特別クラスの教室は普通の教室と違い、元々用務員や警備員の休憩室だった部屋を改装したものらしい。
広さそのものは他の教室と同じくらいだが、黒板は無く、代わりにホワイトボードが壁沿いに掛かっている。机は個人用のものではなく、長机と長椅子が3セットあるのみ。
後方には何と畳が四畳半も敷かれており、中央には冬の友達こと炬燵様が置かれている。
その特別クラスにて、枦呂は教室に入るなり既に集まっていたメンバーへ自己紹介を行う。
「武者小路枦呂、本日よりチームに加わらせていただきやす!」
ビシッと敬礼をキメて枦呂の紹介は終わる。鮮やか、かつシンプルな自己紹介はとてもわかりやすいものであった。
しかし他メンバーの反応は歓迎ではなく、また拒絶でもなかった。
『誰っ!?』
困惑である。
「新メンバーでありやす!」
「だから誰やねん!!」
「はいはい、私から説明するわ。この子はさっき私がスカウトしたラフトボーラーよ、既に免許は持ってるけど試合の経験は無いわ」
「よろしくでありやす!」
枦呂が言い終わってからまばらな拍手が響く。
「はい、紹介はここまで。ここから本題にはいるわ」
拍手が終わってから、ジャケットを脱いでカーディガンの袖を捲った祭が、手を叩きながら一同の注目を集める。卸したてでまだ改造もしていない制服のスカートを翻してホワイトボードの前に立つと、ペンを手に取り板書を始める。
「あれ? 書けない」
「あっ、それインタラクティブ・ホワイトボード(電子黒板)だから電源入れないと書けないよ」
「あらほんと、ん〜こうかしら」
宇佐美の説明を受けながらホワイトボードを操作する。表示されたアイコンに従ってタッチしてようやく普通に書けるようになった。
「おお〜、ハイテクねこれ」
「いいっすねぇこれ。全教室に配備してほしいっす」
「予算的に無理だろ」
「愚かなり下等市民、ボクが多額の寄付をすれば可能となる!」
「じゃあやれよ、あとキャラぶれてんぞ!」
「ふん、私はホワイトボードよりチョークと木製の黒板派だからやらない!」
「ああそうかよ! とりあえずキャラが定まるまで黙ってくれ! クソ!」
「コントはそれくらいにして、ボードに注目してちょうだい」
「「コントじゃねぇ(ない)!」」
健二と漣理が漫才をしている間に祭は何か書き終えたよう。ざっと見るにそれはラフトボールのポジションであった。
フロントポジションが5つ、バックスポジションが8つ。
どうやら、これから各自のポジションを決めていくらしい。
「私達は今7人いるわ、そして機体は全部で8機。1人1機だとしても一つ余る」
「なるほどな、せやけど3機はもう決まってるやろ?」
「ええ、エルザ・レイスは私、クイゾウはクイゾウ、ハミルトンは宇佐美君が。
ついでにポジションだけど、私はクォーターバック、クイゾウはワイドレシーバー、宇佐美君にはランニングバックについてもらおうと思ってるわ」
「ふ〜ん、じゃあ俺のポジションは何処になるんだ?」
「希望はある?」
「え? ん〜フッカーかな。フロントの方が俺の性に合ってる気がするからさ」
「OK、じゃあ健二君はフッカー。後で整備士にフッカー用の改造プランを頼んでおくわね」
「おう」
「ほなワイもフッカーを希望するわ」
「これでフッカー二つは埋まったわね」
フッカーは最前列のポジションとなる。2つ存在し、センターフロントと共に相手チームの壁を崩したり、ランニングバックのルート確保等アシストが多い。
「漣理君は何処がいいかしら?」
「何処でも華麗にこなしてみせますよ、この僕のエレガントな妙技で」
「じゃあタイトエンドって事にしましょう」
「えっ……そんなあっさり……もう少し絡んでくれても」
残念そうな顔を浮かべる漣理を置いて、残りは新メンバーの枦呂。
「枦呂は何処がいい?」
「あっしも何処でもいいので姉御が決めてくだせぇ!」
「そういうのが一番困るのよね。ふむ〜、じゃあセンターフロントという事にしておきましょう」
「あいあいさー!」
「一応言っておくけど、これは基本的にってだけよ。場合によってはポジションの変更もありうるからそのつもりでいてね。
特にタイトエンドとセンターバック、それからワイドレシーバー、ここは頻繁にポジション変更があると思って頂戴」
「了解っす」「あいさー」「わかりました」
「それじゃサクサク進めるわよ、地の文を差し込む余地のないくらいにね。
次の議題はメンバー集めよ」
「ワー、自分のメタ発言を華麗に流したっすー」
「勧誘するターゲットは学生! そしてプロじゃなくてアマチュアもしくは未経験者よ」
「どうしてプロの人を呼ばないんですか?」
左手を軽く挙手した宇佐美が尋ねる。
「足並みを揃えるためよ。それにフリーランスのラフトボーラーなんてあまりいやしないわ、居ても問題を起こしてチームに居られなくなったのがほとんどよ」
「せやな、確かにネットの掲示板見てもええ噂は聞かんわ」
そういえば、何処のチームにも所属していないラフトボーラーが、ラガーマシンで暴れたというニュースが度々報道されているなと宇佐美は思い出した。
「だから勧誘するのは主に学生か素人。勿論素人だけだと不安があるからプロの人も呼ぶわ、けどこれは私がツテを使って勧誘する。2人程アテがあるの」
「じゃあ僕達が集めるのは……えっと、4人だね」
「そういう事よ、とりあえず会議はここまで。この後は格納庫に移動して、各自の機体を決めて、改造プランを立てるわよ」
「おお! ついにか、俺テンション上がってきたぜ」
「ワイ実は機体の名前考えてきてんねん」
「言っておきますけど、ボクが用意した5機のうち4機は未改造なので全部同じですよ。残りの1機は私用に既にチューンナップ済みですけどね!」
「うぅわずりぃ! この貴族やってる事ずりぃ!」
「私が用意したのだから良いでしょうが! この下等市民!!」
祭の言葉で途端に教室がザワつく、皆自分の機体を持つ事が楽しみだったのだ。教習が終わってからは、エルザ・レイスとクイゾウを回し乗りして感覚を保ったり、シミュレーターで練習していたものだ。
いよいよ自分の機体で実機練習ができるとなれば活気づくのは当然ともいえる。
「因みにラガーマシンはレンタルだから。後で請求書送るわね」
「やめろおおお!! そんな生々しい話は聞きたくねえええええ」
レンタル料は毎月1万円とリーズナブルでプライスレスなサムシングウェルなものとなっている。
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