後の試合楽しみにしとんで。ほなな」
それだけ言い残して高秀は涼一と絆を深めている最中の太郎を放置して帰っていった。
残された二人は少し唖然としながらも甲賀バジリスクというチームについて熟考を重ねていた。
「甲賀バジリスク、確か最終試合で戦うチームですよね」
「ええ、そして我々が敗北したボートキャシーを倒したチームでもあります」
「強敵が向こうから挨拶、いや宣戦布告をしてきたってわけか」
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