Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Bird Scramble ⑨

公開日時: 2021年7月7日(水) 16:59
更新日時: 2021年7月11日(日) 23:48
文字数:1,591

「なるほど、そういう事が」

 

 日付が変わろうとする直前、もう寝ようかとしていた宇佐美の元に、祭から電話が掛かってきた。

 何事かと思い出てみれば、父親が意識不明となる事件が起きた時の話を聞かされたのだった。

 

『ほんとは最初に言うべきだったのに、ごめんね』

「確かに、でも最初に聞いてたらハミルトンに乗るの止めてたかも」

『はは、それは困るわね。今じゃ宇佐美君以外に考えられないもの』

 

 しばし沈黙が続く。窓を開ければ秋の夜風がそよそよと肌を撫でて心地よい。空を見れば街の灯りで星は消えていたが、月だけは煌々と照り輝いている。

 そういえばもうお月見の時期は過ぎてたなと思った。

 

「九重さんはさ」

『うん?』

「ハミルトンに乗ろうと思わなかったの? お父さんの機体なんでしょ?」

 

 受話器の向こうで祭が息をのんだ。少しだけ呼吸が荒くなった気がしたが、直ぐに元へもどった。

 

『乗ろうと思ったんだけどね』

「ふむ」

『ハミルトンに近づくとあの日の事を思い出して怖くなるの』

「トラウマになっちゃったんだ」

『うん、正直今でも怖い。実は視界に入るだけでもだめなんだ』

「それでよく今までやってこれたね」

『気合いで何とかした!』

「気合いか!」

『気合いがあればなんだってできる!』

「嫌いじゃないその脳筋思考」

 

 ふたたびの沈黙。秋の夜風はやはり冷たく、そろそろ寒くなってきた。窓を閉めてカーテンを閉じる。

 締め切ると途端に静かになった部屋で、宇佐美は祭の言葉を待った。

 

『ほんとにこれまで通りハミルトンに乗ってくれるの?』

「うん」

『ありがとう』

「僕もだよ」

『私何かしたっけ?』

「ずっと前に言ったやつなんだけど、忘れちゃったんならもう言ーわなーい」

『何よそれー、言いなさいよ!』

「ワッハッハ、秘密秘密ー」

 

 静かな部屋に笑い声が響く。気付けば日付はとうに変わっていた。

 


 

 翌朝、インビクタス・アムトのグラウンドにアムトのメンバーと厚と大蔵が集まっていた。厚と大蔵の背後には大型のトレーラーが控えている。これは昨日置いていったものだ。

 厚は宇佐美の前に立ち、その表情を伺ってから口をひらく。

 

「その様子ですと、ハミルトンを降りる気は無さそうですね」

「察しがいいですね、その通りです」

「私ももう降りろとは言いません」

「そうですか、それはつまり加入してくれると?」

「それとこれとは話が別です。実力を見せて頂けたらと」

「つまり勝負して勝てば入ると?」

「えぇ、三年もブランクのある私程度に勝てなければ弘樹さんのチームに勝つことは不可能ですから」

「いいですね、僕そういうの嫌いじゃないです。決めるの僕じゃないけど」

 

 なにやらチーム代表みたいな立場で話をしているが、宇佐美は一介のメンバーに過ぎない。何事かを決定するにはまずチームリーダーの九重祭かコーチの桧山恵美を通さなければならない。

 振り返って恵美に視線を送る。恵美の方は宇佐美の意図を察して短く頷いた。

 

「OKみたいです。ルールはどうしますか?」

「こちらが決めていいのですか?」

「あなたが決めたルールで勝った方がより納得しやすいでしょ?」

「なるほど」

 

 少しだけ考え込む素振りを見せてから、厚は端末を取り出して機体データを確認し始めた。しばらくしてルールを決めたらしく改めて宇佐美と向き直った。

 

「ルールは三点先取した方が勝ちのミニゲーム、ボールを取られたり、もしくはフィールドに落ちたすると攻守交替、無論点が入ってもだ」

「つまり交互に攻撃と守備を入れ替えるわけだ、反撃のないアメフトみたいなものか」

「先にどちらかが三点とるまで交代し続ける。出場メンバーは、こちらは私と大蔵の二人、そちらは上原宇佐美と南條漣理と水篠心愛の三人」


 人数的にはこちらが有利だが、ブランクありとはいえあちらは元プロのラフトボーラー、大したハンデとならないだろう。

 だからこそ面白い。胸に燃えたつ炎の昂りを感じながら、宇佐美はもうじき始まる戦いに心踊らせた。 

 

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