Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Bird Scramble ⑧

公開日時: 2021年6月15日(火) 21:08
文字数:1,811

 ACSの実験が始まってから約十分が経過したが、今のところ異常はない、滞りなく終わりそうであった。

 遠巻きにみていた厚と大蔵はほっと安堵していた。

 

「あらやだ宗十郎さんたらコマネチしてるわ、今時あんなネタが通じる若者なんていないのに」

「コマネチってなんだ?」

「ごふっ」

 

 思わぬところでジェネレーションギャップのボディブローを受けた大蔵が呻く、かました厚本人に当然その自覚はないので気にせず実験を見守っていた。

 そろそろ十五分も経とうという頃、どこから入ってきたのか祭が厚の隣にひょこっと現れた。

 どういうわけかまだ小学校も卒業してないのに中学の制服を着ている。

 

「お嬢、ここは関係者以外立ち入りだぞ」

「私だってお父さんの娘っていう関係者だもん」

「入っちゃったものは仕方ないわよ、後で送ってあげましょ」

「さっすが漢女おとめはわかってるぅ!」

「ふふぅん、あたしは乙女だからわかっちゃうのよねぇ、それに今日の祭ちゃんとってもキュートよ。乙女回路にビンビンきちゃった」

「えへへ、昨日入学する中学の制服が届いたんだけど待ちきれなくて着ちゃった。ねぇ鳥山、どうどう? 似合ってる?」

 

 といってその場でくるりと回って制服を見せびらかす。スカートが翻って大分際どいところまでめくれ挙がったのだが祭は気付いていない。

 

「ふむ、毛糸のパンツはもう卒業しといた方がいいんじゃないか?」


 どうやら先程くるっと回った時に見えていたらしい。祭の顔は耳まで真っ赤に染め上がりスカートを抑えながら若干涙目になりながら「バカ! バカ! バァァァカ!」と稚拙な暴言を厚に浴びせかけたが、厚本人は興味が無いのか実験に目をやっていた。「今日はたまたまこれしか無かったから」という祭のボヤキも無視された。

 

 そんなやり取りはいざ知らず、実験中の宗十郎は次の段階に進むため一度止まってその場に膝をついた。

 

『よし、ガスケーブルの濃度を上げて同調率を高めてみよう』

『濃度を五パーセント上げます』

 

 研究員がキーボードを操作してガスケーブルの濃度を上げた。宗十郎は身体にズシリと重い何かを感じながらも、ハミルトンをより自分の身体のように身近に感じられるようになった。

 ガスケーブルの濃度は単純にカプセルの充満率でもある、この濃度が高くなればなるほど機体とより強く同調して反応速度が上がるのだ。

 反面、同調率が上がれば上がるほどパイロットにかかる負担、機体から受けるフィードバックが大きくなり消耗が激しくなる。


『いいぞ、軽い』

 

 言葉自体は軽いが、発した宗十郎の口調はたいへん苦しげなものだった。そこに異様な空気を感じ取った研究員が中止を申し出る。

 

『バイタルが不安定です! ガスを排出しろ!』


 宗十郎の返事を待たずに他の研究員がコンソールを操作してガスの排出を試みるが、何度やっても何故か排出が始まらない。


『ガス排出失敗!』

『続けろ! 原因はなんだ!?』

『わかりません、突然こちらからの指令を無視しだしたんです』

『何がおきてる』

 

 研究員達が慌てふためいている頃、渦中の宗十郎もまた自身に起きてることに戸惑いを見せていた。

 まず動悸が激しい、モンスターエナジードリンクを一気飲みした時以上の速さで今すぐにでも胸をはちきりそうだ。

 同時に視界がブラックアウトして完全な闇となった。手足の感覚も失われており、また思考力も低下して自分がハミルトンなのか宗十郎なのか境目があやふやになってわからなくなってきている。

 

(このままではマズイ、しかし)

 

 ガスの充満度はもう百パーセントどころではないだろう、おそらくカプセルの隙間から漏れ出るほど溜まっている。

 身体の感覚がほとんどない、まるで水になったかのようだ。唯一心臓の動悸が早いおかげで自分が人である事を認識できている。

 

(頭が……ロクに考えられない……まるで知性が吸い出されてるかのようだ)

 

 おかげで徐々に意識が遠くなる、だがそれと同時にハッキリ感じるものがある。時間が経つ度に何か別の存在を感じるのだ。それが何なのかはわからないが、間違いなくここに、ハミルトンの中にいる。

 

(お前……誰だ)


 謎の存在は宗十郎の疑問に答える事はなかった。

 

『ガスの排出成功!』

『カプセル解放!』

 

 研究員達の声が宗十郎の耳に届いた。聞きなれたカプセルの開閉音がした後、閉じた瞼に眩いばかりの照明の光が突き刺さった。


「ハミルトンは……生きている」

 

 薄れゆく意識の中、それだけを呟いて彼は気を失った。

 以降、宗十郎の意識は戻っていない。

  

 

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