「なにはともあれ、第九試合お疲れ様ぁ!」
パァンと甲高い発砲音が祭の手から放たれた。百均で買ってきたクラッカーを鳴らしただけだ。その際に思ったよりも音が大きかったのか、クラッカーを落として耳を抑えていた。
散らばったクラッカーの破片は後でルンバに任せる事とする。
「残る試合は一つだけ、ここで勝たなければスプリングランドの夢は来年までお預けよ」
第七試合、第八試合、第九試合と勝ち進め、残る予選の試合は第十試合を残すのみとなった。
これで勝てば近畿大会へ出られる可能性がでられるが、負けるとそこでおしまい。
「ひとまずこれから作戦会議をするのだけど、私と鳥山と瑠衣先輩は残って会議、それ以外はトレーニングよ。方針が決まったら明日皆に説明するわ」
パンパンと手を叩いて解散、祭と名前を呼んだ二人は残って会議だ。厚はPCを操作してモニターに甲賀バジリスクのファイルを表示させる。
祭はルンバを起動させてクラッカーの掃除を始めた。ルンバの上には何故か招き猫が乗っていた。
「恵美コーチはどうしたんだい?」
「事務所でバジリスクの情報を集めてくれてるわ、今頃は友恵さんも合流してると思う」
「じゃあボク達だけで方針を決めるのか、ボクが参加して良かったんだろうか」
「瑠衣君には学生目線で分析してほしいんですよ、このチームの半数以上は高校生と大学生ですから学生の目線で意見を言える瑠衣君に頼んだんです」
「いやぁ、学生目線ならあたしもいるんだけどね」
「お嬢は当てにしてな…………高校生目線でお願いします」
「おいこらてめぇ、今当てにしてないとか言おうとしただろ」
それはそれとして。
「まずは基本データからいきましょうか」
「そうだね」
「チーム名は甲賀バジリスク、甲賀市に所属するチームです。設立してから八年のチーム、最高成績は三年前に関西大会の一回戦、それ以外では近畿大会でベスト4に入るか入らないかを行ったり来たりしています」
「成績だけみるとパッとしないわね」
「それでも近畿大会の常連になる実力はあるみたいだ」
それだけでも今のインビクタスアムトには脅威となる。
「メンバー数は今年の四月時点で三十三名、保有機体数は二十機」
「うわ、分厚い選手層じゃない」
「間違いなく後半でメンバーと機体を入れ替えてくるね」
「キャプテンは羽柴高秀、ポジションはセンターフロントです。ですがどうやら指示を出しているのはクォーターバックの方らしいですね」
「前に出てメンバーを鼓舞するタイプのキャプテンて事かな」
「おそらくそうでしょう」
「色んなキャプテンがいるのよねぇ」
キャプテンの祭が言うと説得力が増す。
続いて開いたファイルからバジリスクのメンバーを出す。
「この方がバジリスクのエース、鈴木太郎です。周りには甲賀忍者を自称してます」
「忍者なの?」
「いえ、民間人です」
「うちの桧山兄と同類てわけね」
祭と瑠衣は知る由もないが、実際に鈴木と涼一は意気投合して仲良くなっていた。
「ポジションはタイトエンド、キャプテンの羽柴と組んでワイドレシーバーやランニングバックのアシストを得意とするそうです」
「アシスト系のエースか」
「勿論、彼自身がボールを持ってタッチダウンする事もあります」
「補助も攻撃もできるエースか」
「またこの機体にはあるギミックがありまして、それが」
会議は日が沈むまで続き、作戦が決まったのは更に深夜になろうという時間だった。
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「ほなワイらもやってくで」
祭達が対策会議を行っているころ、甲賀バジリスクもまたインビクタスアムト戦に向けて対策会議を行っていた。
鉄板焼き屋で。
「まずは豚玉やろ」
「拙者はイカ玉がいいでござる」
店員が手際よくタネと具を用意して二人の前へ置く、この店ではセルフで焼くのだ。
カップ一杯程のタネを二百度以上の熱々な鉄板に起き、素早く広げる。ヘラで形を整えて具を乗せ、タイマーをセットして待機。
「見よ、ワイの華麗なまん丸を」
「ふ、甘いで御座るな。拙者は更に上をゆくでござる」
「な、これは!」
「手裏剣型でござる」
「なんちゅー器用な」
こうして、甲賀バジリスクは作戦会議そっちのけで鉄板焼きを思う存分堪能した。後で反省して翌日仕切り直したのだが、割愛しておく。
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