「あの鳥山って男、中々姑息な事やってくれるじゃないか」
ミニゲームの監督をするため、撮影用ドローンのセットを行いながら恵美がボヤいた。横でセットアップを手伝っている武尊が疑問符を浮かべる。
「そうなん?」
「対戦相手の選び方がセコいねあれ、ハミルトンは何やら因縁があるらしいから選ぶのは当然として、クリシナとTJは……言い方は悪いが一番弱いのを選んでいる」
「認めたないけどワイのクレイよりTJの方が強いやろ?」
「スペックの数値的にはな、だがクレイはフロント用にチューンされてるからね。あんたがでたら確実に一人は抑えられるだろうから中途半端な性能のTJを選んだんだろう」
「TJやったら抑えられん事はないんか」
「なにせフロントかバックスかすら決まらずフラフラしてるからねぇ」
実は、TJだけポジションが決まっておらず、平均的なスペックをいい事に穴埋めのようにしてあらゆるポジションについて練習しているのだった。
器用貧乏と言えば聞こえは悪いが、どこにでも入れて平均的に動けるというのは存外大きなアドバンテージとなるのでトレーニング方針として採用している。
「どっちにしろ心愛は災難やな」
現状最も操縦技術が拙なく、フルバックとして満足に動けた事のない心愛がネックになりそうだと武尊は思っていた。
しかし恵美の思惑は別にあるようで。
「ほんとにそう思うかい?」
「せや」
「案外、あの子が一番のダークホースになるかもしれないよ」
恵美の言っている事はよくわからなかったが、話してる間にドローンのセットアップが終わったので起動してグラウンドに放った。
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グラウンドでは既に宇佐美と心愛と漣理の三人が機体をスタンバイさせて待機していた。夏の残滓が消え去って、秋も深まったゆえやや肌寒い中で三人が作戦会議をしている。
「よし頑張ろう」
「おー!」
「この僕様の華麗なテクで勝利に導きましょう」
「作戦どうしよっか」
「うーん、こういうのって祭ちゃんやコーチに任せてたから私にはわからないなあ」
「そもそも作戦なんてこの天才マンの僕様には必要ありませんねえ」
「じゃあ作戦は各々頑張ろうで」
「「おー」」
作戦会議とは何かというものを考えさせられる光景だった。
ドローンが飛び始めた頃、ようやく厚と大蔵がラガーマシンに乗って表れた。
厚の機体は鳥山という名字から連想できるデザインだった。全体的に細いシルエットで、砂時計の体型をしている。おそらくかなり無駄な装甲を省いて荷重を減らしてるのだろう。
頭部は尖っておりまさに鳥のよう、何より背中に二つのウィングブースターを装着しており、佇む姿は羽を折り畳んだ鳥人間のようだった。鳥人間を見た事は無いのだが。
カラーリングは赤を基調としている。
対して大蔵の機体はマッシブな体型だが、概ねフロントとしてはオーソドックスなもの。須美子のジックバロンの方が大きいだろう。しかし目を見張るのは左腕に装備した大盾だ。
身体の半分以上を覆い隠す程の大きさの盾を片手で持ち運んでいる。ラフトボールを始めてから色んな過去の試合映像を見てきた宇佐美だったが、盾を使うラガーマシンは初めて見た。
この機体もカラーリングは赤基調だった。
二人のラガーマシンは宇佐美達の手前で立ち止まり、スタンバイ状態に移行させてコックピットから降りた。
「お待たせしました。私の機体はこちらのリリエンタールです。かつてはワイドレシーバーをしていました」
「はいはーい、あたしの機体これこれ、んもう久しぶりすぎてドキドキしちゃってるわ!」
「は、はあ、そうですか」
試合ができるという事で割とテンション高めな宇佐美でも大蔵の独特なテンポにはついていけてない。
「あたしの機体はこの大きな盾持ってるやつね、名前はレオニダスって言うの、ポジションはフッカーだったわ。よろしくね!」
「どうも、えと、僕の機体はハミルトンです。ポジションはランニングバック」
その瞬間、厚の眉が密かに歪んだのが見えた。何か気に触るような事を言ったのかと思ったが、ハミルトン自体が彼にとって地雷であるがゆえ考えない事にした。
「あの、心愛です。私の機体はクリシナです。ポジションはフルバックです」
「ふはーははは! 僕様の機体は」
「ウンコね! あたしあの斬新なデザイン大好きよ!」
「えっ」
残念ながらTJは不本意な方向性で特徴を覚えられていた。
実際チームの誰もがそう思っているが、気を使ってあまり口にだしていない。
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