Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

A Lesson In University

公開日時: 2020年10月28日(水) 19:32
文字数:3,921

 試合終了してしばらく、サポーターも皆モニタールームから退室して宇佐美達3人だけとなった。誰もいないから気兼ねなく試合の感想を3人で話し合って時間を潰していたら、突然「ババーン」と謎の効果音を口で発しながら、1人の女子大生と思しき女性が駆け込んできた。


「うっさみーー……へあっ!!」


 女性はモニタールームへ入ってすぐ、冷風のよくあたる席に座っていた宇佐美の元へと、闘牛の如き勢いで突撃する。対して宇佐美の方は突撃してきた女性の姿を確認すると、徐に折り畳み杖を展開して持ち手の方で女性を突いた。容赦なく額を突かれた女性は銀色の巨人よろしくな声を上げて床にうずくまって呻く。


「い、痛い……頭グワングワンするー」


 額を抑えて悶える女性、宇佐美は武器である杖を肩に担いで女性を見下ろし、次に呆気に取られて呆然としている枦呂と奏に目を向ける。そして杖の持ち手を女性へと向けて。


「これが僕の姉です」


 と紹介した。


「史上稀に見る雑な紹介!?」


 枦呂は江戸っ子口調も忘れる程衝撃を受けたらしい。

 奏の方は何故か怯えてしまい枦呂の後ろへと隠れてしまった。枦呂が小さいため半分近く隠れられてないが。


 雑な紹介を受けた姉の方は、痛みがひいたのか景気良く立ち上がった。


「はい。 宇佐美の姉の上原雲雀うえはらひばりです。いつも弟がお世話になっております」


 枦呂や奏が雲雀に対して抱いた印象は、ゆるふわなお姉さんだった。

 肩にまで伸びたシナモンベージュの髪は、パーマでもかけたのだろう、動きのある軽やかなソフトウェーブとなっている。

 ベーシックカラーのプリーツスカートと、それに合わせた藍色のトップスが更にゆるふわな印象を与えていた。


 そしてなにより、ゆったりな服装にも関わらず、夏の太陽にも負けない程自己主張の激しい豊満な胸部、二つある女性のシンボルがトップスに横向きのテントを張っているのがなんとも艶めかしい。


「む、武者小路枦呂と申しやす! ウサミンには……なんか色々お世話になっておりやす!」

「七倉奏……です」


 2人は歳上の女性を相手にして緊張しているのか、やや声が震えていた。そんな彼女達を興味深げにしばし見つめていた雲雀は、不意に宇佐美へと向き直って。


「どっちが本命?」


 と満面の笑みで言った。


「どっちも違うよ」


 と答えたら、「ブー」とつまらなさそうにボヤいてから、今度は枦呂と奏と向かい合う。


「2人は宇佐美の事が好き? 勿論恋愛的な意味で」

「ふぇぇぇっ!? ……な、ないよ」

「あっしも、そういうのは無縁でありやすね」


 できればそういう質問は自分のいないところでやってほしいと宇佐美は思う。そんな宇佐美の心境を知ってか知らずか、雲雀は心底つまらなさそうに肩を落としてため息を吐いた。


「なんだ、残念。でもいざとなったら私が宇佐美の恋人になるからね! いつでも処女あげられるから、なんなら今すぐにでも」

「ごめん姉さんキモイ」


 両頬に手を当てて恥ずかしそうに悶える姉を軽蔑の眼差しで見つめながら宇佐美は辛辣に突き放す。それすらも快感……楽しいのか身を捩らせて頬を染めていた。


「こ、個性的な人でありやすね」

「武者小路さんも大概個性的だよ」








 一通り自己紹介を終えた後、宇佐美達はモニタールームを出て、雲雀の案内のもと星琳大学のラフトボールサークルの部室棟へと移動していた。

 広いキャンパスをゴルフカートで移動しながら、宇佐美と枦呂は見慣れぬ学び舎を好奇の眼差しで見つめていた。


 外壁だけでも新鮮だ。星琳大学のキャンパスは壁一つとってもデザインが機械的で、過剰な表現をすれば近未来にタイムスリップしたような錯覚を感じる。

 野暮ったい自分達の高校とは雲泥の差である。


「やっぱり大学ってオシャレっていうか、大人っぽいよね」

「あっしら、未来にきたんじゃ」

「そ、それはさすがに……でも、枦呂ちゃんの言ってること、少しわかる……かな。ロマンがある」

「姉さん、部室棟はまだ?」


 カートの助手席に座る宇佐美が運転席の雲雀へと尋ねた。

 雲雀は宇佐美の方へチラっと視線をよこした後、直ぐに戻してから「もう少しよ」と短く言い放った。

 意外な事に、雲雀は運転している間は必要最低限の事だけ話して、それ以外はずっと静かにしていた。安全運転のためだろう。


 部室棟に着いたのはそれから約5分後であった。

 外壁は普通のALC材を使った二階建ての建物、そこはいくつかの運動サークルが共同で利用しているらしく、部屋は相当数あった。

 部室棟の奥から3番目の部屋がラフトボールサークルの部屋となっている。


 ドアをノックすると、こっちから何か言う前に中から「どうぞ」という声が返ってきた。

 最初に雲雀が、次に枦呂、奏ときて最後に宇佐美が中へと入る。


 中は十畳程の広さ、壁際にはロッカーが並び、真ん中には長机があった。

 長机の一番奥の席に彼はいた。座ってるので身長まではわからないが、さっぱりとしたワイルドツーブロックの髪型が特徴の好青年だった。肩周りも大きく肉付きも良い、相当な筋力があると思われる。


「こんにちは、先日連絡した上原雲雀です。本日はこちらの無理なお願いを聞いていただきありがとうございます」


 宇佐美は目の前の光景が信じられなかった。いつもは破天荒で気持ち悪い言動しかしない姉が真面目な顔で真面目な発言をしているのだ。

 正直、怖かった。

 そんな宇佐美の心情に気づく者はおらず、話は無難に進んでいく。


「星琳大学ラフトボールサークル会長の大江直樹と申します。たった8名しかいない弱小チームでよければいくらでも見学してください」


 見た目は厳ついが、中々気さくな人だ。

 しかし、直樹の発言にその場にいた全員が疑問符を浮かべる、最初にそれを口にしたのは枦呂だった。


「へいへい! 8人と言ったでありやすが、さっきの試合には13人いたですぜ」


 本来ラフトボールとは13人対13人のチーム戦だ。別に全部揃わなくても出来なくはないが、人数の差はたった1人分であっても大きな影響を及ぼす。それはサッカーやバスケットボール等他のチーム競技でも同様だ。

 先程の試合ではちゃんと13人揃っていた。8人しかいないのであれば残りの5人はどこにいったのか。


「あれは助っ人さ、他のスポーツサークルから助っ人を頼んで参加して貰ったんだ。みんな履歴書を埋めるためにラガーマシンの免許をとった奴ばかりだけど、いないよりはマシだから」

「よくラガーマシンを壊さずにすみましたね。僕だったら壊していたかも」

「はは、あれでも昔はよく腕とか頭を潰していたものだよ。それでも数をこなしていたからか今じゃすっかり上手くなってしまって」

「なるほど」


 もしかしたら宇佐美や健二よりもラガーマシンの操縦が上手いのかもしれない。それに実戦経験も段違いだろう。


「ここでこうしてても仕方ない、よければフィールドでレクチャーしよう。聞くところによると、君達は最近ラフトボールを始めたそうじゃないか」

「それはとてもありがたい。僕達技術とか全然身についていないので、是非勉強させてください」

「いいとも、俺達も最後にラフトボールの後輩へ技術を伝えられて嬉しい。早速行こう」


 練習試合を観て、簡単に挨拶だけして帰る筈だったのだが、思わぬ収穫を得ることが出来そうだ。

 思えば今までは教本や動画を観て独自に練習していたので、誰かに教わるなんて事は初めてで新鮮だ。


 フィールドへ移動するすがら、宇佐美は直樹の発言を頭の中で反芻はんすうしていた。


(最後ってどういう事だろう?)


 多少の予測はつくものの、それを尋ねてよいものかどうかはわからなかった。








 その頃の赤点四天王。


「俺達、なんか馬鹿な事してねえか?」


 本日の補習も残る1つ、軽度の熱中症から復帰した健二は突然悟りきった顔で神妙に呟いた。

 実際馬鹿な事をやっている。


「た、たしかに……あたしもちょっとふざけてたわ」


 と九重祭が。


「わたくしも、下等市民に感化されすぎてしまいました」

「せやな、そろそろ真面目にやろか……とりあえず次の補習の予習せえへん?」


 漣理と武尊もまた、自分のやっていることを思い巡らせて己を恥じた。

 4人共、自分達の行動を深く反省していた、ゆえに武尊の予習しようという提案に反対するものはいなかった。


「よし、じゃあ全員教科書だしてやろうぜ」


 健二のその一言で一斉に鞄や引き出しから次に使う教科書を取り出した。

 それぞれ別の教科を。


「なんで全員違う教科なんだよ!? 次は英語だろ!?」

「なんでよ! あたしの記憶が間違ってなければ次は現代文よ!」


 残念ながら、補習のスケジュールを持っている者はこの時誰もいなかった。何故なら教科書は全て机かロッカーに置きっぱなしであるゆえ、スケジュールを気にしたことなどないのだ。

 教室に置きっぱなしなら、どうやって家で勉強してるのかと疑問におもうだろう、答えは、そもそも彼等が家で勉強などするはずも無い。


「何言ってんねん! 次は数学やろ!」

「違いますよ、保健体育ですよ!」

「何でAVだしてんだよ! ムッツリか! このエセ貴族! それは気になるから俺が没収す…………熟女モノかよ」


 健全な男子高校生としては、漣理が出してきた教本に興味を示すもので、健二は適当な理由をつけて掠め取ろうとしていた……のだが、中々濃ゆいジャンルを見て手を引っ込めてしまった。


「因みに獣姦もありますよ」


 そう言って彼は手持ちのタブレット端末に、獣に犯されてる男性の映像を流す。


「「マニアックすぎるわあああ!!」」


 健二と武尊の2人は、あまりにも期待外れどころか自分達の趣味から軌道修正不可能な程大きく歪んだモノを出されて叫ばずにはいられなかった。

 祭は3人を冷ややかに睨め付けながらボヤく。


「そもそも女子の目の前でAV流さないでよ」


 世間ではこれをセクハラという。

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