Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Boy & Girl ②

公開日時: 2020年11月18日(水) 20:15
更新日時: 2021年12月17日(金) 22:26
文字数:3,373

 8月25日、夢の夏休みが終わり2学期初の登校日となった。

 普通の学生ならこの日は来てほしくない絶望の日であり、実際登校してきた学生の3割は充分な睡眠のとれていない夜勤明けのサラリーマンみたいな目をしていた。

 洛錬高校2年生クラスが集う本校舎2階廊下にて、枝垂健二と原武尊の2人は登校してくる生徒を窓から観察していた。


「終わって見るとあっという間だったなぁ」

「せやなぁ、おっ田沼が夏休みデビューしとるで」

「どこどこ?」

「あそこや」


 武尊が指差した方に頭髪を金色に染めた生徒が歩いていた。

 よく見れば同じクラスの田沼だ、夏休み前は髪の色は黒く大人しい男子だった。


「うーわまっ金金、うちが髪染め禁止じゃなくて良かったなあ」

「ほんまそれ、アッチもすごいで」


 アッチの方、そこにはモヒカン頭でサングラスとトゲ付き肩パットを装備した明らかに終末世界から迷い込んできた男がいた。


「アイツだけ世界観おかしいだろ!!」

「しかもそれが生徒指導の先生という事実が一番おもろい」

「それな」

「やあやあ2人ともお元気そうだねぇぇ」

「この声、貴族か」


 2人が振り返るとすぐ側に南條漣理がいたのだが、見事に彼も夏休みデビューを果たしていた。お肌がこんがり小麦色なのだ。


「お前すっげえ焼けてるなあ」

「一昨日の練習の時はそんなんやなかったやろ?」

「えぇ、昨日練習が休みだったので一昨日練習終わりにハワイまで行ってきてたんですよ。そこでこんがり焼いて今朝6時に帰ってきたのさ」

「スケジュール過密すぎんだろ! なんつーかお前すげぇな」

「時差ボケとか大丈夫なんやろか」

「ブギウギ!」

「よくわからんが平気らしい」


 こうして新学期初日は様々な変化を受け入れてむかえるのであった。






「今日からお世話になります、桧山澄雨ひやますうです」


 始業式が終わった後、全校生徒は各自の教室に戻ってホームルームの時間となる。その際一部のクラスでは転校生の紹介が行われていた。今回は双子が転入してきたため二クラスだ。

 そのうち1人がここ、上原宇佐美が通う特別教室へ編入してきた。


 小柄な少女、さすがに枦々ロロ程小さくはないが、線が細く名前から感じるとおり涼しげな雰囲気があった。

 しかし佇まいは凛としており、背筋も伸びてどこか頼もしい。宇佐美は心の中で「可愛い女の子」という評価を下していた。


「上原宇佐美です……よろしく」

「ええ、よろしくお願いします」


 澄雨すうは教師の側から離れて、宇佐美の隣に置いてある席に着席した。その後は簡単な説明を教師から受けてホームルームが終了となる。タブレットの電源を落とした宇佐美は早速疑問に思っていたことを尋ね始めた。


「あのさ、なんでこのクラスに? 見たところ健常者ぽいけど」

「はい、私は健常者ですが。何か問題ありましたか?」

「いや! その……ないんだけど、ここってほら、周りから色々言われてるから」

「障害者クラス……ですよね知ってます。勿論酷い呼び名の方も」


 この学校では特別教室を障害者クラス、もしくはガイジクラスと呼称する生徒が多い。実際ここは何らかの事情で普通のクラスに混じれない生徒が通う場所であり、宇佐美も右足不随だからここに入った。

 つまりここに入るならそれなりの理由がある筈なのだが。


「知ってるなら、えっと……なんで普通のクラスに入ろうと思わなかったの?」

「そんなに私がこのクラスを選んだのが変なのでしょうか?」

「いや、変とかじゃないけど」

「まあそうですね……しいていえばこのクラスの授業方針に興味があったからですかね」

「それだけ?」

「はい。自習メインのクラスがあると知って、ここにしたいと学校に掛け合ったらすんなり通れました」

「うそーん」

「うそじゃないですよ?」


 澄雨はきょとんと可愛らしく小首を傾げた。


「なんていうか、色々新鮮だなあ」


 多くの学生と同じく上原宇佐美もまた、新たな変化を受け入れて新学期初日をむかえた。






 同じ頃、インビクタス・アムトの格納庫でも新しい変化というものが現れていた。朝の10時前、整備班がそれぞれ受け持ちの機体をチェックしていたところに初老の女性が雲雀に連れられてやってきた。


「中々立派な格納庫じゃないか」


 おそらく40前後だろう、ジャージ姿で、髪は黒いが所々に白髪が見える。小皺が見られる顔は思いの外若々しく活気に満ちているため、それだけで実年齢より5歳は若くみえる。


「あら、あなたは」


 ハミルトンの整備をしていた整備長の小沢聖おざわひじりが、作業の手を止めて彼女の側へと歩み寄る。整備中だったため身体には機械油の匂いが染みており、手も黒く汚れているためやや距離を置いて立ち止まった。

 まず挨拶をという前に雲雀が先に彼女の紹介を始める。


「聖さん、こちら新しくこられたコーチの桧山恵美ひやまえみさんです」

「あなたが。私が整備長の小沢聖です。これからよろしくお願いします」

「これはご丁寧に、よろしくお願いします……さて早速ですが機体を見せて貰ってもいいですか?」

「ええ勿論、まずこちらのアリとクレイからいきましょう」

「では聖さんに恵美さん、私は事務所に戻りますので何かあったら事務所までお願いします。それと祭ちゃん達はお昼前ぐらいに着くと思います」

「わかったわ、ありがとう雲雀さん。あなたも大分慣れてきたわね」

「おかげさまで」


 雲雀が一礼してから格納庫を去り、それを見送った聖は他の整備班に指示を出してから恵美の案内を始めた。

 最初に紹介したのは原武尊のアリである。クリムゾンレッドに染められたマッシブな機体、ハミルトンが陸上選手ならアリはプロレスラーといえる。


「パイロットは原武尊、武術に長けたフロントです。外見はクレイとあまり変わりありませんが、実は肩の可動域を狭くして代わりに関節の強度を上げているんです」

「ほう、武術にってところがミソだねぇ。こっちの見た目が同じなクレイってやつは?」


「クレイのパイロットは枝垂健二、チームのツッコミ役です。肩の可動域は狭くしてませんが、下半身にウェイトをつけて重量を上げてます。これは彼が姿勢制御を苦手としてるので安定感をだすためこうしました」

「なるほど、次行こうか」


 同系統の機体二つの後はそれらの最新鋭機となる。つまりはTJ。TJは機体のスペックだけなら没個性的であり、アリやクレイと比べるとクセが少なく扱いやすいだけだ。しかし見た目だけなら究極の個性をもっている。


「こいつはなんで頭にウンコつけてるんだい?」

「パイロットの南條漣理曰く、角だそうです」

「角……」

「はい……角。しかも着脱式」

「外せるのかい」


 次のハンガーへと移る。ちなみに順繰りにハンガーをまわっているわけではなく、整備の仕事が一段落すんだところからまわっている。そして今は生憎どこも整備中なため、聖が担当している機体を見る事に。


「次は……うちのエースハミルトンです」


 全高4m、チームで……いやおそらくラガーマシンの中でも最小の類い。真っ赤なボディに黒の下腹部、差し色に緑を使っている。

 水篠心愛みずしのみあ曰く「スイカっぽい」らしい。


「こいつがハミルトンか、スペック表を見たんだが時速100㎞で走るってのはほんとかい?」

「今はパイロットに合わせてリミッターをかけてますのでできませんが、スペックを全て解放すれば可能です。しかし100㎞というのはあくまで瞬間最大速度なので実際は80㎞がデフォルトになります」

「それでも充分化け物じみてるねぇ……そしてこれが今のところ唯一ACシステムを積んだ機体というわけだ」


「ええ、ACシステムの公式使用が正式に認可されるのは来年の2月からなので、システム搭載機の開発は行われているのですが……中々進んでないらしいです」

「まあ一足先に使わせてもらえるのはありがたいね」

「忘れてましたが、パイロットは上原宇佐美。右足不随の少年です」

「右足不随か……まいったね、あたしは障害者を教えたことはないんだ、それにACシステムもイマイチわかってなくてさ。

 まさかこの歳になって新しい事を学ぶ事になるとは思ってもなかったから色々緊張してるさね」


 変化というものは誰にでも起こりうる。それは起こす方もまた同じ、美浜インビクタス・アムトに爽やかで新しい風が吹き抜けていく。














余談


南條漣理は全身をくまなく均等に日焼けしたいからと、全裸になってビーチで遊んでいたら現地のゲイに襲われかけ、助けを求めた警官に逮捕されたらしい。

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