九重チームと星琳大学ラフトボールサークルの試合は、7-21で星琳チームの勝利に終わった。
元々技術的な面で大きな差があり、その上宇佐美が抜けた事で人数の差も出てしまったことが大きかった。
「うーん」
上原宇佐美は入院中の暇つぶしに試合の映像を見て、研究を重ねていた。
今週末には白浜瑠衣との一騎打ちがあるので、その対策も兼ねている。
「何かわかったか?」
病室のベッド脇に置いてある長椅子には枝垂健二が座って……もとい、寝転がっている。肘掛けにクッションを立てかけて頭を置き、反対側の肘掛けに足を置くというなんともお行儀の悪いもの。
そのくせ本人は一昔前の単三電池で動く携帯ゲーム機で遊んでいる。
「うん、色々とね。こうして客観的にみると僕達ってほんとダメダメだよね」
「おう、そこまでいうか」
「なんていうか統率がとれてないっていうか、チームワーク? が無いよね。仲間に任せるとか、サポートをするとか、こう……無駄な動きが多いなって、いや僕もそうなんだけどね」
「確かに言えてるかもな……終盤なんかボールに目が行き過ぎてて他の奴らの動きとかあまり把握してなかったし」
「それはやっぱり疲れてたから?」
「それもあるけど一番は経験だな、圧倒的に足りないわ。あとフィジカル、最後は握力が持たなくてレバー握るのすらキツかった」
「ああ、フィジカル……僕も体力作りしないと」
シートに座っていれば疲れにくい、なんてことは無い。車に乗ってるようなものだと揶揄する人もいるが、6種類あるフットペダルの操作や、膝で動かす二ーレバー、下半身だけで相当な情報量があるので、そこだけで車の運転の数倍は疲れる。
特に両手で操作するレバーは重い、10t近くあるラガーマシンの姿勢を整えながら動かすのはしんどい。
その上相手とぶつかり合った時は相手の重量や力のベクトルも加算されるし、レバー自体折れにくいよう重く頑強なため、重量級のラガーマシンだと最早握力がもたないことが多いのだ。
「フィジカルは今後の課題だね……それより今はライドルの攻略」
「あぁ……一騎打ちだっけ? 勝てんの?」
「そのために今研究してるんじゃないか」
「つまり勝ち目はからっきしないわけだ」
「むっ……そういう事言っちゃうんだ」
少々カチンときた宇佐美は、動画のシークバーを右へスライドさせて最終版のプレーを再生する。
「おおっとー、健二選手のクレイがボールを持って駆け出したー、これはタッチダウンなるかー?」
「ちょおい!!」
露骨に、全力で、嫌がらせのために宇佐美はどこかわざとらしい実況を始める。その実況の意味がわかったのか、健二はプレイ中のゲームを一旦ポーズして宇佐美の端末を取り上げようとベッドに身を乗り出す。
「ああっーと健二選手! 敵陣地へグイグイ食い込むー、そしてライドルと対面だー」
「てめぇこらそれ渡せ!」
宇佐美は端末を取られまいと健二の頭を片手で鷲掴んで抑える。
「健二選手のクレイが白浜選手のライドルと接触! そしてー、やっぱり転がされた! しかも逆さまだー、これは間違いなく犬〇家の一族ですねぇ、いやぁかっこ悪い」
「こんの〜」
端末内の動画では、ライドルが持ち前の棒術でクレイを倒してボールを弾いたところが映されていた。クレイはなんと頭からフィールドに着地してしまい、そのままバランスをとってしまっていた。
恥ずかしすぎる失態を目の前でコケにされて焦った健二は、宇佐美の腋をくすぐって体勢を強引に崩させた。
「わっ、ちょ……くすぐったい……あっ」
「よっしゃとった!」
宇佐美を押し倒してなんとか端末を奪い取った健二、勝ち誇った顔で若干息を荒らげながら宇佐美を見下ろす。
対する宇佐美の方は面白くないと言うように顔を横に背ける。
そしてその瞬間病室のドアが開いて水篠心愛が入ってきた。
「宇佐美ー、見舞いにきたよ。塩コッペパンもある……えっ」
心愛は目の前で起きてる出来事に驚愕して固まってしまう。その時手に持ったアルバイト先のパン屋の紙袋を落としてしまい、床に袋詰めのパンが散らばった。
驚くのも無理はない、ベッドの上では宇佐美を押し倒すようにして健二が跨っていたのだ、しかも2人共息が荒く頬も上気している。
「あっ……あっ……あっ……2人共そういう……う、うわああああああん」
踵を返して心愛は病室を飛び出した。謎の悲鳴を残して廊下を駆け抜ける彼女の耳元には看護婦からの「走らないでください」という注意のみが届く。勿論従った。
病室に残された宇佐美と健二は、しばらくしてから。
「「ちょっと待ってえええええ!!」」
直後のグループメッセージ。
『宇佐美と健二が病室でせ、性行為してた!』
『ちょw それkwskっすw』
『あの2人そういう関係だったんだ』
『あ、あっしには想像できねぇ世界ですぜ』
『それ誤解だからあ!!』
『ぜってぇ! ちげぇかんな!』
『本人達キターー、凸するっすよ』
『どっちが攻めでどっちが受けなんかハッキリしてほしいわ』
『おいこら何言ってんだテメェら』
『私としては宇佐美が攻めだと思うのよね、健二はヘタレ受け』
『あ、姉御と武尊、詳しいでありやすね』
『まあ、大貴族の徳川家光もホモだったそうですし、別におかしなことではありませんよ、さすがに下等市民を選ぶ宇佐美さんのセンスは疑いますがね。その点ボクは高級感溢れてますよ』
『え……何言ってんのこの貴族の人、気持ち悪くて怖い。僕はそっちの気はないから、健二は知らないけど』
『うぉい!!』
『このグループには変なのしかいない(涙目)』
心愛のセリフで締めくくられた。
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