さて、いよいよスプリングランド予選一回戦が開始される日となった。
予選会場は各市にある市営フィールドが使われる。Aブロックの予選会場には甲賀市の市営フィールドが選ばれた。
「ついに予選だが皆気張らずにやるさね、まあ、まさかのトラブルが発生してしまったけど」
恵美が緊張するメンバーを元気づけようと発破をかけるが、いかんせん自分も事前におきたトラブルが原因で少し動揺してしまっていた。
「いやぁ、まさかでしたね。僕もこれにはびっくり」
「自分のせいっす! 自分がお嬢をもっと監督できていれば!」
「クイゾウのせいじゃないでありやす!」
「そうですよ、全部九重先輩が悪いです」
「いや、自分のせいっす! 自分がしっかりしていればお嬢は! お嬢だけ補習続行で試合参加不可なんてならなかったっす!!」
大事な予選一回戦、なんとキャプテン不在で実行という珍事がインビクタスアムトに発生してしまっていた。
その頃、洛連高校の補習室では。
九重祭が補習のプリントを片付けていると、不意に外が気になって窓の向こうへ視線をやった。
今日の空は夏らしく青い色が澄み渡っている。どこまでも真っ青な空に心緩びながら、蝉の鳴き声に耳を傾ける。
なんとなくアンニュイな表情が気になったのか、補習担当の教師が「どうしたんだ?」と尋ねる。
「いえね、今日も暑いなあ、空が青いなあて」
「そうか、ところでプリントは中々進んでないようだが?」
「.......」
無言の間、冷房の効いた部屋だというのに祭の背中には冷たい汗が垂れていた。
「先生、今日も暑いですねぇ」
「そうだな、実を言うとな九重」
「はい、なんです?」
「補習に付き合わされる先生のはらわたも熱くなってきてるんだ」
「.......」
「.......」
祭はまた窓の外へ目を向ける。
「いやー、やらかしちゃった」
熱い夏が始まる。
祭不在とあってフォーメーションに大きな変更がなされた。
まず大きな変更点として後半まで使う予定の無いハミルトンを最初から導入する事に、ただしこのハミルトンにはジャケットアーマーを装備させて出す。
ジャケットアーマーはその名の通りジャケットのような形をした胴体装備だ。背中のノズルジェットに被らないよう装備する事であたかもハミルトンがジャケットを着ているかのように見える。
これの目的はただ一つ、重量を上げる事にある。
「この試合から重量制限が設けられるようになる。今回の設定重量は二.八トン。ハミルトンの重量は二.五トンだからジャケットをつける」
ちなみにこの設定重量以下でエンドラインを超えると獲得ポイントが半分になる。
ジャケットの重量は零.三トンに合わせてあるので計算上では設定重量を超えるが、試合中に破損して減量する可能性はある。
「それから、鳥山をエルザレイスに乗り換える。いけるかい?」
「エルザレイスの搭乗経験はありませんが、クォーターバックなら何度かやった事があるので大丈夫です」
「よし、石橋はポルシェボーイでライトフロント、南條はTJでセンターバック、武者小路はヘイクロウでワイドレシーバーだ」
「おお、あっしがワイドレシーバーでありやすか。澄雨ちゃんのカルサヴィナじゃないんでありやすね」
「私のカルサヴィナは三トン以下なので、設定重量を超えてて一番速いのはヘイクロウだから選ばれたのかと」
「そういう事さ」
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