7月30日、15時ちょうど、星琳大学のラフトボールフィールドでは、赤と青に別れた16体の大小様々なラガーマシンが向かい合っている。
赤いラガーマシン8体は九重祭率いる九重チーム。
青いラガーマシン8体は星琳大学ラフトボールサークル。
フィールドの真ん中を横断するハーフラインを挟んで、彼等はポジション毎にバラけており、試合が始まるのを今か今かと待っている。
「事前に話した通り、こっちは機体の性能差でゴリ押していくわよ」
祭が通信でチーム全員に作戦を伝える。といっても作戦と言えるほど高尚なものではなく、ただ相手チームより確実に優れている……というより唯一優れている機体性能の差で強引に押し切ろうというものだ。
「それから気をつけるべきなのは白浜瑠衣のライドルよ、棒術を駆使したあの防衛術は簡単には破れないわ、躱してもまだフルバックが控えているから……おそらくハミルトンのスピード以外には切り抜けられない。
つまり私達がやるべきなのはハミルトンを守りながら相手陣地に押し込む事よ、OK?」
『OK!』
メンバー全員が一斉に返事をする。
性能差でゴリ押すという作戦は別に何も考えないで適当にふいたわけではない。事前に星琳大学ラフトボールサークルの以前の試合を何度も観て研究したうえでの対策だ。
星琳チームにはこれといって尖った性能の機体は無い、敷いてあげるなら棒術を使うライドルぐらいだ。だがそれゆえ技術というものは顕著に現れており、どの選手も優れている、正直技術的な面で勝てる見込みは0と言ってもいい。
「どーんと、胸を借りるつもりで……叩き潰すわよ!
Be Win!」
『Good Luck!!』
チーム全員で決めた掛け声を発して、彼等は各々のコックピット内でレバーグリップを強く握った。
レバーグリップの無いハミルトンの中では、気体ケーブルに全身を繋いだ上原宇佐美が静かに呼吸していた。
対する星琳大学側はやはり試合慣れしてる分九重チームよりも落ち着いているように見えた。
「相手は素人チームだが、先方から手加減しないでくれと頼まれている。だから全力で戦うぞ!」
『おう!』
「相手チームの情報は全くないが、ひとまず危険度が高そうなのは背番号16のバイクのような機体だ。あれが一番馬力とスピードがありそうだ。
それから44番のランニングバックはひとまず無視だ。あれに乗っているのは右足不随の障害者だからな、片足でのペダリングでは録に戦力にならないだろう」
「労わってあげないとですね」
『ハッハハ』
「笑ってやるな、それでもここに立つ気概は並々ならぬものだぞ」
全力でやる。そう言いつつも彼等の間には楽観的空気が漂っていた。相手が素人なのだから仕方ない。
そんな中、白浜瑠衣だけは気を抜くことなく九重チームを観察していた。
通常片足しか使えないのなら、ペダリング操作の少ないポジションに移動させる筈だ。例えるならタイトエンドやクォーターバック等の繋ぎのポジション。
しかし彼……上原宇佐美のポジションはランニングバック、最もペダリング操作が多いポジションについているのだ。人数が少ないから? それでも宇佐美を入れるよりは16番のバイクを入れて宇佐美のポジションを変えるべきだ。
それが無いと言うことは片足ペダリング対策、または片足ペダリングが両足でやるのと遜色ないレベルにある、そのどちらかだと思われる。
どちらにしろ答えは試合が始まるまで、または終わるまでわからないのだろう、瑠衣はひとまず自分だけは油断しないようにと心に決める。
「よーし! 俺達星琳大学ラフトボールサークル最後の試合だ! 悔いの残らないよう楽しんでいくぞぉ!」
『おう!!!』
そしてスタータードローンが試合開始のベルを鳴り響かせた。
ラガーマシンに乗っていなければ鼓膜が超新星爆発していたかもしれない程甲高いベルと共に、ハーフラインのセンターからボールが射出されて宙を舞う。
「これはあっしが!」
真上に打ち上げられたボールを、枦々の機体『ヘイクロウ』が高く跳んでキャッチする。その後前に出て相手の陣地を少しでも攻めておこうとした。
赤銅色の鈍いカラーリングの機体は、漣理の持ってきた量産型を改良したものだ。
心愛のクリシナと同じく尖った性能はないが、スラスターが各部に、それこそこまめにつけられており旋回性能と機動性はチームでも随一といえる。
そして腰には『センスバチ』と呼ばれる太鼓バチに似た棒が2本装着されていた。
対する星琳大学側はフロントとは思えない程の跳躍を見せるヘイクロウにやや驚きつつも(元はセンターバックなのだから当然である)、すぐ様ボールを奪うためにヘイクロウへ突撃する。
同時にヘイクロウ付近にいる健二と武尊のラガーマシンの元へ、足の早い星琳のラガーマシンがそれぞれ一機ずつ素早く肉薄してパスが通らないようマークし始めた。
「わわ、パスが」
少しでも前にでようと欲張ったのが仇になった。ヘイクロウが出せるパスは何処にもない。
後ろに投げようにも、レーダーを見る感じそう都合よく味方はいない。更に前には図体のデカいセンターフロントのラガーマシンが突撃してきてる、あと3秒で衝突する事間違いなし。避けられない。
「行きやすぜ!」
恐怖と緊張でパニックになった枦々の思考回路は、突撃する道を最善手として導き出した。
最悪手でした。
一切の抵抗も許されぬままヘイクロウは一瞬でフィールドに叩きつけられてボールを奪われてしまった。
因みに、この場合の最善手は横に投げてフィールドの外へと出して一旦ゲームを止め、改めてスローインで始める事だ。
冷静になれば簡単に思いつけるのだが、いかんせんパニックになるとそうもいかないのが人間である。
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