Robotech Touchdown 〜ロボテック タッチダウン〜

失った足を代替して頂点を目指す
芳川 見浪
芳川 見浪

Love Heart Attack ②

公開日時: 2020年10月14日(水) 21:07
文字数:2,104

 武者小路むしゃのこうじ枦呂ろろと名乗った少女は、胸ポケットから何かの免許証を取り出してチラつかせた。

 それは祭も見覚えのあるもので、というより先日取得したラガーマシンの免許証と同じ物であった。


「あんた、ラフトボーラーなの?」

「残念ながら違いやすぜ姉御」

「……姉御……」

「あっしは免許を取得しただけの一般人でさぁ、ラガーマシンも持っていなければチームにも入っておりやせぬ、言わば素浪人! 盲目のマッサージ師!!」


「何処の座頭よ!?」

「つまりあっしは、あっしが加入できるチームを探していたんでさぁ、そんで聞くところによると姉御はラフトボールのチームを作ったとか」

「まあね……てか姉御呼びは確定なのね」

「というわけであっしをチームにいれてくだせぇ!!」

「いいわよ」

「よっしゃあああああ」


 天高く拳を突き上げる枦呂、天井には届いてないが、拳の先から放たれる謎の気迫めいたものはきっと空高くまでぶち破ったに違いない。


「ところで、どうして私がラフトボールやってるって知ってたの?」

「隣のクラスに転入してきた変なロボットから聞きやした」

「クイゾウかよ……奏の状態でもそれくらいのコミュ力あれば苦労しないのに」


 奏はクイゾウを通さないとまともにコミュニケーションがとれない、宇佐美が家に来た時もガチガチに固まっていた。


(健二君達への紹介はどうしようかしらね)


 クイゾウが遠隔操作だというのは伝えてあるが、まだ本体の奏には会わせていない。宇佐美1人の時ですらオドオドしていたのに、男3人と顔合わせさせたらどうなる事やら、しかも1人はヤンキーである。


(まずは宇佐美君で練習させようかしら)


「それで姉御、あっしはとりあえずどうしやしょう」

「む、そうね……ちょうどこれから全員集まるし、紹介するからついてきて……いや、特別クラスまで案内してちょうだい」

「了解っす〜、任せて欲しいっす」

「その口調はとあるロボットと被ってややこしいわ」


 ひょこひょこ歩く枦呂を先頭に、祭は見慣れぬ廊下を歩き進む。初日から不愉快な事が起きたが、収穫もあるため中々上々な滑り出しだと評価できる。

 だが翌日以降、祭は更なる面倒ごとに首を突っ込むことになるのだが、この時はまだその事を想像すらしていなかった。









 水篠みずしの心愛みあは祭と別れた後、駆け足で先に教室を出た友人達へ追いついて合流した。


「いやぁマジでムカつくわあいつ、金持ちだからってイキっててさ」

「里沙ったら珍しくプッツンしてたよね」

「マジないわー、カネモだから色々タカれると思ったのに。ケチくさくない?」

「わかるー、てかなんでこんなフツーの学校に来たのよ」

「きっと前の学校でやらかしたからだって」


 心愛が追い付いた時、二人はさっきの祭とのやり取りについて不平不満を語り合っていた。

 里沙と呼ばれる少女は、祭に向かって正面から罵ったため嫌悪感がひとしお大きいのだろう。

 もう片方、美希という名の女生徒は不快感というより、侮蔑できる対象の存在が楽しいようで、特に理由も意味もなく里沙に賛同して嘲っていた。


「あ、心愛遅ーい。置いてっちゃうとこだったよ」

「ごめんごめん」

「じゃあ鬱憤晴らしにカラオケいこー、あっ今日も心愛の奢りね」

「う、うん」


 心愛は断る事が出来ず、苦々しい笑みを浮かべて頷いた。いつもの事だと割り切るしかやっていけない、そう思いつつも心の中では黒いモヤモヤが漂っていた。


(九重さんは凄い、私もあれくらい強ければ)


 いつこうなったのかはわからない、しかし学年カーストでトップにいるこの二人についていれば、自分が虐められるという事はない。平穏な学生生活を送るためには必要な処世術なのだ。

 それゆえ、祭のようなハッキリと物を言える姿に憧憬の念を抱かずにはいられなかった。


「あっ、ガイジだ」



 美希が呟いた。

 顔を上げると、廊下の向こうから特別クラスの男子生徒がこちらへと歩いて来ている。名前は知らないが、確か足が不自由だった筈。

 その証拠に左手で杖をついて二足動作歩行をしていた。


「うーわ最悪」

「歩き方キッモ」

「ねえねえ」


 里沙がイタズラを思い付いた子供のような顔を浮かべて美希へ耳打ちする。

 心愛は何事かと様子を伺っていると、不意に二人がこちらを振り向いて。


「まあ見てなさい」


 そう言って男子生徒へ向かっていく、そのまま二人は通り抜けるのかと思いきや、すれ違いざまに杖を、それも左足を上げた瞬間を狙って足払いしたのだ。

 当然男子生徒はバランスを保てず床に手をついて倒れる。


「いたた」

「プッ、だっさ」

「フフ」


 冷笑一つ、里沙と美希は床に倒れている男子生徒を見下して歩き去ろうとする。

 心愛はその光景を複雑な心境で見つめていた。二人がやった事は許される行為ではないし、心愛自身も不快感と罪悪感で胸が締め付けられている。

 それゆえ本来は窘めるべきなのだが、心愛の声帯は怯えでうまく震えず、思った事を口にする事が出来ない。


 もし二人を窘めて不興を買えば明日から何をされるかわからない、実際里沙と美希は、中学時代に何人かを虐め抜いて不登校に追いやったという話しを聞いた事がある。

 怖い、足がすくむ。


 ゆえに心愛はそそくさと男子生徒を無視して通り過ぎていく、すれ違う際に内心で謝りながら。








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